すべての人に向けられた救い 《蓮が表す愛のシャプレ 全長 51センチメートル》 黄楊製ビーズによるアンティーク・ロザリオ フランス 二十世紀前半または中頃


環状部分の周の長さ  67 cm

全長  51 cm


突出部分を含むクルシフィクスのサイズ  縦 39.6 x 横 21.0 mm   最大の厚み 3.8 mm

突出部分を除くクールの直径  10.4 mm


ビーズの長径と短径  8 x 7 mm   厚み 4 mm


フランス  二十世紀前半または中頃



 二十世紀前半または中頃のフランスで制作された聖母のシャプレ(仏 chapelet ロザリオ)。ビーズに黄楊(つげ)材を使用し、素朴な味わいの信心具に仕上がっています。本品のクルシフィクスは、直線的輪郭のラテン十字に、別作のコルプス(羅 CORPUS キリスト磔刑像)を鑞(ろう)付けしています。


 本品十字架の意匠はアカンサス(唐草)を中心とする植物文です。アカンサスはコリント式柱頭をはじめ各種物品に使用される古典的な意匠ですが、キリスト教の文脈で解釈するならば、アカンサスすなわちハアザミは死の形象化でもあります。






(上) ラファエロ「鶸の聖母」 修復の前後と鶸の拡大 Raffaello Sanzio, "La Madonna del Cardellino", c. 1506, olio su tavola, 107 x 77 cm, la Galleria degli Uffizi, Firenze. ハアザミの種を好んで食べるゴシキヒワ(Carduelis carduelis)は、世の罪を除くキリストを象徴し、数々の聖母子像に描かれています。


 中世ヨーロッパの伝承によると、キリストの十字架は枯死した生命樹からできていました。すなわちエデンの中心部には善悪を知る木とならんで生命樹が生えていましたが、人祖アダムとエヴァが原罪を犯し、神が二人を呪い給うたことにより、生命樹も枯死しました。伝承によると、枯死した生命樹の材を使用してイエスの十字架が作られました。

 「創世記」三章十八節によると、神はアダムに向かって「お前に対して、土は茨とあざみを生えいでさせる。野の草を食べようとするお前に」(新共同訳)と言いました。この部分は七十人訳では "ἀκάνθας καὶ τριβόλους ἀνατελεῖ σοι καὶ φάγῃ τὸν χόρτον τοῦ ἀγροῦ" と訳されています。すなわち新共同訳が「茨とあざみを」と訳している部分は、七十人訳はアカンタース・カイ・トリボルース(ἀκάνθας καὶ τριβόλους)となっています。しかるにアカンタース(主格アカンタ ἂκανθα)、トリボルース(主格トリボロス τρίβολος)というギリシア語はいずれも棘のある各種植物を指し、これにはハアザミ(Acanthus mollis)が含まれます。要するにハアザミの唐草文で覆われた十字架は、生命樹がアダムの罪に枯死したことの象徴であり、救い主がこの十字架に掛かり給うさまは、過ぎ越しのアーグヌス・デイ(神の子羊)が世の罪を除く代受苦の姿に他なりません。





 本品の大きな特徴は、十字架交差部に八葉の蓮が彫られていることです。本品はコルプスは近代以降のフランス製シャプレに標準的なクリストゥス・ドレーンス(羅CHRISTUS DOLENS 苦しむキリスト)ですが、八葉の蓮は救い主の頭部の後ろにあって、光背を兼ねています。

 蓮はコスモス(希 κόσμος 秩序ある世界)と世界軸の象徴であり、ときに生命樹の役割をも担います。また八葉の蓮の花弁は世界の全方位を表すゆえに、救い主がすべての人のために苦しみ給うたことをも表しています。胎蔵曼荼羅(胎蔵界曼荼羅)の中央部、中台八葉院の中心には大日如来が描かれ、仏の支配が全宇宙を支配するさまが表現されます。西ヨーロッパの宗教美術においてこれに相当するのはグロブス・クルーキゲルですが、本品においては東洋風の蓮華がその役割を担っています。

 救い主の苦しみは、人知を超えた愛の可視化です。一方、胎蔵曼荼羅も仏の慈悲(愛)の可視的表現です。それゆえクルシフィクスの中心に蓮華を置いて愛の支配を表現した本品と、中心に蓮華型の中台八葉院を有する胎蔵曼荼羅の間には、見事な並行関係を看て取ることができます。クルシフィクスに東洋的要素を取り入れた本品には、世界宗教であるキリスト教のユニヴェルサリテ(仏 universalité 普遍性)と、キリスト教会のカトリシテ(仏 catholicité 公同性)が現れています。





 五連のロザリオをフランス語でシャプレ(仏 chapelet 数珠)と呼びます。シャプレ(ロザリオ)のセンター・メダルを、フランス語でクール(仏 cœur)と呼びます。クールとは心臓、ハートのことです。本品のクールは円形のメダイユで、表(おもて)面にマリアの横顔、裏面に星と百合が浮き彫りにされています。メシア出現を知らせる明るい星と、神による選びを表す百合を組み合わせた本品クールの意匠は、受胎告知の象徴的図像表現に他なりません。

 シャプレ(ロザリオ)で祈る天使祝詞(アヴェ・マリア)は神との対話であり、神による救いを受け容れる信仰の象徴です。公教会がマリアに高い地位を与えるのは、救済史における聖母マリアの役割を重視するからです。すなわち神は救いを強制せず、マリアはカイレ(希 Χαῖρε アヴェ メシアの誕生を予告する言葉)と語りかけられたのに対して、「お言葉通り、この身に成りますように」と答え、自由意思によって救いを受け容れました。本品のクールはマリアの信仰を象徴しています。





 クール(心臓)は愛の座です。現代においても、クール(ハート形)は愛の象徴とされています。愛する人の左手薬指に指輪を嵌めるのは、心臓と左手薬指を繋ぐウェーナ・アモーリス(羅 VENA AMORIS 愛の血管)を縛って、愛を逃がさないためです。それゆえマリアの心臓であるロザリオのクールは、聖母の汚れなき御心(羅 IMMACULATUM COR)、すなわち神とキリストに向かう混じりけの無い愛を表します。また聖母はキリスト者の鑑(かがみ 手本)ですから、本品のクールは聖母の執り成しと援けによって神とキリストに向かう信徒の愛をも表しています。


 本品のビーズは黄楊(つげ)でできています。黄楊は光沢のある美しい材ですので、工芸品の製作に用いられます。黄楊は英語でボックス(box)といいますが、これは箱(box)と同じ語です。箱は黄楊で作られるのでボックスと呼ばれます。箱を表す英語ボックスは、「黄楊もの」というほどの意味です。

 磨くと光沢が出る黄楊は日々の祈りに磨かれるシャプレのビーズに適していますが、シャプレに黄楊が使われる理由はそれだけではありません。古代キリシアの多神教においてハーデースは冥界の神ですが、死の神格化ではなく、地上の死の後にも続く生の神ということができます。ハーデースに娘ペルセフォネーを連れ去られて嘆くデーメーテールが、穀物をはじめとする植物の女神の役割を放棄し、地上の植物が枯れ果てても、常緑の黄楊は変わらぬ姿を保っていました。それゆえ黄楊はハーデースの聖樹とされ、古典古代以来、不死と永遠の生命を象徴します。

 また枝の主日にはナツメヤシの葉が祝別されて使われますが、北方ではナツメヤシの代わりに黄楊が使われます。それゆえ黄楊はナツメヤシと同じく、キリストへの信仰告白、救世主を迎える喜び、キリストの勝利と栄光、神との平和を表します。シャプレで祈る天使祝詞の前半は、受胎告知の引用となっています。すなわち天使祝詞はマリアが救いを受け入れたことに感謝し、その信仰をたたえる祈りであって、自らの心に救い主を受け入れる信仰告白でもあります。以上のような理由により、黄楊はシャプレのビーズに最も適した素材といえます。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。本品の十字架とクールは打刻、コルプスは打ち出しによるもので、直接的な浮き彫りで制作されてはいませんが、スクリュー・プレスのマトリクスはもともとメダユール(仏 médailleur メダイユ彫刻家)が手作業で浮き彫りを制作しています。クルシフィクス、クールとも各部が一ミリメートルに満たないミニアチュール彫刻ですが、キリスト像の人体表現、聖母の表情の表現とも大型の作品に劣らず、メダイユ彫刻の国フランスならではの出来栄えです。シャプレ(ロザリオ)は実用される信心具ですが、本品各部の彫刻は美術工芸品の水準に到達しています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりひとまわり大きく感じられます。

 本品は数十年前に制作された真正のヴィンテージ品ですが、極めて良好な保存状態です。いかにも古い時代のフランス製らしい本品の美しさは、細部まで手を抜かない作り込みによって裏付けられています。作りが見事なだけではなく、様々な象徴性を秘めた本品シャプレは、古典古代以来二千数百年に及ぶ歴史に裏付けられた品物であり、二十世紀半ばという制作年代を超える伝統を、日々使える信心具のうちに凝縮しています。





12,980円 税込み (11,800円+税)

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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