二面のカニヴェ 「愛するイエスにわが心を捧げます」 百日の免償 (ブアス=ルベル 図版番号 760)

Aimable Jésus, je vous donne mon cœur, Bouasse-Lebel, pl. 760


108 x 68 mm

フランス  1855年



 ふたつの聖心、すなわち「イエスの聖心」と「マリアの聖心(汚れなき御心)」を、両面に刷った美麗なカニヴェ。1850年代半ばのフランスで制作された作品で、両面の聖画は細密インタリオによります。このページ最上部に示したのは、カニヴェの両面を並置した合成写真です。カニヴェの数は一枚です。





 一方の面には中央にイエスの聖心を示します。イエスの聖心から発出する強烈な光は、矢羽のような形状で表現されています。ビュラン(彫刻刀)による手彫りの文字で、聖画の上下に次の言葉を刻みます。言語はフランス語です。

     DÉVOTION SPÉCIALE AU SACRÉ CŒUR DE JÉSUS      イエスの聖心に対する特別の信心
           
     O mon aimable JÉSUS, pour vous témoigner ma reconnaissance et pour réparer mes infidélités, je vous donne mon cœur, je me consacre entierement à vous ; et avec le secours de votre grâce je me propose de ne plus pécher à l'avenir.      愛するイエスよ。御身に感謝を表すために、また我が不実を償うために、御身にわが心を捧げます。私自身をすべて御身のものとして聖別します。御身の恩寵に援けられ、今後はもう罪を犯さないと決心いたします。
           
      Cent jours d'indulgence chaque fois qu'on récitera cette prière
et une indulgence plénière une fois par mois à ceux qui la réciteront tous les jours du mois.
      この祈りを唱えるたびに百日の免償。
この祈りを一か月のあいだ毎日唱える者に、月に一度の全免償。


 聖画の下端、光の縁に近いところに、カニヴェの図版番号 (760) が刻まれています。





 イエスの聖心はアルマ・クリスティ、すなわち救い主の受難を象徴する十字架と茨の冠を伴います。キリストの受難は人知を絶する神の愛の極点であり、十字架を突き立てられ、茨の冠に傷ついたキリストの心臓は、あまりにも強く激しい愛ゆえに炎を噴き上げ、強烈な光と熱を放っています。





 この聖画は「グラヴュール・シュル・アシエ」(gravure sur acier)、すなわちスティール・エングレーヴィングによります。グラヴュール(エングレーヴィング)は主に線による細密インタリオですが、本品ではポワンティエ(pointillé スティプル、点描法の点)を多用し、聖心の表面や滴る血液を、線によるよりもいっそう滑らかに表現しています。炎や光のような非物体の表現にも、ポワンティエは適しています。一方、グラヴュールの線は硬質の表現に適しています。硬く鋭い棘を持つ茨の冠は、線を使って描写されています。





 上の写真は聖心と茨の一部、血の滴を拡大しています。定規のひと目盛は 1ミリメートルです。点の密度を変化させることで明暗を調整し、滑らかな連続性を以て心臓と滴の立体性を表現していることがわかります。





 もう一方の面には中央にマリアの聖心(汚れなき御心)を示しています。マリアの聖心から発出する光はイエスの聖心の場合よりも柔らかく、優しい楕円形の広がりを以て表現されています。聖画の上下にビュラン(彫刻刀)による手彫りの文字で次の言葉を刻んでいます。言語はフランス語です。

     DÉVOTION SPÉCIALE AU SAINT CŒUR DE MARIE      マリアの聖なる御心に対する特別の信心
           
     Louange au sacré cœur de JÉSUS et de MARIE.      イエスとマリアの聖心への賛美
     Que le divin cœur de JÉSUS et le cœur très pur de MARIE soient cunnus, loué, bénis, aimés, servis et toujours glorifiés --- Ainsi soit-il.      イエスの神なる聖心と、マリアのいとも清らかなる聖心が、知られ、称讃され、感謝され、愛され、仕えられ、常に栄光を与えられんことを。アーメン。
           
      Indulgence plénière à l'heure de la mort et le 25 Aout à ceux qui réciteront cette prière tous les jours,
et 60 jours d'indulgence chaque fois qu'on la lira.
      この祈りを日々唱える者に、死の際及び 8月25日の全免償。
この祈りを読むたびに、60日の免償。


 聖画の下端には版元名と所在地が刻まれています。

  Bouasse Lebel, Imprimeur et Éditeur, 29, rue St. Sulpice, Paris  ブアス=ルベル パリ、サン=シュルピス通り29番地





 ロゼール(rosaire 薔薇の花環、ロザリオ)に取り巻かれたマリアの心臓は、悲しみの剣に刺し貫かれて血と涙を流しつつ、イエスと神への激しい愛ゆえに炎を噴き上げ、明るい光と強い熱を放っています。





 ロゼールの薔薇は愛の象徴であるとともに、エヴァの子孫でありながら原罪に傷つかないロサ・ミスティカ(奇しき薔薇)、無原罪のマリアを象徴します。5世紀のラテン詩人セドゥーリウス (Cœlius/Cælius Sedulius, 5th century) は、「カルメン・パスカーレ」("CARMEN PASCHALE" 「復活祭の歌」)第二巻 28 - 31行で次のように謳っています。日本語訳は筆者(広川)によります。

    Et velut e spinis mollis rosa surgit acutis
Nil quod laedat habens matremque obscurat honore:
Sic Evae de stirpe sacra veniente Maria
Virginis antiquae facinus nova virgo piaret:
  そして嫋(たおやか)な薔薇が鋭い棘の間から伸び出るように、
傷を付けるもの、御母の誉れを曇らせるものを持たずに、
エヴァの枝から聖なるマリアが出で来たりて、
古(いにしえ)の乙女の罪を、新しき乙女が購(あがな)うのだ。


 心臓の上部には大輪の白百合が咲いています。白百合も聖母を象徴する花のひとつです。「雅歌」 2章 2節において茨に囲まれる百合は、中世西ヨーロッパの聖書解釈において、神に愛されるマリアを指すと考えられました。「雅歌」 2章 1節から 6節をノヴァ・ヴルガタと新共同訳により引用します。2節は若者の歌、それ以外は乙女の歌です。

  NOVA VULGATA      新共同訳 
1.  Ego flos campi
et lilium convallium.
    わたしはシャロンのばら、
野のゆり。
       
2. Sicut lilium inter spinas,
sic amica mea inter filias.
  おとめたちの中にいるわたしの恋人は
茨の中に咲きいでたゆりの花。
       
3. Sicut malus inter ligna silvarum,
sic dilectus meus inter filios.
Sub umbra illius, quem desideraveram, sedi,
et fructus eius dulcis gutturi meo.
    若者たちの中にいるわたしの恋しい人は
森の中に立つりんごの木。
わたしはその木陰を慕って座り
甘い実を口にふくみました。
4. Introduxit me in cellam vinariam,
et vexillum eius super me est caritas.
    その人はわたしを宴の家に伴い
わたしの上に愛の旗を掲げてくれました。
5. Fulcite me uvarum placentis,
stipate me malis,
quia amore langueo.
    ぶどうのお菓子でわたしを養い
りんごで力づけてください。
わたしは恋に病んでいますから。
6. Laeva eius sub capite meo,
et dextera illius amplexatur me.
    あの人が左の腕をわたしの頭の下に伸べ
右の腕でわたしを抱いてくださればよいのに。


 白百合が表す「神に選ばれた身分」、「徳と純潔」は、他の聖人たちの属性でもありますが、聖母に最も卓越的に当てはまります。百合は「摂理への信頼」の象徴でもありますが、この意味においても、「お言葉どおり、この身に成りますように」と答えたマリアの信仰を表しています。







 上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。肉眼で判別しがたいほど細かい線と点によって、形ある物の質感ばかりか、不定形の火や液体、物質ではない光まで自在に表現する 19世紀のインタリオ(凹版)は、真に驚嘆に値します。




(上・参考画像) イポリット・ルフェーヴル作 モンマルトルのサクレ=クールのバシリカ 祝別記念メダイユ 「フランスの支配権をキリストに捧げる悔悛のガリア」(1919年) 当店の販売済み商品


 このカニヴェが制作された1850年代半ばは、フランスにおいて聖心の信心が大いに興隆し始めた時代でした。およそ十年後の 1864年9月18日にはピウス9世がマルグリット=マリを列福し、その三年後の1867年8月に発行された「イエズスの聖心のおとずれ」(Le Messager du Sacré Cœur de Jésus) 第12号では、マルグリット=マリが 1689年6月17日に書いた第98書簡が公開されました。パレ=ル=モニアルの聖母訪問会修道院院長に宛てたこの書簡において、マルグリット=マリは地上で辱めを受けたキリストが地上の君主に償いを求めていると述べた後、キリストが語ったという次の啓示を記しています。日本語訳は筆者(広川)によります。

     Fais savoir au fils aîné de mon sacré Cœur – parlant de notre roi – que, comme sa naissance temporelle a été obtenue par la dévotion aux mérites de ma sainte Enfance, de même il obtiendra sa naissance de grâce et de gloire éternelle par la consécration qu'il fera de lui-même à mon Cœur adorable, qui veut triompher du sien, et par son entremise de celui des grands de la terre.
 Il veut régner dans son palais, être peint dans ses étendards et gravé dans ses armes, pour les rendre victorieuses de tous ses ennemis, en abattant à ses pieds ces têtes orgueilleuses et superbes, pour le rendre triomphant de tous les ennemis de la sainte Église.
(Marguerite-Marie d'Alacoque, Lettre IIC, 17 juin 1689, Vie et œuvres, vol. II, Paray-le-Monial)
   わが聖心の長子(訳注 ルイ14世)に伝えよ。王は幼子イエズスの功徳によって儚(はかな)きこの世に生まれ出でたのであるが、崇敬されるべきわが聖心に自らを捧げるならば、永遠の恩寵と栄光のうちに生まれるを得るであろう。わが聖心は王の国を支配し、また王を仲立ちにして地上の諸君主の国々を征服することを望むからである。
 わが聖心は王の宮殿にて統べ治め、王の軍旗に描かれ、王の紋章に刻まれることを望む。そうすれば王はすべての敵に勝利し、驕り高ぶる覇者たちの頭をその足下へと打ち倒し、聖なる教会のすべての敵を征服するであろう。
(「マルグリット=マリの生涯と著作 第二巻」より、1689年6月17日付第98書簡)


 しかしながらルイ14世がこの啓示に耳を貸すことはなく、その後のフランスは革命と内乱で荒廃しました。マルグリット=マリへの啓示を 1867年になってようやく知った信仰深いフランス人たちは、聖心への信仰を深め、「悔悛のガリア」の大きな波は次の世紀へと続いてゆくことになります。





 本品はわが国で言えば江戸末期のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にかかわらず、たいへん良好な保存状態です。また保存状態よりも大切なのは芸術品としての完成度ですが、本品の聖画はいずれの面も全てグラヴュールで制作されており、高い完成度を誇ります。このように細密な作品は、途中で「手が替わる」(作り手が交代する)と線や点の太さや深さ、密度が変わってしまうので、ひとりの版画家が最後まで仕上げています。優れた作品を完成させながら、版画家が署名を残していないのは、正教会のイコンに似ています。イエスの聖心と聖母の聖心を刻む作業そのものが、版画家にとって信心業であったのでしょう。







 当店ではご希望により別料金にて額装をご注文いただけます。上の写真に写っている額のサイズは縦 22.5センチメートル、横 18.5センチメートルで、付属の棒状金具を取り付けることで自立します。他の物に立てかけて使うことも可能です。額の価格は 4,500円(税込)です。





カニヴェの価格 22,500円 (税込・額装別)

電話 (078-855-2502) またはメールにてご注文くださいませ。




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