極稀少品 ファティマの聖母 真正の銀線細工による最高級ロザリオ 完全な手作りによる美術品水準の一点 全長 55 cm ポルトガル 1930 - 50年代


全長 55 cm

クルシフィクスを下にしてロザリオを吊り下げたときの、ロザリオ上端からクール上端までの長さ 38 cm


ビーズの直径 9 mm


クルシフィクスのサイズ 39.5 x 26.4 mm (突出部分を含む)

クールのサイズ 18.2 x 15.4 mm (突出部分を含む)


ポルトガル  1938 - 1960年頃



 二十世紀半ばのポルトガルで制作された銀線細工のロザリオ。全長五十五センチメートルの大きめサイズで、繊細な美術工芸品でありながらも十分な実用性を備えています。





 線細工には「真正の線細工」と「線細工風の透かし細工」があります。前者すなわち「真正の線細工」は、針金を曲げ、捩(よじ)り、溶接することにより、部品の各部を手作業で制作します。これに対して後者すなわち「線細工風の透かし細工」は、金属の薄板を細い線を残して網状に打ち抜くことで、線細工風の効果を得ます。

 二つの方法を比べると、前者は後者よりもはるかに手間がかかり、また高度な技術を必要とします。それゆえ前者の技法は専ら高級ジュエリーに限定され、ロザリオのような信心具に使われることは稀です。しかるに本品の制作技法は後者、すなわち真正の線細工によります。





 本品のクルシフィクスはコルプス(羅 CORPUS キリスト像)を鍛金(たんきん 打ち出し細工)で別作し、銀線細工の十字架に鑞付け(ろうづけ 溶接)しています。十字架交差部の中央には後光を象(かたど)る小円盤があり、この小円盤を要(かなめ)として、縦木と横木が四つの菱形を組み合わせたように造形されています。交差部の周囲には後光よりもひとまわり小さな四つの円盤が配され、後光に現れたキリストの愛と聖性を強調するとともに、縦木と横木の華奢な銀線細工を補強しています。

 四つの菱形を組み合わせたように見える十字架のシルエットは、幅広の意匠が視覚的印象を強めつつも、軽やかな銀線細工であるゆえに重苦しさを感じさせません。縦木と横木の縁取りはリボン状の銀線をそのまま使い、繊細ながらも力強い簡明さを実現しています。縦木と横木の内部を埋める銀線は、極細の銀線に多数回の撚(よ)りを掛け、これをリボン状に圧延することで、銀線全体に亙ってミル打ち様(よう)の装飾パターンを得ています。

 細い銀線に鏨(たがね)を当ててミル打ちを施すと、銀線が圧力に耐えきれずに破断します。それゆえ本品では撚りをかけた銀線を圧延する方法を採用しています。後者の方法は前者に比べて多少なりとも手間が減りますが、省力化のために後者の方法を採用しているわけではありません。





 本品の十字架とセンター・メダルは同様の作りで、いずれも繊細な銀線細工に拠ります。ミル打ち様装飾を有する銀線は枠に対して溶接されるとともに、蔓(つる)ひげのような渦の部分も互いに溶接されて支え合い、十字架及び心臓(ハート)の形をしっかりと保持しています。幅広の縦木と横木を全面に亙って埋めつつも向こう側が透けて見える軽やかな銀線細工は、ファイン・ジュエリーのように繊細な美を見せています。




(上・参考写真) ファティマのロザリオの聖母のメダイ 最初期の作例 直径 16.6 mm 当店の商品


 センター・メダルは心臓を模(かたど)り、中心部には直径八ミリメートルの円形メダイが鑞付けされています。円形メダイにはノッサ・セニョラ・デ・ファティマ(葡 Nossa Senhora de Fátima ファティマの聖母)の出現の光景が打ち出されています。円形メダイの図柄は様式化されたもので、メダイや聖画に同様の図柄が見られます。上の写真はこれと同様の図柄を示すメダイの例です。この図柄において聖母は灌木の上に立ち、足元には三人の子供たちが跪いています。ロザリオを持つ手を胸の前に合わせる聖母は、首を左に傾げ、子供たちを祝福しています。聖母に見(まみ)えた子供たちは親を手伝い、野原で羊の面倒を見ていました。聖母の足元の向かって左側には、子供たちが連れていた羊たちが見えます。





 本品に打ち出されたノッサ・セニョラ・デ・ファティマ(ファティマの聖母)は、灌木の上に立っています。聖母の頭部は円形メダイの最上部に達しています。聖母が立つ灌木は「アークシス・ムンディー」(羅 AXIS MUNDI 世界軸)であって、サラゴサのヌエストラ=セニョラ・デル・ピラル(Nuestra-Señora del Pilar 柱の聖母)が立つサンタ・コルムナ、シャルトル司教座聖堂ノートル=ダムノートル=ダム・デュ・ピリエ(Notre-Dame du Pilier 柱の聖母)が立つ石柱と同様の意味を有します。世界軸上にまします聖母は、救い主を産み給うた後も天と地を繋ぐ特別な存在であり続け、神の愛を地上に伝える「恩寵の器」として働き給うのです。

 神は世界を導く霊的な羊飼いとして名も無き子供たちを選び、聖母を遣わし給うたわけですが、後に聖人に列せられた三人の子供たちに加えて、われわれ自身も円形メダイに姿を見せています。すなわちはキリスト者の象徴であって、向かって左側に見える羊はわれわれ自身に他なりません。いまからちょうど百年前の 1917年、ファティマ(Fátima ポルトガル中部、セントロ地方サンタレン県)において三人の子供たちに語り掛け給うた聖母は、いまも変わらず我々に語り掛け続けておられることを、小メダイの彫刻は表しているのです。





 ロザリオは長い伝統を背景とする信心具であり、象徴性に満ちています。そもそも「ロザリオ」(葡 rosário)という名称自体が「薔薇の冠」(羅 ROSARIUM)という意味であり、薔薇はロサ・ミスティカ(羅 ROSA MYSTICA 神秘の薔薇)すなわち無原罪の御宿リを象徴しています。

 センター・メダルの意匠もまた伝統的象徴体系のうちにあります。十八世紀までのロザリオは、センター・メダルを有しませんでした。十九世紀半ば頃になってセンター・メダルが採用されたのは、「ロザリオの祈りこそが人の魂に日々新たな生命を与える」ことを強調するためです。

 ロザリオのセンター・メダルには様々な形がありますが、原型となるのは心臓型です。現代人は心臓を血液循環の単なるポンプと考えています。しかしながら中世以前の思想において、心臓は単なるポンプではありませんでした。心臓こそが、身体に生命を賦与する器官であると信じられていたのです。血液循環を発見したハーヴェイ自身も心臓を単なるポンプとは考えず、身体に生命を与え、生命を更新する臓器と考えていました。

 したがって本品の心臓型センター・メダルは、ロザリオの祈りによって人に与えられ、人の魂を日々更新する愛と生命の象(かたど)りです。ロザリオの環状部分を三周して祈る場合、祈る人の指先はセンター・メダルを四回通過します。センター・メダルは心臓であるゆえに、祈りがそこを通過するたび、神は恩寵の器なる聖母を通して、祈りを唱える人の魂に生命と愛の恩寵を降(くだ)し給うのです。





 このロザリオは純度 833パーミル(83.3パーセント)の銀製で、クルシフィクス上部の環、及びセンター・メダル下部の環にホールマーク(貴金属検質所の印)が刻印されています。上の写真はクルシフィクス上部の環で、横向きの鳥の頭部に "833" の数字を添えた検質印が写っています。これは純度 833パーミルの銀の検質印で、八角形のカルトゥーシュ(枠)からは、ポルト(Porto ノルテ地方ポルト県)の貴金属検質所で刻印されたホールマークであることが分かります。ポルト検質所はポルトガル国内三か所にあった検質所のひとつです。上の写真に写っているもうひとつのマークは、銀細工工房の刻印です。

 ポルトガルの銀製品において、本品に見られる様式のホールマークは 1938年1月1日から使用が開始され、1986年5月1日にポルト検質所とリスボン検質所が合同したことで、現在のホールマークに移行しました。したがって本品の制作年代は 1938年から 1986年までの間です。

 ポルトガルでは 1932年から 1968年という長期に亙ってサラザール(António de Oliveira Salazar. 1889 - 1970)が首相を務めました。エスタド・ノヴォ(葡 Estado Novo, 1933 - 1974)と称したサラザール時代のポルトガルは、第二次世界大戦において中立を守り、戦災を免れたことが幸いして、1930年代から 1960年代初頭まで経済的安定が続きました。とりわけ第二次世界大戦に続くヨーロッパの復興期には輸出によって経済が成長し、アフリカの植民地(アンゴラ、モザンビーク、ギニアビサウ)で独立戦争が始まる 1961年まで好況が続きました。

 本品のような銀無垢製品は信心具としては最も高級な品物ですので、経済が沈滞している時代には制作されません。それゆえ本品の制作時期は 1938年から 1960年頃までの間と判断できます。





 本品は全体が銀でできており、ビーズも例外ではありません。本品のビーズは銀線で作って半球状にくぼませた花のような部材二個を、巧みな鑞付け(ろうづけ 溶接)で球にしています。ビーズの半球となる花形の部材は金属板を打ち抜いた物ではなく、銀線を曲げて作った真正の銀線細工です。ひとつひとつのビーズは細心の注意を以て丁寧に溶接されており、職人の忍耐と技量は見事というほかありません。





 本品はいまから六、七十年前のポルトガルで制作された古い品物ですが、保存状態はたいへん良好です。クルシフィクス、センター・メダル、ビーズのいずれにも特筆すべき問題はいっさいありません。チェーンをはじめ、各部分の強度にも問題はありません。本品は完全な手作りによって制作された美術品水準のロザリオです。見た目に美しい工芸品であるとともに、古代ギリシア以来の思想とキリスト教の幸福な出会いによって豊かな象徴性を帯びた信心具でもあります。





本体価格 118,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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