稀少品 幸運の四つ葉型 《青色エマイユのメダイユ・ミラキュルーズ 不思議のメダイ 12.8 x 10.7 mm》 驚くべき細密彫刻 銀無垢の小品 フランス 1930 - 40年代頃


突出部分を含む縦横のサイズ 12.8 x 10.7 mm



 いまから七、八十年前、1930年代ないし 1940年代のフランスで制作された不思議のメダイ。トランスルーセント(半透明)の青色ガラスによるエマイユを施しています。フランスにおいて純度八百パーミル(800/1000 八十パーセント)の銀を示す「蟹」の検質印が、上部に突出した環に刻印されています。





 信心具として制作されるメダイユを、我が国ではメダイと呼んでいます。聖母マリアのメダイにはさまざまな種類がありますが、不思議のメダイ(仏 la médaille miraculeuse)は種類とサンプル数のいずれにおいても、ルルドの聖母のメダイと並んで最も数多く作られているもののひとつです。

 不思議のメダイとルルドの聖母のメダイは、いずれも無原罪の御宿りのメダイに属します。これら二類型を含む無原罪の御宿りのメダイは、聖母のメダイのみならず、キリストのメダイ、諸聖人のメダイを含むあらゆるメダイの中で、おそらく最も多く制作されています。


 不思議のメダイに関しては、カトリーヌ・ラブレが幻視した二通りの聖母のうち、ウィルゴー・ポテーンスの聖母は教会当局が図像化を許さず、両腕を斜め下に伸ばした聖母像のみがメダイに刻まれました。両腕を斜め下に伸ばした聖母像は、伝統的イコノロジーに基づく無原罪の御宿り像と完全に一致しています。人祖アダムの妻エヴァを誘惑した蛇は悪魔の象徴ですが、新しきエヴァであるマリアは罪の支配を受けません。聖母は裸足ですが、もともと罪を持たない無原罪の御宿りは、如何なる罪の影響も受けなないゆえに、蛇は聖母を害することができません。それゆえ伝統的図像に描かれる無原罪のマリアは、裸足で蛇を踏みつけています。聖母が裸足で蛇を踏みつける表現は、ルルドの聖母が裸足でを踏んでいるのと似ています。




(上) Giovanni Antonio da Pesaro, "Madonna della Misericordia", 1462, Chiesa di Santa Maria dell'Arzilla, Pesaro


 ほとんどの不思議のメダイにおいて、聖母が羽織るマントには多数の襞があり、広げると非常に大きなサイズであることが予想されます。大きなマントを羽織ったマリアは、憐みの聖母です。憐みの聖母はラテン語でマーテル・ミセリコルディアエ(羅 MATER MISERICORDIÆ)、イタリア語でマドンナ・デッラ・ミゼリコルディア(伊 la Madonna della Misericordia)と呼ばれるキリスト教図像の一類型で、大きなマントの下に罪びとを匿(かくま)う聖母の姿を描きます。

 上の写真はペーザロ(Pesaro マルケ州ペーザロ・エ・ウルビーノ県)に生まれた十五世紀の画家ジョヴァンニ・アントニオ・ベッリンツォーニ(Giovanni Antonio Bellinzoni da Pesaro, 1415 - 1477)の作品で、俗人男女と修道士、修道女のほか、苦行信心会の会員と思われる頭巾姿の男性たちの姿も見えます。





 カトリーヌ・ラブレが聖母から示されたとされる不思議のメダイの意匠は、無原罪の御宿りに執り成しを求める祈りの言葉が、聖母を取り囲んでいます。しかるに本品はたいへん小さなサイズであり、文字を刻んでも読めないので意味がありません。それゆえ本品は祈りの言葉を省略しています。


 「ヨハネによる福音書」一章で、イエスはロゴス(希 λόγος ことば)と呼ばれています。ロゴスはソフィアー(希 σοφῐ́ᾱ 智慧)と言い直しても構いません。キリスト教の伝統的図像において、地上における神の座であるケルビム(智天使)は青色で描かれます。なぜならば青は智の色であるからです。

 しかるにイエスが人となり給うた神であるならば、聖母マリアこそ地上における神の座であり、まことのケルビムに他なりません。それゆえ聖母はセーデース・サピエンティアエ(羅 SEDES SAPIENTIÆ 智慧の座、上智の座)と呼ばれます。実際のところ、マリアが原罪を引き継がずに母の胎に宿ったのは、地上における神の座となって救世主を産むためです。それゆえ青は、まことのケルビムである聖母に相応しい色です。


 本品は青色エマイユを施されていることに加え、メダイの輪郭がカドリロブ(仏 quadrilobe 四つ葉)を模(かたど)るのが特徴です。四つ葉が幸福の象徴であることはよく知られていますが、四つ葉形の本品が象徴するのは日常的な幸運ではなく、宗教的な救いです。

 人祖アダムとエヴァは原罪を犯すことにより、人類に苦しみと死をもたらしました。しかるに新しきエヴァであるマリアは救いを受け容れ、救い主の母となることによって人類に生命と救いをもたらしました。しかるに原罪は洗礼で消えますが、それとは別に個人が自由意思で犯す罪があります。聖母は罪を悔いる人々をマントの下に庇い、神に執り成し給うと考えられています。諸聖人には神に執り成す働きがありますが、聖母こそは卓越した執り成し手であって、まさ最後にに頼るべき聖人と言えます。それゆえ四つ葉形は、諸聖人のなかでも聖母のメダイに最もふさわしいと言えましょう。





 上の写真に移っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖母の身長はわずか六ミリメートルほどで、東部の直径は一ミリメートルに足りませんが、優しいまなざしを地上に注ぐ慈母の表情、丸みを帯びた女性らしい体つき、流れるような衣文(衣の襞)、ほっそりとした指と、指先から地上に注ぐ恩寵の光、左脚に体重をかけて右ひざを曲げたコントラポストの姿勢、球体上に踏みつけられて虚しくのたうつ蛇など、あらゆる細部が大型浮き彫りと同様の丁寧さで制作されています。





 「不思議のメダイ」と無原罪の御宿りの一般的なメダイの最も大きな違いは、不思議のメダイにおいて、上の写真のような意匠が裏面に彫られていることです。

 メダイ中央部にはインマクラータ・マリア(羅 INMACULATA MARIA 汚れなきマリア、無原罪のマリア)と十字架のモノグラム(組み合わせ文字)があります。このモノグラムは救いの経綸における聖母子の協働を表しています。モノグラムの下には、向かって左側にイエスの聖心、右側にマリアの聖心が刻まれています。イエスの聖心は神から発して人間へと向かう愛を、マリアの聖心は人間から発して神と救い主に向かう愛を、それぞれ象徴しています。これらを囲むように、十二の星が刻まれています。これらは「ヨハネの黙示録」十二章一節において女が被る冠であるとともに、十二使徒すなわち全キリスト教会の象徴でもあります。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。モノグラムの下にある二つの聖心はいずれも高さ一ミリメートル強の極小サイズですが、心臓の上部には燃え上がる愛の炎がきちんと彫られています。イエスの心臓はの冠に取り巻かれ、聖母の心臓は悲しみの剣に刺し貫かれています。





 本品は指先に載る小さなメダイですが、浮き彫りの細部や祈りの言葉のように肉眼で判別できない部分まで、たいへん丁寧に制作されています。筆者は長年に亙ってフランス製メダイを扱い、不思議のメダイも数多く見ていますが、本品はカドリロブのシルエットがたいへん珍しく、美しい作例です。





本体価格 5,800円 販売終了 SOLD

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