大きなマントを纏う無原罪の聖母 《不思議のメダイ》 銀のマドンナ・デッラ・ミゼリコルディア 母なるマリアの慈悲を強調した作例 25.0 x 15.4
mm
突出部分を含むサイズ 25.0 x 15.4 mm
フランス 1920年代頃
1910年代末または 1920年代にフランスで制作された
不思議のメダイ。めっきではない銀でできた銀無垢(ぎんむく)製品です。純度 800パーミル(80パーセント)の銀を示すパリ造幣局のポワンソン(貴金属の検質印)と、フランスの銀細工工房のマークが、上部の突出部分に刻印されています。
メダイ表(おもて)面には、蛇を踏みつけて球体の上に立つ無原罪の御宿りをあしらいます。足下の雲は聖母が天上なる
レーギーナ・カエリー(羅 REGINA CAELI 天の元后)すなわち勝利の聖母であることを表しています。聖母の両手に嵌めた指輪からは恩寵の光が発出し、雲を貫いて地上を照らしています。聖母の周囲を、執り成しを求める祈りの言葉が取り囲んでいます。
Ô Marie conçue sans péché, priez pour nous qui avons recours à vous. 罪無くして宿りたまえるマリアよ、御身に頼るわれらのために祈りたまえ。
(上)
フレデリック・ヴェルノン作プラケット 「エヴァ」 79.3 x 29.9 mm 最大の厚さ 5.2 mm 重量 75.0
g フランス 1976年 (1905年の復刻)
当店の商品です。
悪魔は蛇の姿を取ってエヴァを誘惑し、善悪を知る木の実を食べさせました。このことを知った神は、蛇に向かって次のように言っておられます。
お前と女、お前の子孫と女の子孫の間に / わたしは敵意を置く。/ 彼はお前の頭を砕き、/お前は彼のかかとを砕く。(「創世記」 三章十五節 新共同訳)
神のこの言葉を踏まえ、蛇の支配を受けず、その身に罪を帯びない
無原罪の御宿りは、蛇を踏みつける姿で描かれます。本品においても聖母は
被造的世界を表す球体上に立ち、足下に蛇を踏みつけています。
神がお創りになった被造的世界の完全性はエヴァの罪によって破られましたが、マリアはメシアを産むことで、世界の完全性を回復しました。「エヴァ」(ハワ)はヘブライ語で「生命」という意味です。聖母は生命を与える「新しいエヴァ」です。
「アヴェ、マリス・ステーッラ」(羅 AVE, MARIS
STELLA 「めでたし、海の星よ」)では、「かの言葉
『アヴェ』を
ガブリエルの口から与えられし御身よ。エヴァという名をアヴェに変え、平和のうちに我らを憩わせたまえ」(羅 SUMENS ILLUD AVE GABRIELIS
ORE, FUNDA NOS IN PACE, MUTANS EVAE NOMEN)と謳われています。
(上) リュドヴィク・ペナン、ジャン=バティスト・ポンセ作 「フランス王 聖ルイ」「めでたし、十字架よ。唯一の望みよ」 美術品水準の小メダイ 直径 15.7 mm
当店の商品です。
フランスの守護聖人のひとりでもある
ルイ九世(Louis IX de France, 1214 - 1270 在位 1226 - 1270)は、信心深い母の影響で宗教に深く帰依した「聖王」として知られます。「フランスはカトリック教会の長姉である」(La France est la
fille aînée de l'Eglise.) という言葉がありますが、この言葉を初めて使ったのはルイ九世であると言われています。ルイ九世はフランスを「教会の長姉」とし、パリを信仰の一大中心地とすることを目指しました。
(上) キリストに身を投げかける悔悛のガリア。背景は 1914年9月4日のドイツ軍による空襲で炎上するランス司教座聖堂ノートル=ダム。ノートル=ダム・ド・ランスは歴代のフランス国王が戴冠した司教座聖堂です。手前に
ジャンヌ・ダルクの騎馬像が見えます。戦時ゆえか、ガリアは
コロナ・キーウィカを着けています。参考商品。
しかるに「教会の長姉」であるはずのフランスは、
聖女マルグリット=マリ(Ste Marguerite-Marie Alacoque, 1647 - 1690)に与えられた啓示に耳を貸さず、
聖心すなわち神の愛をないがしろにして神の愛に背きました。十九世紀になって自らの過ちに気付いたフランスは、
「悔悛のガリア」(羅 GALLIA PŒNITENS)としてその罪を悔いました。
本品は第一次世界大戦後の戦間期に制作された作品ですが、聖母は口元に微かな笑みを浮かべつつも、その表情には愛と悲しみが入り混じっているように思われます。本品に刻まれたマリアは、過ちを繰り返して自らを傷つけ続ける放蕩娘フランスに、変わらぬ慈母のまなざしを注ぎ、この国を神に執り成しつつ、娘の傷を癒すために恩寵を注いでいます。
本品の浮き彫りを注意深く観察すると、聖母のマントがたいへん大きなサイズであることに気付きます。このマントを広げれば、すべての人をその下に匿(かくま)うことができます。すなわち本品の聖母は、マドンナ・デッラ・ミゼリコルディア(伊
madonna della misericordia 憐れみの聖母)に他なりません。
下の写真はピエロ・デッラ・フランチェスカによる「慈悲の聖母」です。この作品はピエロ・デッラ・フランチェスカがサンセポルクロ(Sansepolcro トスカナ州アレッツォ県)のミゼリコルディア信心会(la
Confraternita della Misericordia)から注文を受けて制作した多翼祭壇画の中央パネルで、現在は当地の美術館に収蔵されています。聖母の右側(向かって左側)には死刑執行人の姿も見えます。
(下・参考画像) Piero della Francesca,
"Madonna della Misericordia", 1460 - 1462, tempera e olio su tavola, 134 x 91 cm, Museo Civico, Sansepolcro
自国が戦争に巻き込まれれば、軍人、軍属として直接的に戦闘に関わる場合はもちろんのこと、後方支援に携わる場合も、相手国に人的、物的な損害を与えることが仕事となります。平時であれば重大な犯罪であるはずの行為が一時的に奨励され、これを忌避すれば罪にさえ問われるという異常な状況が発生します。
しかるに神の法は不易ですから、社会の状況が平時に戻り、正気に戻った軍人たちは、自らが犯した罪の意識に苛まれることになります。
第一次世界大戦は、史上初めて一般市民を標的にした大量殺戮戦でした。ドイツから仕掛けられた戦争であれば、フランスは自衛のためにも戦わざるを得ません。しかしながらドイツ兵とて一人の弱い人間であり、上官に動かされているだけです。いわんや敵国の一般市民や子供たちに罪はありません。侵略者である敵兵を殺せば、誰かから息子、夫、父を奪うことになります。
敵の殺害を職務とする軍人の立場は死刑執行人に似ていますが、死刑執行人が殺すのは罪人であるのに対し、軍人はたまたま相手国に生まれた人を、死に値する理由無く殺すのです。その良心の呵責は如何に大きいことでしょうか。
本品のメダイの聖母は、国にも民族にも関わりなく、すべての人をマントの下に匿(かくま)い、神に執り成し給います。聖母の手からは、神の愛を受け容れるすべての人に恩寵が降り注ぎます。そのさまはあたかも傘を差さないすべての人に恵みの雨を注ぐかのようです。神の愛を忘れて戦い、疲弊した人々の心に、その慈雨は優しく沁み透ってゆきます。
上の写真に写っている定規のひと目盛は、一ミリメートルです。聖母の顔は直径ニミリメートル弱、手の幅は一ミリメートル弱という極小サイズにもかかわらず、グラヴール(メダイユ彫刻家)はビュランを十分の一ミリメートル以上の精度で完全にコントロールし、反逆を繰り返す娘フランスに一抹の悲しみが混じった眼差しを注ぐ聖母の愛を、見事に可視化しています。柔らかな衣に包まれた聖母の女性らしい体つきや衣文(えもん 衣の襞)、裸足で踏み付けられる蛇などの細部も、実物を見るかのような臨場感を以て再現されています。
裏面には "M I" と十字架のモノグラム(組み合わせ文字)を大きく刻み、その下に
イエスの聖心と
聖母の聖心を浮き彫りにしています。"M I" は「マリア・インマクラータ」(MARIA IMMACULATA 無原罪のマリア)のイニシアルです。イエスの聖心は
茨の冠に囲まれて血を流しつつ、人に対する愛の炎を燃やしています。
ロサーリウム(薔薇の花輪)に取り巻かれた聖母の聖心は、
悲しみの剣で貫かれて血を流しながら、神とイエスに対する愛の炎に燃えています。これらの図像全体を、十二個の星が取り囲んでいます。
上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真よりもひと回り大きなサイズに感じられます。
本品の制作年代は 1910年代末から 1920年代頃の戦間期です。二十世紀初頭のヨーロッパでは富の大半が富裕層に集中し、一部の富裕層以外は、全員が下層階級と言っても過言ではありませんでした。第一次世界大戦後、社会の二極分化は幾分緩和されはしましたが、二十世紀前半の庶民にとって、本品のような銀無垢製品は未だ入手困難な高級品でした。それゆえ本品は特別な機会に贖われた品物であり、保存状態の良さからも大切に伝えられてきたことが分かります。
純度八百パーミル(八十パーセント、800/1000)の銀は、フランスのアンティーク・メダイに使用される最も高級な素材です。「不思議のメダイ」はさまざまな彫刻家やメダイユ工房によって数多くの種類が制作されていますが、銀無垢の本品は、そのなかでも特別な品物であるといえます。大きなマントを纏(まと)った無原罪の御宿リは、母の慈愛を以てすべての人を匿い、神に執り成し給います。無条件の母の愛は、銀が象徴する清らかさのうちに、すべての罪と苦しみ、悲しみを溶かして消し去ります。
本品はおよそ九十年前のフランスで制作された古い品物ですが、保存状態は良好です。突出部分の摩滅はメダイに優しい丸みを与え、現代の品物とは一線を画す趣きがあります。特筆すべき問題は何もありません。
本体価格 14,800円 販売終了 SOLD
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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