未販売の新品 フランス、オリア製メダイユ 《お言葉通り、この身に成りますように 直径 20.5 mm》 神の愛に包まれるマリア 1960年代


突出部分を覗く直径 20.5 mm



 少女マリアの横顔を浮き彫りにしたフランスのメダイ。十九世紀末に設立されたメダイユとビジュ・ド・ファンテジ(仏 les bijoux de fantaisie コスチューム・ジュエリー)のブランド、オリア(Oria)が、1960年代に制作した美しい作品です。本品はレプリカ(複製品)ではなく、六十年近く前に作られた真正のアンティーク品(ヴィンテージ品)ですが、たいへん珍しいことに販売されず、新品のまま残っていました。

 オリア(Oria)は 1897年に設立されたジュエリー・ブランドです。フランソワ=オーギュスト・サヴァール(François-Auguste Savard, 1803 - 1875)のフィクス(Fix)、シャルル・ミュラ(Charles Murat, 1818 - 1897)が 1847年に設立したミュラ(Murat)に比べると、オリアは後発ブランドです。しかしながらオリアのジュエリーの品質はフィクス、ミュラに比べて引けを取らず、1924年のナント博覧会で金メダル、1929年のバルセロナ博覧会で金メダル、1930年のアントワープ博覧会でも特別賞、1931年のパリ博覧会で大賞を獲得しています。





 現代の宗教画において、聖母の衣は青や白で表現されます。ステンドグラスにおいてゴシック期から、絵画においてプロトルネサンス期頃から、が聖母の衣に使われ始めました。白が目立つようになったのは十九世紀以降で、これは無原罪の御宿りの思想が美術に及ぼした影響です。しかしながらロマネスク期以前の図像では、聖母の衣をくすんだ暗色に表現するのが普通でした。これは喪衣の色と考えられています。

 中世西ヨーロッパの貴族社会において、女性はしばしば男性よりも教育がありました。女性たちは「詩編」を教材に識字教育を受けていたのです。聖画やメダイで時おり見かける「少女マリアに教育を施す聖アンナ」の図柄は、当時の貴族社会の状況を反映しています。中世の人々はマリアに様々な属性を帰しましたが、教育のある女性、旧約の預言に通暁した教師というのも、マリアの属性の一つでした。

 古代の教父たちも、普通の女性、普通の母がとても及ばない優れた智慧と洞察を、聖母に帰していました。シメオンの預言を聞いた際、マリアは受難に至るイエスの生涯を予測し、しかも救世の経綸におけるイエスの役割を誰よりも理解していたために、預言を聞いても動じなかったし、イエスが十字架上に刑死してまったく悲しまなかった、とさえ考えられました。マリアがマーテル・ドローローサとして表されるようになったのは、十二世紀以降のことです。それまで千年余りの間、マリアは不動の信仰の持ち主であるために、息子が死んでも悲しまなかったと考えられていたのです。






 受胎告知は「ルカによる福音書」一章二十六節から三十八節に記録されています。新共同訳により、該当箇所を引用いたします。

     六か月目に、天使ガブリエルは、ナザレというガリラヤの町に神から遣わされた。ダビデ家のヨセフという人のいいなずけであるおとめのところに遣わされたのである。そのおとめの名はマリアといった。
     天使は、彼女のところに来て言った。「おめでとう、恵まれた方。主があなたと共におられる。」マリアはこの言葉に戸惑い、いったいこの挨拶は何のことかと考え込んだ。すると、天使は言った。「マリア、恐れることはない。あなたは神から恵みをいただいた。あなたは身ごもって男の子を産むが、その子をイエスと名付けなさい。その子は偉大な人になり、いと高き方の子と言われる。神である主は、彼に父ダビデの王座をくださる。彼は永遠にヤコブの家を治め、その支配は終わることがない。」
     マリアは天使に言った。「どうして、そのようなことがありえましょうか。わたしは男の人を知りませんのに。」天使は答えた。「聖霊があなたに降り、いと高き方の力があなたを包む。だから、生まれる子は聖なる者、神の子と呼ばれる。あなたの親類のエリサベトも、年をとっているが、男の子を身ごもっている。不妊の女と言われていたのに、もう六か月になっている。神にできないことは何一つない。」
     マリアは言った。「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように。」そこで、天使は去って行った。





(上) クレール・ドミニク・ローラン作 《マーグニフィカト わがこころ主をあがめ》 パリ造幣局のブロンズ製大型メダイユ 直径 63.1 mm 最大の厚さ 5.9 mm 重量 126.4 g フランス 1982年 当店の商品です。


 姦淫を犯した女のペリコペーの解説で、「レビ記」二十章、及び「申命記」二十二章の規定を示しました。人妻が夫以外の男性と、また娘が婚約者以外の男性と性交した場合、その性交が同意のもとで行われたのであれば、男女ともに石打ちで殺されます。強姦の場合、男のみが殺され、女は罪に問われません。

 マリアには性交の相手がありませんが、世間がそのような奇跡を信じるはずはありませんから、婚約者以外による妊娠が発覚すれば、男の名前が厳しく追及されるでしょう。追及を逃れるために「強姦されたのです」と答えるとしても、それならばそれで犯人を捕らえるために厳しい調べが行われ、マリアの説明に辻褄の合わない点が露呈するでしょう。それゆえ婚約者ヨセフが関知しないところで妊娠したマリアは、普通に考えれば絶体絶命の窮地に立たされたことになります。それにもかかわらず当時十三歳ほどの少女マリアはガブリエルの言葉をそのまま受け入れて、受胎(妊娠)の告知を喜びました。マリアの喜びは大きくて、仲の良いエリザベトにこれを知らせるため、四、五日の旅程を歩いて会いに行ったほどでした。





 福音書は文学作品ではなく、イエスの公生涯の記録を通して救済の経綸(けいりん 神の計画)を示すことを唯一の目的としています。それゆえ登場人物の感情が描写されることはまれで、聖母の七つの悲しみに関しても、聖母が実際に悲しんだとは書かれていません。聖母がイエスの受難を悲しまなかったという十一世紀までの解釈は、ここに由来します。

 しかしながら受胎告知に関しては、エリザベトを訪問するという行動によって、少女マリアの喜びがはっきりと記録されています。上に記したように、婚約者を持つ十三歳の少女が、相手が分からないまま妊娠するのは大ごとであり、通常ならばマリアは絶望してもおかしくない状況です。それにもかかわらずマリアははちきれんばかりの喜びに満たされ、四、五日もかかる行程も苦にせずに、歩いてエリザベトに知らせに行きました。

 マリアが悲しまなかったという説が正しいかどうか、筆者(広川)には分かりません。しかしながらマリアは天使が突然家に入ってきても平常心で言葉を交わし、妊娠を告げられても動揺せずにそのまま受け入れました。この少女の信仰の堅固さは、確かに驚嘆に値します。





 フランスの作品であっても、純然たる美術分野の浮き彫りは円形のメダイユだけでなく、方形のプラケットもかなりの割合で制作されています。しかるに信心具に属するキリストや聖母マリア、諸聖人のメダイユ(メダイ)は、円形または楕円形の作例が大多数を占めます。とりわけ本品は円形の後光を三重の円が囲んでおり、円を強調した意匠となっています。

 と同様に、円は天上界の象徴です。天を球または円に関連付けると考える思想は、我々東洋人にとってもなじみ深く感じられます。北京の天壇は円形プランに基づいて建てられています。インドのストゥーパも半球状、あるいは円筒に半球を載せた形に築かれ、頂部に円盤を多層に連ねた相輪を有します。我が国の仏塔は基壇及び屋根と裳腰が方形ですが、相輪はやはり円を連ねます。我が国の祭祀施設に関して時代を飛鳥以前に遡れば、古墳の石室は方形ですが、天井は石材をラテルネンデッケ(独 eine Laternendecke)に組む例が見られます。石川県能登島にある蝦夷穴古墳の雄穴及び雌穴は、石室がラテルネンデッケ様の天井を有します。京都大学・明石高専の村田治郎教授はこの構造の天井を「隅三角状持ち送り式天井」と名付けておられます。ここにラテルネンデッケが採用される理由は、筆者(広川)が思うに、天井に丸みを持たせたいということしか考えられません。




(上) William Cunningham, "The Cosmographical Glasse, conteinyng the Pleasant Principles of Cosmographie, Geographie, Hydrographie or Navigation", London, John Day, 1559.


 プトレマイオスの宇宙論に基づく天球の構造は、上の図が示す通りです。地球のすぐ上から外側に向かって、アエール(羅 AER 空気)またはアエール(希 ἀήρ 空気)、ファイア(古英 fier)、七層の天(内側から順に、月天、水星天、金星天、太陽天、火星天、木星天、土星天)、恒星が張り付いたファーマメント(英 firmament 支え、土台)となっています。天球はクリスタリン(古英 cristalline 透明天球)と呼ばれる外殻に包まれており、その外側にプリームム・モビレ(羅 PRIMUM MOBILE 動かされる第一のもの)があります。

 宇宙の諸事物の動きを遡ると、最終的には神に行き着きます。神こそが諸事物に最初に動きを与えるプリームム・モウェーンス(希 τὸ πρώτη ἀκίνητον 羅 PRIMUM MOVENS)、アリストテレス哲学において「動かされずに動かす第一動者」です。クリスタリンに包まれた天球は、プリームム・モビレの仲立ちにより、第一動者(神)と繋がっています。





 キリスト教の神はエッセの純粋現実態(羅 ACTUS PURUS ESSENDI)であって、如何なる物体性も有しません。それゆえ神に形はありませんが、球として表象された無限に大きなもの、あるいはプリームム・モビレとのアナロギア(希 ἀναλογία 羅 ANALOGIA 類比)により、球を神の象徴と考えることは許されるでしょう。しかるに球と円は、キリスト教の象徴体系において、同様の象徴的機能を有します。

 したがって円に囲まれてほほ笑む本品のマリアには、愛なる神の内に抱かれる少女の卓越した信仰が形象化されていると言えます。写真では金属光沢がうまく写っていませんが、本品の実物は半艶消し仕上げで、柔らかな金の光を放っています。浮き彫りにされた衣の襞は自然に流れ、メダイの金属に置き換わった後も揺らめいているかのように見えます。


 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。

 本品はレプリカ(複製品)ではない真正のアンティーク品ですが、六十年近く前に作られたまま販売されず、見本としてメダイユ店に展示されていた未使用品です。裏面下部に擦過痕があるのは、見本展示用の台座と擦れ合ったためです。表(おもて)面の浮き彫りも、長い年月の間に何かと重ね合わされて擦れ合ったらしく、突出部分のめっきにわずかな摩滅が見られます。しかしながら表面の摩滅箇所は、肉眼で実物を見てもまったく判別できません。本品をペンダントとして実用する場合、表(おもて)面が何かと擦れ合うことはほとんどありませんし、オリアのメダイは金の層が厚いので、金色は薄くなりません。ご安心ください。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品のように美麗なメダイは、多くの場合、初聖体あるいはコミュニオン・ソラネルを受ける少女のために買い求められたものです。聖体を拝領する少女はキリストの花嫁であり、ローブ・ド・マリエ(仏 robes de mariée 花嫁のローブ、ウェディング・ドレス)を身に着けます。ヨーロッパ絵画の伝統において、未だイエスを産んでいないマリアは十三歳ぐらいの少女として表されます。本品のマリアも初々しい少女として表現されており、ちょうどそれぐらいの年齢で聖体を受けるフランスの少女たちの身を飾るのに、如何にもふさわしく思えます。

 なお初聖体のときに身に着けたメダイやシャプレは、一度きりしか使われない飾りではありません。とりわけオリアのメダイは大人の女性が愛用するにふさわしい上質さを備え、末永く愛用できます。本品は未使用品であるゆえに、特定の少女の記念品ではありませんが、無垢な心を失わない女性にご愛用いただきたい小さな美術品となっています。





 本品は古い品物ですが、新品の状態のまま保存されています。ヒッポのアウグスティヌスは、「光は神から発する唯一の可視的なものである」と考えました。半艶消しに仕上げられた金の柔らかな光は、穢れなき乙女マリアを包む神の愛を視覚化しています。

 およそ六十年前のフランスで制作された本品は、現代品に比べて格段にクラシカルな高級感を備えます。本品はペンダントとして大きすぎず、小さすぎず、金の輝きもたいへん上品であり、時と場を問わず日々ご愛用いただけるメダイユに仕上がっています。下記は本体価格です。





本体価格 12,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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