無原罪の御心が表す生命と愛 フランスの職人が手作りした聖母のアンティーク・シャプレ 真珠母による心臓と大粒のビーズ 全長 61 cm 1920年代


突出部分を含むクルシフィクスのサイズ 51.9 x 27.8 mm

突出部分を含むクールのサイズ 22.1 x 20.0 mm  クールの最大の厚み 6.7 mm


シャプレの全長 61 cm


天使祝詞のビーズの短径 約 7 mm  長径 約 8 - 10 mm

主の祈りのビーズの短径 約 9 mm  長径 約 11 - 13 mm


フランス  1920年代



 フランス語ではロザリオを「シャプレ」(chapelet)、センター・メダルを「クール」(cœur 心臓)といいます。本品は 1920年代のフランスで製作された初聖体のシャプレで、金属製のクルシフィクスに、真珠母(しんじゅも マザー・オヴ・パール)のクールとビーズを使用しています。





 諸方の民族において古来真珠は生命力の象徴とされ、教父思想においてはイエス・キリストの象徴とも解釈されました。真珠がイエス・キリストを表すならば、真珠母は聖母マリアを表すことになります。

 これに加えて真珠母は、汚れ(羅 MACULA)無き白さのゆえに、無原罪の御宿リとしてのマリアをも象徴します。図像に表される聖母の衣は、時代によって色が異なります。十九世紀のフランスでは白い衣を着た聖母像がよく描かれましたが、これは 1854年に無原罪の御宿リが聖座(ローマ司教座)から教義宣言されたことによります。本品の製作年代は二十世紀に入っていますが、十九世紀的な特徴を留めて多用された白い真珠母は、やはり聖母の無原罪性を象徴しています。


 五連のシャプレ、すなわち五十九個のビーズを有するロザリオを、「シャプレ・ド・ラ・サント・ヴィエルジュ」(仏 un chapelet de la Sainte Vierge 聖母の数珠)と呼びます。五連のシャプレは聖母マリアに執り成しを願う祈りに使われます。「シャプレ・ド・ラ・サント・ヴィエルジュ」において、キリストに属するクルシフィクス以外の部分は、聖母マリアに属するといえます。それゆえ本品はキリストに属する部分を金属で、マリアに属する部分を真珠母で、それぞれ作っていることがわかります。

 フランス製シャプレ(ロザリオ)において、クルシフィクスとクール(センター・メダル)は同素材であるのが普通です。それにもかかわらず本品がクールを白い真珠母で作っているのは、無原罪の心臓すなわち「聖母の汚れなき御心」を表現するためです。





 本品のクルシフィクスは銀色の金属製で、打ち出し細工によるコルプス(羅 CORPUS キリスト像)を十字架に溶接しています。十字架は直線的シルエットのラテン十字で、コルプスの頭上に表されることが多いティトゥルス(羅 TITULUS 罪状書き、INRIの札)は略されています。十字架の表面は如何にもフランスらしいフルール・ド・リス(仏 fleur de lys 百合の花)アカンサス(唐草)を伴って浮き彫りにされ、交差部には救い主の聖性を表す形の後光に、カドリロブ(仏 quadrilobe 四つ葉模様)と四辺形を重ねています。十字架に刻まれたフルール・ド・リスとアカンサスの組み合わせは単なる装飾美術とも考えられますが、ペリコーレーシス(希 περιχώρησις 相互浸透)によって共に受難し給う聖三位一体を表すとも解釈できますし、救い主の刑死によって救世が達成されるという神の経綸を象徴すると考えることもできます。

 クルシフィクスにおいて最も突出した部分であるコルプスは、クレードー(羅 CREDO 使徒信条)を唱える手に触れられて表面が磨滅しています。コルプスの摩滅は肉眼では判別できませんが、拡大写真で見ると優しい丸みを帯びていることが分かります。製造国を示す「フランス」(FRANCE)の文字が、十字架の裏面に刻印されています。




(上・参考写真) 日本趣味の切り紙による二面のカニヴェ 「神の母、おとめマリアの聖にして汚れなき御宿りは祝されよ」 ピウス六世による百日の免償 Bénie soit la sainte et immaculée conception, Dopter, numéro inconnu 108 x 66 mm フランス 1860年代後半から 1870年代 当店の商品です。


 シャプレ(ロザリオ)のセンター・メダルを、フランス語でクール(仏 cœur 心臓)と呼びます。本品の立体的なクールは七ミリメートル近い厚みがあって、その名の通りに心臓(ハート)を模(かたど)っています。装飾的変形あるいは意匠化が進んだシャプレのクールに比べると、名前通りに心臓を模る本品のクールには、「心臓」が有する宗教的象徴性がいっそう明瞭に現れています。

 カトリック信仰において重要なクール(心臓)には、「イエスの聖心」(仏 le Sacré-Cœur de Jésus サクレ=クール)「マリアの汚れなき御心」(仏 le Cœur Immaculé de Marie)があります。イエスの聖心は「神とキリストが人間を愛する愛」を象徴し、マリアの汚れなき御心は「聖母が神とイエスを愛する愛」を象徴します。後者は前者の反映です。すなわちキリストの聖心から噴き出す炎のような愛が聖母のうちに燃え移り、聖母の汚れなき御心も愛の炎を噴き出すようになるのです。





 トマス・アクィナスは「スンマ・テオロギアエ」第一部108問5項 「天使たちの位階には適切な名が付けられているか」("Utrum ordines angelorum convenienter nominentur.")において、セラフィムの属性を「神に向かう愛」であると論じ、あたかも火が周囲に燃え広がるように、神に向かう愛がセラフィムから下位の存在者へと伝わって行く様子を述べています。ちょうどそれと同じように、神とキリストの愛は聖母の内に反映し、「神への愛」を生じさせて、聖母の全存在を神へと向かわせます。これと同時に愛の火に焼かれてキリストと似た者となり給うた聖母は、キリストがなさったのと同様にすべての罪びとを愛し、罪びとの執り成し手として働き給います。

 ロザリオは聖母に執り成しを求めて天使祝詞を唱える際の数珠であるゆえに、白い真珠母で象(かたど)られた「聖母マリアの汚れなき御心」は、罪びとをも庇護し給う聖母の愛を、信心具のうちにこの上なく巧みに形象化した作例となっています。また聖母はキリスト者の鑑(かがみ 手本)であり給うゆえに、「神とキリストに向かう愛」を表す聖母の御心は、ロザリオを祈る全てのキリスト者が持つべき神と隣人への愛をも表しています。


 本品はビーズに関しても、クールと同様に真珠母でできています。英語の名詞「ビーズ」(beads)は、英語の動詞「ビッド」(bid - bade - bidden 「懇願する」、古語で「祈る」)や現代ドイツ語の動詞「ビーテン」(bieten 「祈る」)、間投詞「ビッテ」(bitte 「どうか」)、古高ドイツ語の動詞「ビオタン」(biotan 「祈る」)、ゴート語の動詞「ビウダン」(biudan 「祈る」)等と同根です。すなわちビーズの原義は「祈り」であって、一つ一つのビーズは祈りそのものを表します。

 われわれ一般人は聖母のように無原罪ではないのに、祈りの珠に無原罪の白が使われているのは、ロザリオの祈りが「聖母のまねび」であるからです。すなわち真珠母製ビーズを採用した本品は、聖母への祈りに際して、祈る人が「キリスト者の鑑」である聖母に倣(なら)い、無原罪の御宿りに寄り添って心を清めるように求めています。

 フランス語ではビーズを「ペルル」(perles)と呼びます。しかるに「ペルル」の原意は「真珠」であり、古来真珠は生命力を象徴します。したがってロザリオのペルルは、祈りが霊的生命の糧であることを示すといえます。ビーズを「ペルル」と呼ぶのは素材の如何に関わりませんが、真珠母が直接的に真珠を連想させる本品は、祈りが霊のパンであること、日常生活において霊的生命を更新してくれる天使のパンのような存在であることを、いっそう明瞭に表現した作例となっています。





 心臓は愛の座であるとともに、生命の座でもあります。医療の発達した現代では心臓を移植したり、機械で置き換えることもできるようになったので、心臓は単なるポンプと看做されるようになりました。しかしながら近代以前の時代において、心臓が自力で拍動しなくなった人を救命する手段は無く、心臓死はそのまま人間の死を意味していました。逆に言えば、心臓が動いているのは生きているということでした。誕生の瞬間から休むことなく動き続け、鼓動が止めば死が訪れる心臓こそは、生命の座と考えられました。

 ロザリオのクルシフィクスは、死を表します。キリストは後に復活し給いますが、十字架上では一旦死に給いました。「創世記」三章十九節に記された罪の力はあまりにも大きく、救い主さえも死に至らしめたのです。しかるに生命の座であるクールはシャプレにおいてクルシフィクスのすぐ上にあります。「無原罪の生命」と「罪がもたらす死」は、シャプレにおいてこの上も無く鮮烈な対照を為しています。

 プロテスタンティズムによると、人間は善を為す能力を持たず、ただ罪を犯すだけです。しかるにカトリシズムでは「人間は善を為し得る」と考えます。受胎告知の際、マリアはその信仰によって「お言葉通り、この身になりますように」と答えました。カトリック教会はこの出来事を解釈して、神は救いを強制せず、マリアは自由意志によって救いを受け入れたと考えるのです。それゆえマリアは人類に生命をもたらした恩寵の器と考えられ、人類に死をもたらしたアダムの妻エヴァと対比して、「新しきエヴァ」とも呼ばれています。





 クールから第一玄義、第二玄義、第三玄義、第四玄義、第五玄義を経てクールに回帰する祈り方は、ヒトの心臓が左心室から大動脈に血を送り出す様子、また全身を巡った血が上下大静脈から心臓に戻り、右心房に入る様子を連想させます。心臓のポンプ機能と血液循環を発見したウィリアム・ハーヴェイ(William Harvey, 1578 - 1657)は、心臓を「生命の源、ミクロコスモス(希 μικρόκοσμος)の太陽」(羅 principium vitae & sol Microcosmi)であるとし、マクロコスモスの太陽とのアナローギッシュ(独 analogisch 類比的)なシミリトゥードー(羅 similitudo 類似性)を自明のことと考えました。ハーヴェイは 1628年に「諸々の動物における心臓の動きと血液に関する解剖学的考察」("Exercitatio anatomica de motu cordis et sanguinis in animalibus")を出版しましたが、この第八章「心臓を通り、静脈から動脈へと流れる血の量について。また血の循環について」(De copia sanguinis transeuntis per cor e venis in arterias, et de circulari motu sanguinisで次のように書いています。ラテン語テキストは 1628年のフランクフルト版(Sumptibus G.Fitzel, 1628)、日本語訳は筆者(広川)によります。

      Ita cor principium vitae & sol Microcosmi (ut proportionabiliter sol Cor mundi appellari meretur) cujus virtute, & pulsus sanguis movetur, perficitur, vegetatur, & a corruptione & grumefactione vindicatur: suumque officium nutriendo, fovendo, vegetando, toti corpori praestat Lariste familiaris, fundamentum vitae author omnium;     このように、心臓は生命の源、ミクロコスモスの太陽である。一方、同様の表現をすれば、太陽は世界(マクロコスモス)の心臓と呼ばれ得る。心臓の力と拍動により、血は動かされ、完成され、賦活されるとともに、腐敗と凝固から守られる。心臓の務めは養い、温め、賦活することであるから、家を守護するこの神(心臓)は、体全体の統率者である。心臓は生命の基礎であり、すべての作出者なのだ。


 本品のクールは「マリアの汚れなき御心」、すなわち聖母の心臓を象ります。しかるに心臓こそは「生命の源」であり、「ミクロコスモスの太陽」です。したがってシャプレの要(かなめ)に取り付けられた真珠母の心臓は、新しきエヴァなるマリアが生命の源であることを表しています。さらに「マリアの汚れなき御心」は神の愛の反映であるゆえに、これを象った本品のクールは、キリスト者の信仰と日々の祈りが常に神とキリストへの愛に発し、常に神とキリストへの愛に回帰し、その愛によって常に賦活されるという事実を、信心具のうちに巧みに形象化したものといえます。





 本品のビーズはかなり大きめです。天使祝詞のビーズのサイズは短径が約七ミリメートル、長径が約八ないし十ミリメートルです。主の祈りのビーズのサイズは短径が約九ミリメートル、長径が約十一ないし十三ミリメートルです。ビーズはひとつひとつが手作りであるために、形とサイズにばらつきがあります。ビーズはすべて揃っており、美観及び実用性に関して特筆すべき問題はありません。

 本品のクールとビーズはいずれも真珠母で作られており、ラブラドレッセンス様(よう)の構造色を伴うシラー(独 Schiller 深みのある光沢)が美しく現れています。このシラーは商品写真にはうまく写っていませんが、実物を手に取るとよくわかります。





 本品は百年近く前のフランスで製作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。コルプスはクロスにしっかりと溶接されており、真珠母でできた部分にも欠損や破損はありません。チェーンも良い状態で、強度に問題はありません。恩寵の器なる聖母とその無原罪性を表す真珠母は十九世紀の名残をとどめ、芸術的水準のシャプレのうちに、信心具ならではの深い精神性を見事に形象化しています。





38,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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