未使用のアンティーク品 マリ=ベルナール修道士作 《ファティマ、ロザリオの聖母のバシリカ 祝別記念メダイユ 直径 24.9 mm》 静謐な祈りのうちに制作された円熟期の作品 フランス 1953年


突出部分を除く直径 24.9 mm  最大の厚さ 3.0 mm  重量 6.2 g



 厳律シトー会(トラピスト会)の修道士であり、有能な彫刻家として知られるマリ=ベルナール修道士(Fr. Marie-Bernard, 1883 - 1975)が、およそ七十年前に制作したファティマの聖母(葡 Nossa Senhora de Fátima)のメダイ。五百円硬貨とほぼ同じ直径です。重量 6.2グラムは五百円硬貨よりも少し軽い程度で、手に取ると心地よい重みを感じます。表面の一部に経年変化が見られますが、裏面の突出部分がまったく摩滅しておらず、未使用品であることがわかります。





 一方の面は、円形メダイの内側に設けたマンドルラ型(紡錘形)の空間に、ファティマの聖母の横顔を大きく浮き彫りにしています。ヴェールを被り、端正な横顔を見せるファティマの聖母は、ロザリオを持つ手を胸の前に合わせ、心静かに神に祈っています。軽く閉じたマリアの目、俯(うつむ)き加減の姿勢、軽く結んだ口許は、神と親しく対話しつつ魂の内奥へと沈潜する深い精神性をうかがわせます。マンドルラの外側には、ノッサ・セニョーラ・デ・ファティマ(葡 Nossa Senhora de Fatima ファティマの聖母)の文字が、聖母の横顔を囲むように刻まれています。





 芸術品としてのメダイユ彫刻は、ルネサンス期のピザネッロによる横顔の浮き彫りに始まりました。ピザネッロのメダイユは円形でしたが、これはおそらく貨幣の形状を無意識的に踏襲したのでしょう。貨幣は打刻による小さなサイズの実用品で、多くの場合金や銀が使われました。ピザネッロのメダイユは鋳造による大きなサイズの美術品であり、ブロンズ製でした。貨幣とメダイユは制作技術、サイズ、制作目的、材質の全てにおいて異なりますが、円形の金属に人物の横顔を大きく浮き彫りにする表現様式は共通しています。

 ピザネッロが創始したメダイユ芸術は、イタリアよりもむしろフランスで開花しました。わが国でメダイと呼ばれる小さな信心具は、芸術品の大型メダイユを簡易かつ小型に作ったものであり、やはりピザネッロ以来の伝統を引いて、多くの作品は円形に作られます。ただしメダイは信心具であるゆえに、その形状には伝統を踏襲したという以上の実質的意味があります。円は天上界の象りであり、メダイに浮き彫りにされるキリストや聖母や聖人の世界を象徴しているからです。地上を離れて天上におられる聖なる存在を図像化するのであれば、そのサポートの形状は、円が最もふさわしいでしょう。





 しかるに本品は円形メダイの内部に縦長のマンドルラを設け、聖母像をマンドルラの内部に表現しています。マンドルラ型の枠に囲まれるのは聖母像だけではなく、キリスト像にも聖人像にも類似の作例が見られます。しかしながら枠の内部に制作されるのが聖母像である場合、上下の方向性を有するマンドルラはとりわけ示唆的な形状となります。




(上) 不思議のメダイ 二十世紀中頃の作例 当店の販売済み商品です。


 聖母の出現や聖母像の発見には、しばしば柱状のものが関わります。サラゴサの柱の聖母はエブロ河畔においてジャスパーの柱上に出現しました。シャルトル司教座聖堂柱の聖母も、同様の柱の上に安置されています。スヘルヘンフーフェルの聖母(モンテギュの聖母)は元々シェ―ヌの樹上に安置されていました。ファティマの聖母も低いシェーヌの上に出現しました。

 大地から天に向かって聳える柱や木は天地を繋ぐ軸であり、神の恩寵を天から地に伝える導管を象ります。聖母の出現や聖母像の由来が柱や木に関連付けられるのは、聖母マリアが有するアークシス・ムンディー(羅 AXIS MUNDI 世界軸)としての属性を、垂直に伸びる柱状物により視覚的に強調したものと考えられます。ファティマの聖母は柱状物(シェーヌ)の上に出現しましたが、聖母の立ち姿そのものが柱を想起させる場合もあって、無原罪の御宿りの図像はその最もわかりやすい例となっています。上の写真が示すように、不思議のメダイの聖母は天球もしくは被造的宇宙全体を象る球体の上に立ち、天地を繋ぐ柱のように見えます。この図像は聖母が神のおわす天上界と人の住む地上界を繋ぐ世界軸であることを視覚的に示しています。





 聖母が普通の人と同様の人間であれば、聖母はまったくの世界内存在であって、世界軸にはなれません。また聖母が天上に住まう女神であれば、聖母の存在様態は天上界のみで完結し、地上界とは本質的に無関係になって、やはり世界軸にはなれません。聖母は人間として地上界に生まれながらも、地上界を支配する原罪を免れ給いました。それゆえに聖母は天球もしくは被造的宇宙に足を着けつつも、その内部ではなく外側に立って、神と人を繋ぐ恩寵の器になっておられます。本品ファティマの聖母のメダイにおいて、恩寵の器マリアから発出する神の恵みは、マンドルラと外側の円に刻まれた放射状の光として表現されています。





 裏面にはファティマのバシリカが浮き彫りにされています。バシリカの上空には聖母の汚れなき御心が雲中に浮かび、光として可視化された神の恩寵を地上に注いでいます。輝く心臓が空に浮かぶさまは、クリスムを思わせます。浮き彫りの周囲には、次の言葉がポルトガル語で記されています。

  O Meu Coração Imaculado triunfará.  汚れなき我が心は勝利せむ。


 ファティマの聖母は 1917年5月から9月にかけて毎月13日に出現し給いました。「汚れなき我が心、遂には勝利せむ」(葡 Por fim Meu Coração Imaculado triunfará.)は、1917年 7月13日、聖母が三度目に出現し給うた際の言葉で、本品メダイはこれを引用しています。





 裏面は中央が彫りくぼめられているゆえに、立体的な浮き彫りが周囲の帯状部分に守られ、突出部分が摩滅しにくいように工夫されています。バシリカ左翼の下方には、マリ=ベルナール修道士の署名(Fr. M-B)が刻まれています。

 マリ=ベルナール修道士 Fr. Marie-Bernard (俗名 ルイ・リショム Louis Richomme, 1883 - 1975)は厳律シトー会(トラピスト会)の修道士で、有能な彫刻家として知られています。マリ=ベルナール修道士の作品中おそらく最も有名なのはリジューの聖テレーズ像ですが、他にもテレーズに出現したノートル=ダム・デュ・スリール(仏 Notre-Dame du Sourire 微笑みの聖母)像やソリニ=ラ=トラプのトラピスト会修道院にあるノートル=ダム・ド・ラ・コンフィアンス(仏 Notre-Dame de la Confiance 信頼の聖母)像など、多くの美しい作品を制作しています。





 ファティマの聖母に関連する他のメダイと比較すると、本品裏面にはファティマのバシリカが格段に精緻な浮き彫りで表現され、大きな特徴となっています。このことから本品はバシリカの祝別記念メダイユと考えられます。ファティマのバシリカが祝別されたのは、1953年です。





 裏面浮き彫りの大部分はメダイ中央部の凹部に制作され、摩滅が起きにくい工夫が為されていますが、マリ=ベルナール修道士の署名がある右下あたり、及び左下の小さな建物があるあたりは、周囲の帯状部分よりも突出しています。メダイをペンダントとして使えばこの部分が摩滅するはずですが、本品には摩滅の形跡がまったく認められません。それゆえ本品は未使用品であることがわかります。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。







 本品はマリ=ベルナール修道士が七十歳のときの作品で、円熟期に達した彫刻家の才能が遺憾なく発揮されています。本品は三人の子供たちにのみ幻視されたファティマの聖母を可視化した芸術作品であるとともに、ひとりの修道士が神に捧げた生涯の証しでもあります。ファティマの聖母のメダイには様々な作風のものがあり、それぞれに魅力的ですが、本品は修道者ならではの宗教的精神性に裏打ちされており、静謐な祈りを感じさせる最も美しい作品のひとつです。

 本品はおよそ七十年前に制作された真正のアンティーク品(ヴィンテージ品)ですが、たいへん珍しいことに未使用のまま残っていました。それゆえ両面とも摩滅はまったく認められず、保存状態は極めて良好です。古い品物であるゆえに多少の経年変化はありますが、特筆すべき問題は何もありません。新品のまま残っていた品物はアンティーク品の魅力である個別の歴史性を持ちませんが、お買い上げいただいた方には本品をご愛用いただき、本品に歴史性を与えてやっていただきたいと思います。





本体価格 18,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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