母から娘に伝えられたブレスレット型ロザリオ 「御身、母なるを示し給え」 銀と真珠母の高級品 有効長 15センチメートル


現状で適合する手首周りのサイズ 15センチメートル以下

ビーズの直径 約 11ミリメートル


突出部分を含むメダイのサイズ 32.4 x 23.8ミリメートル


フランス  19世紀後半から20世紀初頭



 19世紀後半から20世紀初頭頃のフランスで制作されたブレスレット型ロザリオ。初聖体のときに、花嫁姿の少女が持った品物です。装着時に有効な長さを平置きして測ると、およそ 15センチメートルです。標準的なサイズの手首に装着するには、チェーンかリボン、革紐などで延長する必要があります。





 本品は直径十一ミリメートルと大きめサイズのビーズを十個、使用しています。ビーズはナークル(仏 nacre 真珠母、マザー・オヴ・パール)でできており、写真では分かりづらいですが、オーソクレーズのシラー(独 Schiller アデュラレッセンス)のように、天然の貝ならではの深みのある光を放ちます。一つ一つのビーズはたいへん丁寧に制作されていますが、切り出しと研磨がすべて手作業で行われているため、形と大きさに多少のむらがあります。

 古来「この上もなく貴重なもの」である真珠は、聖書において「天国」「救い」を表し(マタイ 7:6、13:45 - 46)、後にはイエス・キリストの象徴とも考えられました。真珠がキリストの象徴であるとすれば、真珠を生み出す真珠貝あるいは真珠母(しんじゅも)は、聖母の象徴に他なりません。マリアは受胎告知を受け容れて救い主を生み、罪びとに救いをもたらしました。それゆえ真珠を「救い」や「神の恩寵」の象徴と考えるならば、真珠母は「恩寵の器」マリアの象徴であることになります。

 これに加え、真珠母はその白さによって無原罪の御宿りを象徴します。初聖体の際、キリストの花嫁である少女たちは聖母に倣い、清らかな信仰のうちに生涯を送ることを誓います。この日、少女が身に着けるドレス、ヴェール、手袋はすべて白でした。手に持つシエルジュ(大蝋燭)も白です。このような装いに、真珠母のロザリオはよく似合ったことでしょう。


(下) 絹のリボンを結んだ立体カニヴェ 「初聖体の日」 フランス 十九世紀末 当店の商品です。




 本品は少女を対象にしたフランスの信心会「コングレガシオン・デ・ザンファン・ド・マリ」(仏 la Congrégation des Enfants de Marie マリアの子ら会)のもので、同会のメダイがクルシフィクスの代わりに使われています。

 メダイの表(おもて)面は聖母の美しい立ち姿を浮き彫りで表します。聖母は右足に体重を掛け、左の膝をわずかに曲げたコントラポストの姿勢で表されているために、じっと立っているだけではなく、動きを感じさせます。聖母像に潜在する動きは、頭部をわずかに左(向かって右)に傾げ、両腕を広げて罪びとを招く姿勢によっても強調されています。この聖母は、「マリアの子ら会」会員をはじめとする地上の罪びとたちのために、天上にあって執り成しの祈りを捧げ、常に働き給う聖母の御姿です。大きなマントは「マドンナ・デッラ・ミゼリコルディア」(伊 Madonna della Misericordia 慈悲の聖母)を連想させます。




(上) Piero della Francesca, "Madonna della Misericordia", 1460 - 1462, tempera e olio su tavola, 134 x 91 cm, Museo Civico, Sansepolcro


 上の写真はピエロ・デッラ・フランチェスカによる「マドンナ・デッラ・ミゼリコルディア」です。この作品はピエロ・デッラ・フランチェスカがサンセポルクロ(Sansepolcro トスカナ州アレッツォ県)のミゼリコルディア信心会 (la Confraternita della Misericordia) から注文を受けて制作した多翼祭壇画の中央パネルで、現在は当地の美術館に収蔵されています。聖母の右側(向かって左側)には死刑執行人の姿も見えます。





 「創世記」 三章十五節において、神は蛇に向かって次のように言っておられます。

  お前と女、お前の子孫と女の子孫の間に / わたしは敵意を置く。/ 彼はお前の頭を砕き、/お前は彼のかかとを砕く。(新共同訳)

 神のこの言葉ゆえに、聖母は蛇の支配を受けず、その身に罪を帯びない無原罪の御宿りであると考えられています。このメダイにおいて、被造的世界を表す球体上に立つ聖母は、足下に蛇を踏みつけています。神がお創りになった被造的世界の完全性はエヴァの罪によって破られましたが、マリアはメシアを産むことで、世界の完全性を回復しました。「エヴァ」(ハワ)はヘブライ語で「生命」という意味です。聖母は生命を与える「新しいエヴァ」です。


(下) フレデリック・ヴェルノン作プラケット 「エヴァ」 79.3 x 29.9 mm 最大の厚さ 5.2 mm 重量 75.0 g フランス 1976年 (1905年の復刻) 当店の商品です。





 ザンクト・ガレン修道院には、「アヴェ、マリス・ステーッラ」(羅 AVE, MARIS STELLA 「めでたし、海の星よ」)の最古の写本が遺されています。「アヴェ、マリス・ステーッラ」の内容は次のとおりです。原文はラテン語で、日本語訳は筆者(広川)によります。

    AVE MARIS STELLA
DEI MATER ALMA
ATQUE SEMPER VIRGO
FELIX CAELI PORTA
  めでたし、海の星よ。
神を産み育てし母にして
永遠の処女
天つ国の幸いなる門よ。
     
    SUMENS ILLUD AVE
GABRIELIS ORE
FUNDA NOS IN PACE
MUTANS EVAE NOMEN
  かの言葉「アヴェ」
ガブリエルの口から与えられし御身よ、
エヴァという名をアヴェに変え、
平和のうちに我らを憩わせたまえ。
     
    SOLVE VINCLA REIS
PROFER LUMEN CAECIS
MALA NOSTRA PELLE
BONA CUNCTA POSCE.
  罪ある者どもの縛(いまし)めを解きたまえ。
めしいたる者に光をもたらしたまえ。
我らを罪より救いたまえ。
あらゆる善きものを見出したまえ。
     
    MONSTRA TE ESSE MATREM
SUMAT PER TE PRECES
QUI PRO NOBIS NATUS
TULIT ESSE TUUS
  御身の母なるを示したまえ。
御身を通し、神が祈りを聞きたまわんことを。
我らがために生まれたまいし御方、
御身が子たるを容(い)れたまえばなり。
     
    VIRGO SINGULARIS
INTER OMNES MITIS
NOS CULPIS SOLUTOS
MITES FAC ET CASTOS.
  おとめらのうちにて優しき
たぐいなきおとめよ。
罪より解き放たれたる我らをも
優しき者ども、汚れ無き者どもと為したまえ。
     
    VITAM PRAESTA PURAM
ITER PARA TUTUM
UT VIDENTES IESUM
SEMPER COLLAETEMUR
  清き生を授けたまえ。
安けき道をととのえたまえ。
イエズスにまみゆる我らの、
とわなる喜びのうちにあらんため。
     
    SIT LAUS DEO PATRI
SUMMO CRISTO DECUS
SPRITUI SANCTO HONOR
TRIBUS UNUS. AMEN.
  父なる神に賛美あれ。
至聖なるキリストに栄えあれ。
聖霊に誉れあれ。
(神は)三つにてひとつなり。アーメン。





(上) Alfonso Cano (1601 - 67), "Vision of St. Bernard", 1650, Museo del Prado, Madrid


 本品において聖母を取り囲む「御身、母なるを示したまえ」(羅 MONSTRA TE ESSE MATREM.) という言葉は、上の祈りの一節であることがわかります。1146年、クレルヴォーの聖ベルナール (St. Bernard de Clairvaux, 1090 - 1153) がシュパイエル司教座聖堂にある聖母像の前でこの聖歌を繰り返し歌って聖母を讃えていると、聖母が胸を押して聖ベルナールの開いた口に乳を飛ばしたといわれています。この伝説において、聖母の乳はその甘さにより、聖ベルナールの弁舌の巧みさをも象徴しています。





 メダイの裏面には、聖母を表す「海の星」と、同じく聖母の象徴である「薔薇」、並びにやはり聖母の象徴である「百合」が浮き彫りにされています。

 「海の星」がマリアを象徴するのは、聖ヒエロニムスがマリアのヘブライ語名「マリアム」を「海」と「星」の合成語と解釈したことに基づきます。薔薇はエヴァの罪に傷つくことなく美しい花を咲かせるロサ・ミスティカ(羅 ROSA MYSTICA 神秘の薔薇)を表すとともに、愛の象徴でもあります。「百合」が聖母の象徴とされるのは、旧約聖書「雅歌」二章二節によります。。「雅歌」二章はたいへん美しいので、一節から六節をノヴァ・ヴルガタと新共同訳により引用します。二節は若者の歌、それ以外は乙女の歌です。

    NOVA VULGATA      新共同訳 
           
  1.  Ego flos campi
et lilium convallium.
    わたしはシャロンのばら、
野のゆり。
         
  2. Sicut lilium inter spinas,
sic amica mea inter filias.
  おとめたちの中にいるわたしの恋人は
茨の中に咲きいでたゆりの花。
         
  3. Sicut malus inter ligna silvarum,
sic dilectus meus inter filios.
Sub umbra illius, quem desideraveram, sedi,
et fructus eius dulcis gutturi meo.
    若者たちの中にいるわたしの恋しい人は
森の中に立つりんごの木。
わたしはその木陰を慕って座り
甘い実を口にふくみました。
  4. Introduxit me in cellam vinariam,
et vexillum eius super me est caritas.
    その人はわたしを宴の家に伴い
わたしの上に愛の旗を掲げてくれました。
  5. Fulcite me uvarum placentis,
stipate me malis,
quia amore langueo.
    ぶどうのお菓子でわたしを養い
りんごで力づけてください。
わたしは恋に病んでいますから。
  6. Laeva eius sub capite meo,
et dextera illius amplexatur me.
    あの人が左の腕をわたしの頭の下に伸べ
右の腕でわたしを抱いてくださればよいのに。


 「コングレガシオン・デ・ザンファン・ド・マリ」(仏 Congrégation des Enfants de Marie マリアの子ら会)の文字が、この面を取り囲んでいます。下部のエグゼルグ(仏 exergue 銘を刻印するスペース)に「エム・エム」("M. M.")のイニシアル、その下に「ア・イグレック」("A. Y.")のイニシアルが、ビュラン(彫刻刀)を用いて美しく手彫りされています。





 メダイ上部の環にはフランスにおいて純度 800/1000の銀を表す「イノシシの頭」のポワンソン(仏 poinçon 貴金属の検質印、ホールマーク)が刻印されています。また留め金とチェーンを接続する環には、「イノシシの頭」のポワンソンと、フランスの銀細工師のマークが刻印されています。したがって本品の金属部分はすべて銀でできていることがわかります。

 本品の制作時期は、十九世紀後半から二十世紀初頭頃です。この頃、銀はたいへん高価でしたので、ブロンズ等のベース・メタルに施すめっきとして使用されるのが普通でした。しかるに本品はめっきでない銀無垢(ぎんむく)製品です。第一次世界大戦以前の時代、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国では、富の大半が富裕層に集中していました。二十世紀初頭のフランスでは、上位一パーセントの富裕層が富の七割近くを、上位二パーセントから十パーセントまでの富裕層が残り三割のうち三分の二を独占し、その残り、すなわち富の一割を九十パーセントの国民で分け合っていました。当時のフランスに中間層は存在せず、「極端な富裕層以外は、全員が下層階級」という二極社会であったのです。このような時代に作られた銀無垢メダイは、大多数の人々にとって、めったなことでは手に入らない高価な品物でした。銀無垢メダイは素材が高価なので小さくて薄い物が多いですが、本品のメダイはある程度の厚みがあるうえに、サイズもたいへん大きく、高価な品物であったことがわかります。

 本品はまったく破損せず、メダイの浮き彫りの突出部分が磨滅しています。メダイの環は内側から摩耗して縦長の楕円形になっています。これらの特徴は、本品が長い年月のあいだ大切に使われ続けたことを示します。二人のイニシアルが刻まれているのは、母から娘に、このブレスレットが伝えられたからでしょう。すなわち少女時代の母が初聖体を受けるとき、本品に「エム・エム」のイニシアルが刻まれ、十数年後に娘が初聖体を受けるとき、母のイニシアルの下に、娘のイニシアル「ア・イグレック」が刻まれたに違いありません。

 フランスには、イグレック(Y)から始まる姓はありません。母の夫は外国人だったのでしょう。





 本品は百年以上前のフランスで制作され、世代を超えて大切に使われたアンティーク品です。工芸品としての質が高いだけでなく、当時の人々の息遣いが感じられる品物であり、複製品(新品)には決して備わらない温かみを感じることができます。

 保存状態は良好で、現状で壊れている箇所は無く、壊れそうになっている箇所もありません。銀製部分、真珠母製ビーズとも、特筆すべき瑕疵(かし 欠点)はいっさいありません。留め金に不具合はなく、チェーンの強度も問題はありません。留め金からメダイまでを一直線に伸ばして測った全長は十九センチメートルですが、装着時の有効長は十五センチメートルです。ごく小さなサイズですので、標準的な手首周りの方がブレスレットとして使う場合は、リボンか革紐、チェーンなどで延長する必要があります。現状の長さのままリボンやチェーンに通して、ペンダントにすることもできます。





21,000円 販売終了 SOLD

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