極稀少品 エヴァ


79.3 x 29.9 mm  最大の厚さ 5.2 mm  重量 75.0 g

フランス  1976年 (1905年の復刻)



 高名なメダイユ彫刻家、フレデリック・ヴェルノンによる稀少な作品、「エヴァ」。1905年にこの作品を鋳造したパリ造幣局が、1905年当時と同じサイズ、同じ素材で 1976年に復刻したものです。


 「創世記」 3章1節から7節には、蛇に唆(そその)かされたエヴァがアダムとともに原罪を犯したいきさつが記録されています。該当箇所のテキストを七十人訳、新共同訳で引用いたします。

    1 ὁ δὲ ὄφις ἦν φρονιμώτατος πάντων τῶν θηρίων τῶν ἐπὶ τῆς γῆς ὧν ἐποίησεν κύριος ὁ θεός καὶ εἶπεν ὁ ὄφις τῇ γυναικί τί ὅτι εἶπεν ὁ θεός οὐ μὴ φάγητε ἀπὸ παντὸς ξύλου τοῦ ἐν τῷ παραδείσῳ   主なる神が造られた野の生き物のうちで、最も賢いのは蛇であった。蛇は女に言った。「園のどの木からも食べてはいけない、などと神は言われたのか。」
    2 καὶ εἶπεν ἡ γυνὴ τῷ ὄφει ἀπὸ καρποῦ ξύλου τοῦ παραδείσου φαγόμεθα   女は蛇に答えた。「わたしたちは園の木の果実を食べてもよいのです。
    3 ἀπὸ δὲ καρποῦ τοῦ ξύλου ὅ ἐστιν ἐν μέσῳ τοῦ παραδείσου εἶπεν ὁ θεός οὐ φάγεσθε ἀπ᾽ αὐτοῦ οὐδὲ μὴ ἅψησθε αὐτοῦ ἵνα μὴ ἀποθάνητε   でも、園の中央に生えている木の果実だけは、食べてはいけない、触れてもいけない、死んではいけないから、と神様はおっしゃいました。」
    4 καὶ εἶπεν ὁ ὄφις τῇ γυναικί οὐ θανάτῳ ἀποθανεῖσθε   蛇は女に言った。「決して死ぬことはない。
    5 ᾔδει γὰρ ὁ θεὸς ὅτι ἐν ᾗ ἂν ἡμέρᾳ φάγητε ἀπ᾽ αὐτοῦ διανοιχθήσονται ὑμῶν οἱ ὀφθαλμοί καὶ ἔσεσθε ὡς θεοὶ γινώσκοντες καλὸν καὶ πονηρόν   それを食べると、目が開け、神のように善悪を知るものとなることを神はご存じなのだ。」
    6 καὶ εἶδεν ἡ γυνὴ ὅτι καλὸν τὸ ξύλον εἰς βρῶσιν καὶ ὅτι ἀρεστὸν τοῖς ὀφθαλμοῖς ἰδεῖν καὶ ὡραῖόν ἐστιν τοῦ κατανοῆσαι καὶ λαβοῦσα τοῦ καρποῦ αὐτοῦ ἔφαγεν καὶ ἔδωκεν καὶ τῷ ἀνδρὶ αὐτῆς μετ᾽ αὐτῆς καὶ ἔφαγον   女が見ると、その木はいかにもおいしそうで、目を引き付け、賢くなるように唆していた。女は実を取って食べ、一緒にいた男にも渡したので、彼も食べた。
    7 καὶ διηνοίχθησαν οἱ ὀφθαλμοὶ τῶν δύο καὶ ἔγνωσαν ὅτι γυμνοὶ ἦσαν καὶ ἔρραψαν φύλλα συκῆς καὶ ἐποίησαν ἑαυτοῖς περιζώματα   二人の目は開け、自分たちが裸であることを知り、二人はいちじくの葉をつづり合わせ、腰を覆うものとした。






 本品の浮き彫りにおいて、エヴァは全裸、裸足で、エデンの園の中央に立っています。エヴァの頭上には「善悪を知る木」がたわわに実っており、メダイユ裏面の蛇はエヴァに、実を取って食べるように唆(そそのか)しています。

 エヴァは眼を閉じて首を傾(かし)げ、合わせた手に右の頬を載せて、思いに耽っています。右脚に体重をかけたエヴァの体はコントラポストの美しいカーブを描き、長い髪はエデンを吹きわたる芳(かぐわ)しい微風になびいています。罪を犯す前のエヴァの無垢な体は生命に溢れ、輝かしいまでの美を見せています。「創世記」 3章20節、すなわち上記の箇所のすぐ後で、人祖アダムは妻を「ゾーエー」と名付けています。

   
 καὶ ἐκάλεσεν Αδαμ τὸ ὄνομα τῆς γυναικὸς αὐτοῦ Ζωή, ὅτι αὕτη μήτηρ πάντων τῶν ζώντων. (LXX)
...  アダムは女をエバ(命)と名付けた。彼女がすべて命あるものの母となったからである。(新共同訳)


 ギリシア語「ゾーエー」(Ζωή, Zoe) は、へブル語「ハヴァ」または「ハワ」を訳した語で、「生命」という意味です。ラテン語の「エヴァ」または「エワ」は、「ハヴァ」「ハワ」の語頭の気息音 (h) が脱落したもので、ここから近代諸語のエーファ、エヴ、イヴ等が生まれました。要するに「エヴァ」は「生命」という意味であって、メダイユ彫刻家フレデリック・ヴェルノンは、若さと健康に輝くエヴァの裸体を、たわわに実った果実、青々と茂る下草、さわやかな風で取り巻くことにより、神が造り給うた「生命」そのものの輝きを強調的に形象化しているのです。

 エヴァの足下にはフレデリック・ヴェルノンのサイン (FREDERIC VERNON) が刻まれています。





 メダイユの縁にはコルヌ・コーピアエ(CORNU COPIAE 豊穣の角)、及び「ブロンズ」(BRONZE) の文字、1976年の年号が刻印されています。コルヌ・コーピアエは、本品がパリ造幣局によって制作されたことを示します。



 このメダイユを制作した彫刻家フレデリック・ヴェルノン (Charles-Frédéric Victor Vernon, 1858 - 1912) は、母親だけの家庭に育ちました。メダイユ彫刻の巨匠ジュール=クレマン・シャプラン (Jules-Clément Chaplain, 1839 - 1909) から父親代わりの保護と指導を受けたフレデリック少年は、その才能を見事に開花させ、1887年にローマ賞プルミエ・グランプリを受賞したほか、1892年のサロン展で一等、1900年のパリ万博で金賞を獲得しました。


 フレデリック・ヴェルノン 1900年頃の写真


 本作品「エヴァ」は脂の乗り切った名手ヴェルノンが 1905年に彫った作品です。フレデリック・ヴェルノンのメダイユは、いずれもアール・ヌーヴォー様式によるたいへん美しい作品ですが、この頃撮影されたヴェルノンの写真を見ると、典雅なメダイユのイメージとは大違いの、身なりや髪型に構わない人であったことがわかります。きっと美しい芸術作品を産み出すことにしか関心が無かったのでしょう。

 フレデリック・ヴェルノンは惜しくも50歳代半ばの若さで没しましたが、その業績を見ると、フランス国内外におけるいくつもの万国博覧会記念メダイユ、ロシア皇帝ニコライ二世の訪仏記念メダイユ、フランス共和国民法施行百周年記念メダイユ、フランス会計検査院の百周年記念メダイユ、パリ=リヨン=地中海鉄道創業五十周年記念メダイユ、パリ市営地下鉄開業記念メダイユ等、フランス共和国政府をはじめとする有力な注文主から、多数の重要な仕事を受託していることが分かります。そのなかで、本品「エヴァ」はどこの国の政府や団体、会社からの委託によるものでもない異色のメダイユであり、ヴェルノンが自ら作りたいと思って作った作品であろうと思われます。

 フレデリック・ヴェルノンのメダイユは、シャプラン譲りの力強い描写と、ルイ・オスカル・ロティ (Louis Oscar Roty, 1846 - 1911) の影響を受けた絵画的な繊細さを兼ね備えています。フレデリック・ヴェルノンは近代フランス美術史において高い評価を受ける彫刻家であり、上述のように数々の大きな仕事を受託しているゆえに、発行枚数が多く手に入り易い作品の場合、私が探せば二、三年に一枚の頻度で見つけることができます。しかしながら「エヴァ」はほとんど入手不可能な稀少品です。「エヴァ」は 1905年と 1976年の二度に亙って鋳造されているわけですが、この作品は蒐集家が手放さないので、次に手に入る機会があるかどうかわかりません。実際のところ筆者自身もこの「エヴァ」を手放す決心がなかなか出来ずに、しばらくの間と自分に言い聞かせつつ、秘蔵して楽しんでおりました。当店が収蔵するのみの美術館であればどんなに良いことでしょうか。しかしながら優れた美術品を探し出して来て販売するのが当店の仕事ですので、「エヴァ」もお気に召した方にお譲りいたします。

 本品はメダイユ表面に塗布されたニスがところどころ剥がれていますが、メダイユそのもの(ブロンズ部分)に特筆すべき問題はありません。商品写真は実寸よりも拡大されていますので、ニスの剥落が目立ちますが、実物では気になりません。





126,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。



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