極稀少品 マリ=ベルナール修道士作 「聖テレーズよ、我らのために祈り給え」 未販売の美麗円形メダイユ 直径 18.9 mm フランス 二十世紀半ば
突出部分を除く直径 18.9 mm
いまから数十年前、二十世紀半ばのフランスで制作された
リジューのテレーズの美麗メダイ。リジューのテレーズやベルナデット・スビルー、聖母をテーマに数多くの美しい彫刻を制作したトラピスト会士、
マリ=ベルナール修道士 Fr. Marie-Bernard (俗名 ルイ・リショム Louis Richomme, 1883 - 1975)の作品です。
浮き彫りの下部に見える文字(fr. M. B.)は、マリ=ベルナール修道士の署名です。署名の向かって左側、聖女の肩付近にあるジ・ベ(JB)の組み合わせ文字は、ソミュールのメダイユ工房ジャン・バルム(la
société Jean Balme)の印です。上部に突出した環にフランス(FRANCE)の文字が読み取れます。
表(おもて)面にはクルシフィクスを抱きしめる修道女テレーズを浮き彫りにしています。テレーズは 1888年4月9日、十五歳の時に女子跣足カルメル会リジュー修道院に入り、1889年1月10日に着衣式を迎え、1890年12月24日に終生誓願を立てました。その後は
1897年9月30日に二十四歳で亡くなるまで、終生をカルメル会の修道女として過ごしました。
本品に浮き彫りにされたテレーズは、クルシフィクスを胸に抱き、穏やかな表情で視線を天上に向けています。テレーズには四人の姉がいましたが、そのうちの一人であるセリーヌは画才に恵まれており、巷間よく知られるテレーズ像の何点かを制作しています。クルシフィクスとともに溢れんばかりの薔薇を抱くテレーズ像もセリーヌの作品です。
(上) 実姉セリーヌ(聖顔のジュヌヴィエーヴ修道女 sœur Geneviève de la Sainte-Face, 1869 - 1959)が
1925年に制作したテレーズ像
長姉であったマリーはテレーズよりも先にリジュー修道院に入り、後に修道院長マリー・デュ・サクレ=クール(sœur Marie du Sacré-Cœur 聖心のマリー)となりました。マリ=ベルナール修道士は聖心のマリー修道院長の依頼を受け、セリーヌが描いた「クルシフィクスと薔薇を抱くテレーズ」像に基づいて丸彫り彫刻を制作しました。この丸彫り彫刻はリジュー修道院の中庭に置かれています。
(上) マリ=ベルナール修道士作 「幼きイエスの聖テレジア」 大きなサイズの列聖記念メダイ 1925年 31.9 x 21.6 mm
当店の商品です。
マリ=ベルナール修道士はセリーヌの同じ絵に基づいて浮き彫り彫刻(メダイ)も制作しています。セリーヌの絵とこれに基づく浮き彫りはいずれもよく知られた図柄で、ほぼ正面向きの聖女を捉えています。
フランスは三人の女性に守られている国で、第一の守護聖人は
被昇天の聖母、第二の守護聖人はリジューの聖テレーズと
ジャンヌ・ダルクです。三人の女性のうち、メダイに彫られるリジューの聖テレーズ像はとりわけ様式化が進み、ほとんどの作品が三種類ほどのポーズのうちいずれかに属します。そのうちの二つはマリ=ベルナール修道士による作品の系統で、もっとも有名なのは上に示したポーズ、すなわちクルシフィクスと薔薇を抱いてほぼ正面を向いたテレーズ像です。
しかるに本品はマリ=ベルナール修道士の作品ではありますが、ほぼ正面向きの良く知られた作品とは異なり、聖女の横顔を捉えています。筆者(広川)は長年に亙ってフランスのメダイを取り扱い、リジューのテレーズのメダイも大抵のものは見覚えがありますが、クルシフィクスと薔薇を抱く横向きのテレーズ像はただ一点、本品しか見たことがありません。
本品の浮き彫りにおいて、クルシフィクスと聖女の胸は香(かぐわ)しく咲き誇る薔薇に埋もれています。
薔薇は愛の象徴です。十字架は神と救い主の愛を象(かたど)ります。胸にある心臓は愛の座とされています。
テレーズの胸を埋める薔薇は、神とキリストの愛を形象化しています。敬虔な修道者といえども、原罪を引き継いで地上に生きる人間であることに変わりはなく、自分に罪があることを認めないわけにはゆきません。そもそも自分の罪深さを他の人たちよりも強く痛感するからこそ、キリストを信じ、さらには修道者になるのです。
我々人間の愛はエロース(希 ἔρως)と言って、自分に欠けた物を与えてくれる人を愛します。しかるに神には欠けたところがありません。それゆえ神が誰かを愛し給うとき、その愛は無価値な者に向けられることになります。神は無価値な者、罪ある者を愛し給うのです。人智を超えるこのような愛を、アガペー(希
ἀγάπη)といいます。
自分が相手にとって望ましい者である場合、エロースを以って愛されることはいわば当然です。たとえば自分が美しい女性であって、男性に愛されている場合、男性は自分が必要とする女性を愛しているだけであって、女性のために愛しているわけではありません。このような場合、その男性に特に感謝する気持ちは。女性の中には生まれないでしょう。しかるに我々は、神とキリストからアガペーを以って愛されています。我々は単に無価値であるに留まらず、大きな罪を背負っているのに、何も必要となさらない御方である神は我々を愛し、キリストは我々のために命を棄て給うたのです。そのことを知った魂は神の愛に着火され、神とキリストへの愛が激しく燃え上がります。
それゆえテレーズの胸に溢れる薔薇は、神とキリストに発してテレーズへ向かう愛を象るとともに、テレーズに発して神とキリストへ向かう愛の可視化でもあります。このような愛の遣り取りは、キリストの受難を介することで、神と人の間に生まれます。それゆえテレーズは愛と生命の座である心臓に近いところに、薔薇とクルシフィクスを抱いているのです。
メダイユ(メダイ)の形状は円を基本とします。これは近代西ヨーロッパにおけるメダイユ芸術の濫觴、
ピザネッロ(Pisanello, Antonio di Puccio Pisano ou Antonio di Puccio da Cereto, c. 1395 - c. 1455)の作品群がすべて円形メダイユであったことから、その伝統を引いているものと筆者(広川)は考えます。ピザネッロの作品には浮き彫りが古代の貨幣を髣髴させる作例もありますから、ピザネッロにおけるメダイユの形状は、円形の貨幣に影響されているのでしょう。すなわちピザネッロは君侯たちの肖像をメダイユの浮き彫りにしていますが、これは王や皇帝の肖像をあしらう古代貨幣の意匠と共通します。円形貨幣に王や皇帝の浮き彫り像をあしらう古代以来の伝統があるゆえに、ピザネッロが君侯たちの肖像メダイユを制作する際、円こそが最も自然な形状と感じられたはずです。
しかるに聖人像に関しても、円は最も自然な形です。なぜならば円は
神がおわす天上界、ひいては神そのものを象徴するからです。この作品において、マリ=ベルナール修道士は修道女テレーズに円形の光背を付していますが、メダイ全体の意匠を見ても、幅広の枠の外縁、内縁、光背が重なり合い、数あるメダイのなかでもとりわけ円形を強調した作例となっています。修道女テレーズはひたすら神にあこがれ、地上に開いた天国の入口ともいうべき修道生活に入っています。テレーズは未だ地上に身を置きつつも、その魂は召命を受け、既に神に抱かれています。
本品メダイは幅広の外枠を鏡面のように研磨し、内側の円形画面を半艶消しに仕上げています。鏡面部分の強い反射は神の栄光を、半艶消し部分の柔らかな反射は小さな花を包む聖性の微光を、それぞれ表しています。
上の写真に写っている定規のひと目盛は一ミリメートルです。聖女の顔の高さは四ミリメートルに足りませんが、マリ=ベルナール修道士は大型の彫像と同様の正確さでテレーズ像を彫っています。目、鼻、口はすべて一ミリメートル未満の大きさですが、これは百分の一ミリメートルのオーダー、あるいは少なくとも数十分の一ミリメートルのオーダーの正確さで、メダイユが制作されていることを示します。
裏面には聖女に執り成しを求めるフランス語の祈りが、小さく控えめな文字で刻まれています。
SAINTE THÉRÈSE, PRIEZ POUR NOUS. 聖テレーズよ。我らのために祈りたまえ。
聖母はほとんど常に幼き者に出現し給います。
微笑みの聖母も十歳の小さなテレーズに出現し給いました。また修道女となったテレーズは世人を驚かせるような出来事や奇跡によらず、神と隣人への愛の行ないを小さな花のように咲かせることにより、周囲の人々の魂を少しずつ神へと向けてゆきました。修道院でも他の人が嫌がる仕事を進んで引き受け、常に謙虚であった小さき花テレーズの生涯は、神とのつながりに必要な聖性の在り方を示しています。
(上) マリ=ベルナール修道士作 「ノートル=ダム・ド・ラ・コンフィアンス」(ソリニ=ラ=トラプの「信頼の聖母」) 1947年頃のエリオグラヴュール 120
x 70 mm
当店の商品です。
聖母マリアをはじめとする古代の聖女たちは、実際の顔立ちが分からないぶん、かえって彫刻しやすいともいえます。しかしながら十九世紀末の人物であるテレーズ・マルタンは、家族や教会関係者をはじめ、交流があった多数の人々が、二十世紀半ばの時点で未だ存命中でした。写真も残っていて、だれもがテレーズの顔立ちをよく知っていました。したがってテレーズ像を彫るのは、マリア像を彫るよりも困難です。さらに宗教美術である信心具のメダイにおいては、テレーズの外見に似せるに止まらず、その信仰心、聖性の薫りを小さな浮き彫りに表現しなければなりません。芸術家としての才能、職人的技量に加えて、深い信仰を併せ持ち、修道女テレーズと共感できるマリ=ベルナール修道士は、少女テレーズの横顔に滲み出る内面の信仰を形象化し、聖女を通して神を讃える信心具の制作に、この上ない適任者であったといえます。
本品の直径は一円硬貨よりもわずかに小さく、浮き彫りの各部分は極小サイズで制作されています。上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりも一回り大きなサイズに感じられます。
本品はいまから数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品(アンティーク品)ですが、珍しいことに未販売のまま新品の状態で残っておりました。それゆえ長く保管される間に他の物と擦れ合って付いた小さな疵(きず)はありますが、全般的な保存状態は極めて良好で、突出部分にも磨滅はまったく認められません。直径
18.9ミリメートルのサイズは大きすぎず小さすぎず、ペンダントとしてご愛用いただくのにちょうど良い大きさです。
マリ=ベルナール修道士によるテレーズの彫刻群はよく知られ、それに倣った類似作品も数多く目にしますが、本品は筆者自身が初めて目にした稀少品です。本品は精密浮き彫りによる外見的描写が優れているだけでなく、修道士が制作した作品にふさわしい深い精神性を備えています。商品写真は実物の面積を極端に拡大しており、肉眼では気付かない小さな瑕疵が判別可能ですが、実物は写真よりもはるかに綺麗です。特筆すべき問題は何もありません。
本体価格 18,800円 販売終了 SOLD
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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