十九世紀の自立式カニヴェ 《聖母に倣う初聖体の少女》 ロザリオに囲まれた紙人形と、青いリボンによる立体的な作例 112 x 86 mm

canivet à système de la première communion, fin du XIXe siècle,
par un éditeur inconnu, avec une communiante en relief habillée de soie fine et un nœud de ruban bleu


厚紙製台紙の縦横のサイズ 112 x 86 mm (突出部分を除く)

フランス  1880 - 1890年



 十九世紀末のフランスで制作された初聖体のカニヴェ。「カニヴェ・ア・システム」(un canivet à système) と呼ばれる種類の作例で、幾つもの部品を組み合わせて立体的な表現を実現しています。





 本品は厚紙製台紙に少女の紙人形を貼り付け、手前に楕円形の窓を取り付けています。楕円形の窓の上下左右には蛇腹に折り畳まれた切り絵細工の紙が付いていて、これを展伸すると楕円形の窓が台紙を離れて浮き上がり、立体的な額縁になります。

 台紙の上部にはふたりの天使が貼り付けられ、台紙の上部に突出しています。天使に施された銀彩は歳月を経てくすみ、アンティークにふさわしい落ち着いた色になっています。台紙の背部には紙製の脚が貼り付けられていて、これを少し後ろに引くと、カニヴェを自立させることができます。





 楕円の額縁にはエンボス(型押し)と金彩が施され、額縁の外側は聖母の象徴であるロザリオ(薔薇の花環)に囲まれています。薔薇の切り紙細工には、石版によるベージュと茶色の着色が施されています。額縁部分の最下部では、マーテル・ドローローサ(悲しみの御母)の汚れなき御心が、の冠に囲まれて愛の光を放っています。





 額縁部分の最上部には金の冠があって、両側のふたりの天使がこれを奉持しているように見えます。冠にはフルール・ド・リスが付いており、額縁最下部の汚れなき御心と考え合わせれば、聖母のものであることがわかります。しかしながら額縁の中にいるのはフランスの少女であって、聖母マリアではありません。このことから本品は「聖母のまねび」、すなわち聖母に倣う生き方を主題としていることが分かります。





 このカニヴェは十二歳の子供の初聖体を記念しています。本品は少女のもので、額縁の最上部には青いリボンが飾られています。リボンは長い年月のうちに褪色して白に近くなっていますが、百数十年前に本品が作られたときは鮮やかなブルーであったはずです。

 現代では「青は男の子の色、ローズ(ピンク)は女の子の色」とされています。しかしながら 1930年代頃までは、青とローズが現代と同様に使い分けられる場合もありましたが、現代とは逆に「青は女の子の色、ローズ(ピンク)は男の子の色」と考える人も多くいました。「青は男の子の色、ローズ(ピンク)は女の子の色」という考え方が決定的に優勢になったのは二十世紀後半のことであって、二十世紀前半までは逆の考え方も有力だったのです。服の色に関しても、1930年代まで、男の子がローズを、女の子がブルーを着用するのは、まったく普通のことでした。本品の制作年代は 1880年代ないし 90年代頃ですから、女の子のカニヴェに青いリボンが飾られても、何ら不思議はありません。


 青いリボンが使われているもうひとつの理由は、本品が「聖母のまねび」(聖母に倣う生き方)を主題としているからです。青は聖母の色です。

 本品が制作された十九世紀末のフランスは、第三共和政の全盛期でした。第三共和政政府は数多くの宗教団体を国外に追放してカトリック教会と対立する一方、信仰深い人々の間では、モンマルトルに建設が進むサクレ=クール教会が象徴するように、悔悛のガリア(羅 GALLIA PŒNITENS)の精神が未だ色濃く残っていました。本品は初聖体という人生の大きな節目にあたって、両親から愛娘に贈られた品物です。青のリボン、薔薇の花輪(ロザリオ)聖母の汚れなき御心をあしらった本品の意匠には、娘が常に聖母に倣い、聖母に心を寄り添わせて、神とキリストを愛することを願う両親の祈りが籠められています。






 十二歳で初聖体を迎えた少女は花嫁の装いで、純白のドレスに純白のヴェール、純白の手袋を身に着けています。少女は右手にシエルジュ(大ろうそく)、左手に祈祷書を持ち、大人への仲間入りをするために、祭壇に向かって進み出ようとしています。

 少女の頭部と両手、持ち物は多色刷り石版画で刷られています。ドレスとヴェールは非常に薄く目が細かい絹でできており、ドレスには身頃とスカートに細かいプリーツが作られています。ドレスとヴェールの絹布にはパラフィンよりも固い何らかの天然蝋を浸み込ませてあって、整った形を保持するとともに、トランスルーセント(半透明)となり、純白のドレスが光を反射する様子、チュールが透ける様子が巧みに表現されています。

 初聖体のカニヴェには、本品のように女の子の紙人形を別作して貼り付けたものがたまにありますが、大抵の場合、ヴェールのような半透明部分はパピエ・ド・リ(papier de riz ライスペーパー 薄葉紙の一種)でできています。私は強度の近視で、ルーペを使わなくても微細なものが良く見えますが、本品に使われている絹布はあまりにも目が細かく薄く、特にヴェールは柔軟ではなかったので、最初は類品と同様のパピエ・ド・リだと思い込み、倍率十二倍の二重瑕見(時計修理用ルーペ)で確認するまで、非常に薄い絹布だと気付きませんでした。なるほどパピエ・ド・リよりも本物の絹を使うほうが、スカートのプリーツも柔らかく仕上がりますし、ヴェールにもきらめくような透明感が出ます。初聖体のカニヴェのなかでも、本品は手間を惜しまず、とりわけ丁寧に制作された品であることがわかります。本品の紙人形はヴェールの数か所に裂け目がありますが、全体の形は崩れておらず、ひどい汚れも無く、古い年代を考えれば十分に良い保存状態です。





 本品は台紙の裏に紙製の脚が取り付けられており、これを展開すると自立します。上の写真は十九世紀のフランス家庭のコワン・ド・デュ(仏 coin de Dieu 家庭の中で宗教色の濃い物品を飾るスペース)をイメージして、当店にて撮影しました。本品の後ろに見えているのは少年の初聖体を記念する洗礼者ヨハネルリケールです。ルリケールは少年の初聖体を記念して 1888年に制作された作品で、本品と同時代の品物です。





 本品は繊細な紙製品ですが、百数十年の歳月にもかかわらず、十分に良い保存状態です。紙人形のヴェールにはいくつもの小さな裂け目があり、切り紙細工にもところどころに欠損がありますが、ふつうに飾っていて気になるような問題は何もありません。本品に使用されている紙はすべて中性紙ですので、百年以上の歳月に多少の黄ばみは生じつつも紙自体は劣化しておらず、今後も劣化することはありません。





 上の写真は男性店主が本品を手に取って撮影しています。本品の実物を女性がご覧になれば、この写真で見るよりも大きなサイズに感じられます。

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