真鍮製メダイを使用した稀少品 《悔悛のガリア 十字架の道行きのシャプレ 全長 44 cm》 手作りのガラリス製ビーズ フランス 二十世紀初頭
いまから百年余り前、二十世紀初頭のフランスで制作された十字架の道行きのシャプレ。シャプレ(仏 chapelet)とはフランス語で数珠のことです。ロザリオもシャプレの一種ですが、我々がよく目にする五連のロザリオが聖母に祈るための数珠であるのに対し、十字架の道行きのシャプレではキリストの受難を黙想しつつ祈ります。後述するように、本品は「悔悛のガリア」時代のフランスならではの稀少なアンティーク信心具です。
クルシフィクスは上部の環を含む高さが 35.9ミリメートル、幅が 23.7ミリメートル、最大の厚みが 2.5ミリメートルで、表面を梨地に加工した鉄製の十字架に、鉄製のコルプス(キリスト)を鋲留めしています。十字架交差部はキリストの頭部の後光を大きな円で取り囲み、イオタ、エータ、シグマの三文字を大きく刻みます。十字架の末端四か所はゴシックの刳り型状に開大し、縦木の上部と下部には唐草文を、パティブルム(腕木)の両端は向かって右にハンマーを、向かって左に釘抜きを、それぞれ打刻しています。
本品シャプレにおいて環状部分のメダイは真鍮でできていますが、クルシフィクスは鉄製です。真鍮をはじめとする多くの銅合金に比べ、鉄ははるかに高い温度で精錬されます。また各種の銅合金に比べ、鉄は格段に優れた硬度を有します。これらの理由により、鉄は激しい試練に耐える堅固さを象徴します。本品シャプレは受難をテーマに制作されていますが、その要(かなめ)であるクルシフィクスが鉄でできている理由は、キリストの愛と救いの堅固さを可視化するために他なりません。
十字架交差部のイオタ、エータ、シグマ(IHΣ)はギリシア語イエースース(IHΣOYΣ イエス)の最初の三文字です。イオタ、エータ、シグマは本来ギリシア文字ですが、本品ではラテン文字に影響された異体字でジ、アッシュ、エス(JHS)のように表記されています。縦木両端の唐草あるいはハアザミは古代以来多用される装飾意匠であり、必ずしも宗教的な意味があるとは限りませんが、本品では最大のアルマ・クリスティである十字架と一体化して人間の罪を象徴しているとも考えられます。腕木の右端にある金槌はキリストを十字架に付けた道具であり、人間の罪を表します。腕木左橋の釘抜きはキリストを十字架から降ろす際の道具であり、ちょうど上の写真に写っているピエタのように、キリストを腕に抱きとめて受け容れる信仰を表します。
十字架のもう一方の面も梨地に加工され、各末端に唐草(ハアザミ)を配します。裏面のキリストとちょうど重なる位置にはサクレ=クール(聖心)が刻まれています。サクレ=クールはキリストの心臓であり、心臓は愛と生命の象徴です。冠状の茨に締め付けられ、上部に十字架を立てたキリストの心臓は、愛の炎を噴き上げつつ、眩い光輝を十字架型に放射しています。刑死するキリストのむごたらしい姿と重なり合いつつ輝く聖心は、キリストの受難が人智を絶する愛の業(わざ)であるという宗教的奥義を可視化しています。
シャプレのセンター・メダルをフランス語でクール(仏 cæur)といいます。クールとは心臓のことですが、本品のクール(センター・メダル)は文字通りキリストの心臓(聖心)、すなわち人智を絶する救い主の愛と、救い主が罪びとに再び与え給う生命を象(かたど)ります。クールの一方の面では封印された書物の上に十字架が載せられ、屠られたアーグヌス・デイー(神の子羊)が横たわっています。子羊の上方に放射する光は、聖霊を表しています。
クールのこの面の意匠は、「ヨハネの黙示録」五章に基づきます。屠られたアーグヌス・デイーが封印された書物の上に横たわるさまは、十字架上に受難し給うたイエス・キリストこそが封印を解くのにふさわしい方であることを示します。なお新共同訳は「ヨハネの黙示録」五章一節を「また私は、玉座におられる方の右の手に巻物を見た。その表と裏に文字が記されており、七つの封印がしてあった。」と訳していますが、巻物と訳されたビブリオン(希
βιβλίον)は単に書物という意味で、書物の形態を問いませんので、巻物でなくとも構いません。アーグヌス・デイーの周囲には、次の言葉がラテン語で記されています。
AGNUS DEI QUI TOLLIS PECCATA MUNDI 世の罪を除き給う神の子羊。
クールのもう一方の面にはイオタ、エータ、シグマに十字架を組み合わせたモノグラムを刻み、次の言葉をフランス語で記します。
Vive Jésus. イエスの生き給はむことを。イエスが栄え給はむことを。
Je crois. Je suis un chrétien. 我信ず。我はキリスト者なり。
環状部分には図柄の異なるメダイが第一留から第十四留まで順に連ねられており、十字架の道行きを黙想できるようになっています。メダイの裏面には図柄の説明がフランス語で書かれています。十四枚の内容は次の通りです。
フランス語と邦訳 | 図柄 | 聖書の該当箇所 | |||||
I | Jésus est condamné à mort イエス、死刑判決を受け給う |
ピラトの前のイエス | マタイ 27:11 - 14 他 | ||||
II | Jésus est chargé de sa croix イエス、十字架を負わされ給う |
十字架を負って歩むイエス | マタイ 27:31 他 | ||||
III | Jésus tombe sous le poids de sa croix イエス、重き十字架を負い給い、最初に倒れ給う |
十字架を負って倒れるイエス | 正典福音書に該当無し | ||||
IV | Jésus rencontre sa très sainte mère イエス、いとも聖なる御母に出会い給う |
十字架を負って歩むイエスの側で、聖母が嘆いている | 正典福音書に該当無し | ||||
V | Simon le Cyrenéen aide Jésus à porter sa croix 十字架を担うイエスを、キュレネ人シモンが手助けする |
イエスが倒れ、キュレネ人シモンが手助けしている | マタイ 27:32 他 | ||||
VI | Une femme pieuse essuie la face de Jésus 神を畏れる女が、イエスの顔をぬぐう |
十字架を負うイエスの前にヴェロニカが跪き、マンディリオンを差し出している | 正典福音書に該当無し | ||||
VII | Jésus tombe pour la seconde fois イエス、再び倒れ給う |
十字架を負って倒れたイエスを、ローマ兵が鞭で殴りつけている | 正典福音書に該当無し | ||||
VIII | Jésus console les filles d'Israël qui le suivent イエス、後に従うエルサレムの娘たちを慰め給う |
十字架を負うイエスがふたりの女性に「わたしのために泣くな」と言っている | ルカ 23:28 - 31 | ||||
IX | Jésus tombe pour la troixième fois イエス、三度目に倒れ給う |
十字架を負って倒れたイエスに、ティトゥルス(罪状書き)を持ったローマ兵が起きよと命じている | 正典福音書に該当無し | ||||
X | Jésus est depouillé de ses vêtements イエス、衣を脱がされ給う |
ローマ兵たちがイエスの衣をはぎ取っている | マタイ 27:35 他 | ||||
XI | Jésus est attaché à la croix イエス、十字架に付けられ給う |
ローマ兵たちがイエスを押さえつけ、手に釘を打ち込んでいる | マルコ 15:25, 26 他 | ||||
XII | Jésus meurt sur la croix イエス、十字架上で息絶え給う |
十字架上に絶命したイエスの傍らで、聖母とマグダラのマリアが悲嘆に暮れている | ヨハネ 19:28 - 30 他 | ||||
XIII | Jésus est déposé de la croix et remis à sa mère イエス、十字架から降ろされ、母のもとに帰り給う |
十字架から降ろされたイエスの遺体を、聖母が抱きとめている | ヨハネ 19:38 他 | ||||
XIV | Jésus est mis dans le sépulcre イエス、墓に納められ給う |
ニコデモとアリマタヤのヨセフが、イエスを墓に安置しようとしている | ヨハネ 19:39 - 42 他 |
十九世紀半ばから二十世紀初頭にかけてのフランスは、悔悛のガリア(羅 GALLIA PŒNITENS)の時代でした。本品シャプレのクルシフィクス裏面に彫られた聖心は、十九世紀半ばのフランスで最も注目を集めた聖女マルグリット=マリが広めた信心であり、第六留のマンティリオンに写るキリストの聖顔とならんで、この時代の信仰深いフランス人にたいへん大きな影響を及ぼしました。本品《十字架の道行きのシャプレ》は現在ではもう制作されていない信心具であり、悔悛のガリアの時代に最もふさわしい数珠であると言うことができます。
本品のビーズはおそらくガラリト(ガラリス)製で、一つ一つ手作りされているために形と大きさが異なります。色は黒、または黒に近い濃褐色です。本品のビーズが黒いのは黒が喪の色であるからですが、ビーズの黒とメダイの金色の取り合わせはたいへん美しく、現代の品物とは一線を画するクラシカルな趣と重厚さを有します。
上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真よりも一回り大きいサイズに感じられます。
本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は極めて良好です。特筆すべき問題は何もありません。当店はフランスのキリスト教関連品を多く扱いますが、十字架の道行きのシャプレは珍しい信心具であるうえに真鍮製メダイを使用した作例は特に少なく、筆者(広川)自身も初めて目にしました。再入荷が不可能と思われる稀少品です。
本体価格 59,000円 販売終了 SOLD
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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