美麗オラトワール 受胎告知 幼子の誕生を喜ぶ天使 モロッコ革張りの台座に打ち出し細工のメダイユ 112 x 80 mm
縦横のサイズ 112 x 80 mm 最大の厚さ 15 mm 円形メダイユの直径 46 mm
フランス 1910 - 20年代
昔のヨーロッパの家庭の一角、コアン・ド・デュ(coin de Dieu フランス語で「神様のコーナー」の意)に、十字架や聖像とともに置かれていた信心具、オラトワール
(oratoire)。裏側に吊り輪と折り畳み式の脚が取り付けられており、壁掛け式、自立式の両様に使えます。
本品の台座には上等のモロッコ革が張られ、円形メダイユが取り付けられています。下部にある横長の金属板は名前や日付を彫るためのものですが、未使用のまま残っています。
円形メダイユは打ち出し細工による作品で、百合を手にした大天使ガブリエルを単身で浮き彫りにしています。天使は広がる空間を前にメダイユの右寄りに彫られ、高みから地上を見下ろしているようにも見えます。きっと天使はまだ天上にいて、これからマリアの許に向かうのでしょう。
目を閉じたガブリエルは、神の限りない愛について、しばし思いを潜めています。微かなほほえみを口許に浮かべた表情は、もうすぐ訪れる救い主の降誕を、人間とともに喜んでいるように見えます。
ガブリエルの額に輝く星は、救い主の降誕を予告します。「民数記」 22章から 24章には、預言者バラムがイスラエル民族を祝福した出来事が記録されています。預言者バラム
(Balaam) は、イスラエル民族を呪うために、モアブ人の王バラクに招聘されたのですが、バラクに依頼された呪詛の言葉の代わりに、主なる神の示し給う内容を預言して、モアブ人の敵であるイスラエル民族を祝福しました。24章
17節から 19節を、新共同訳で引用します。
わたしには彼が見える。しかし、今はいない。彼を仰いでいる。しかし、間近にではない。ひとつの星がヤコブから進み出る。ひとつの笏がイスラエルから立ち上がり、モアブのこめかみを打ち砕き、シェトのすべての子らの頭の頂を砕く。 | ||
エドムはその継ぐべき地となり、敵対するセイルは継ぐべき地となり、イスラエルは力を示す。 | ||
ヤコブから支配する者が出て、残ったものを町から絶やす。 |
ここでバラムが「ひとつの星がヤコブから進み出る」と語るのは、直接的にはモアブとエドムを征服したダヴィデを指します。しかしながらこの預言は、ダヴィデの子孫から救い主が出ることをも語っていると考えられています。
星はマリアの象徴でもあります。聖母の名「マリア」は、ヘブル語では「マリアム」または「ミリアム」といいます。ミラノのアンブロシウス (Ambrosius, 340
- 397)、ヒッポのアウグスティヌス (Augustinus Hipponensis, 354 - 430)、大グレゴリウス (Gregorius
Magnus, 540 - 604) と並び、「四大ラテン教父」のひとりとされるヒエロニムス (Hieronymus, c. 340 - 420) は、「マリアム」「ミリアム」という名前を「マル」(ヘブル語で「星」の意)と「ヤム」(ヘブル語で「海」の意)に分解し、「海の星」がこの名前の原意であると考えました。聖母への祈りのひとつである「アヴェ、マリス・ステッラ」(AVE
MARIS STELLA ラテン語で「めでたし、海の星よ」の意)では、次のように唱えられます。日本語訳は筆者(広川)によります。
AVE MARIS STELLA DEI MATER ALMA ATQUE SEMPER VIRGO FELIX CAELI PORTA |
めでたし、海の星よ。 神を産み育てし母にして 永遠の処女 天つ国の幸いなる門よ。 |
|||
SUMENS ILLUD AVE GABRIELIS ORE FUNDA NOS IN PACE MUTANS EVAE NOMEN |
かの言葉「アヴェ」を ガブリエルの口から与えられし御身よ、 エヴァという名をアヴェに変え、 平和のうちに我らを憩わせたまえ。 |
ガブリエルは百合を抱いています。薫り高い百合が「聖徳」と「純潔」の象徴であることはよく知られていますが、百合は「神に選ばれた身分」と「すべてを神に委ねる信仰」の象徴でもあります。
クレルヴォーの聖ベルナールは、「雅歌」 2章 1 - 2節の「百合」がマリアを表すと考えました。ノヴァ・ヴルガタと新共同訳により、該当箇所を引用します。1節は乙女の歌、2節は若者の歌です。
Ego flos campi et lilium convallium. |
わたしはシャロンのばら、 野のゆり。 |
|||
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. |
おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。 |
マリアだけでなく、他の聖人たちも、図像においてしばしば百合と共に表されます。これは、上に引用した「雅歌」におけるように、百合が「神に選ばれた身分」を象徴するからですが、「神に選ばれた」という属性は、マリアにこそ最も卓越的に当てはまります。
また「マタイによる福音書」 6章 25節から 34節、及び「ルカによる福音書」 12章 22節から 34節に記録されたたとえ話において、イエスは弟子たちに神の摂理への信頼を説き、百合を引き合いに出しておられます。「ルカによる福音書」
12章 27節には次のように記されています。
Nestle-Aland 26. Auflage | NOVA VULGATA | 新共同訳 | |||
27 | κατανοήσατε τὰ κρίνα πῶς αὐξάνει: οὐ κοπιᾷ οὐδὲ νήθει: λέγω δὲ ὑμῖν, οὐδὲ Σολομὼν ἐν πάσῃ τῇ δόξῃ αὐτοῦ περιεβάλετο ὡς ἓν τούτων. | Considerate lilia quomodo crescunt: non laborant neque nent; dico autem vobis: Nec Salomon in omni gloria sua vestiebatur sicut unum ex istis. | 野原の花がどのように育つかを考えてみなさい。働きもせず紡ぎもしない。しかし、言っておく。栄華を極めたソロモンでさえ、この花の一つほどにも着飾ってはいなかった。 |
新共同訳が「野原の花」と訳している語は、ギリシア語原文では「クリナ」(κρίνα)、ノヴァ・ヴルガタでは「リーリア」(LILIA) で、「百合」を指しています。
神に選ばれた処女マリアは、アブラハムにも勝る信仰のゆえに、ガブリエルに対して「お言葉どおりこの身に成りますように」と答え、受胎告知を受け容れました。このメダイユにおいてガブリエルが胸に抱く百合は、救いを受け容れたマリアを、天使が神と共に祝福していることを表しています。
本品は百年近く前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、極めて良好な保存状態です。台座部分にも金属製メダイユにも、特筆すべき問題は何もありません。壁掛け式、自立式の両様に使えて、どこにでも飾っていただけます。
本体価格 14,700円 販売終了 SOLD
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