聖遺物容器、ルリケール
RELIQUIARIA, reliquaires





(上) ルイス・フロイス神父、及び日本二十六聖人に含まれるイエズス会の殉教者三名(パウロ三木、ディエゴ喜斎、ジョアン草庵)の聖遺物 フランス 1862年頃 筆者蔵


 聖遺物は聖遺物容器に収納されます。聖遺物容器は室内に安置されるものの他に、携帯可能な聖遺物容器も存在します。

 「聖遺物容器」に当たるラテン語は「レリクイアーリウム」(RELIQUIARIUM) で、この語はフランス語「ルリケール」(reliquaire)、英語「レリクアリ」(reliquary)、ドイツ語「レリクヴィアール」(das Reliquiar)、イタリア語「レリクアリオ」(reliquario)、スペイン語「レリカリオ」(relicario) の語源となっています。ただしフランス語の「ルリケール」、ドイツ語の「レリクヴィアール」は、主に小型の聖遺物容器を意味します。

 「聖遺物容器」は、「リプサノテカ」(羅 LIPSANOTHECA 仏 lipsanothèque 独 die Lipsanothek 伊 lipsanoteca)とも呼ばれます。これらの語源は、ギリシア語で「聖遺物」を表す「レイプサノン」(λείψανον) です。聖人の全身を納める棺型をはじめ、据置型の聖遺物容器は、フランス語では「シャス」(une châsse)、ドイツ語で「シュライン」(der Schrein) と呼ばれます。

 真の十字架の聖遺物容器は「スタウロテカ」(羅 STAUROTHECA 仏 staurohèque 独 die Staurothek 伊 stauroteca)と呼ばれます。これらの語源は、ギリシア語で「杭」「十字架」を表す「スタウロス」(σταυρός) です。「テカ」はギリシア語で「置く (τίθημι) 場所」「容器」を表す「テーケー」(θήκη) に由来します。


【聖遺物容器の諸形態】

 聖遺物容器の最も基本的な形態は、いうまでもなく、棺(ひつぎ)です。別稿にも書いたように、ヨーロッパの古い聖堂は殉教者の墓所に建てられており、主祭壇の下には聖人の棺があります。しかるに12世紀以降、聖遺物は信徒に見せるためのものとなり、聖堂を模(かたど)った木棺を金銀で覆う、銅にエマイユを施す、宝石で装飾する等、工芸品水準の豪華な作例が多く生み出されました。

 下の写真は二ヴェルの聖ゲルトルード (Ste, Gertrude de Nivelles, c. 626 - 659) の棺型聖遺物容器(1272年)で、ゴシック聖堂を模(かたど)って制作されています。材質は木棺に銀を張ったもので、長さ 180センチメートル、幅 54センチメートル、高さ 86センチメートルと非常に大きなサイズです。この環あるいは聖遺物容器は第二次世界大戦の空襲で破壊されましたが、近年になって復元されました。





 下の写真はケルン司教座聖堂に安置されている三人のマギの棺型聖遺物容器「ドライケーニゲンシュライン」(der Dreikönigenschrein) です。これは下層に二つ、上層に一つの木棺を、バシリカ式聖堂を模(かたど)るように重ねた西ヨーロッパ最大の聖遺物箱であり、全長 220センチメートル、幅 110センチメートル、高さ 153センチメートルを誇るモザン派の傑作です。材質は木棺を金と銀の板で覆っています。

  der Dreikönigenschrein im Kölner Dom


 リモージュは現在では磁器生産で知られていますが、この付近でカオリンが発見される以前の中世には、「リモージュもの」(OPERA LIMOCENSIA) と呼ばれるエマイユ製品の産地として栄えていました。下の写真は 1150年頃にリモージュで制作された聖遺物容器(シャンパニャ、聖マルシアル教会旧蔵)で、エマイユ・シャンルヴェの技法により人物像を施しています。下の写真において、手前の側面には中心にキリスト、キリストの右(向かって左)にマグダラのマリア、キリストの左に「アキテーヌの使徒」聖マルシアルが描かれています。サイズは幅 18.9 cm、奥行 8.5 cm、高さ 12.4 cmとごく小さな作品ですが、このような形式の聖遺物容器も、棺と同様に「シャス」「シュライン」と呼ばれます。「シャンパニャの聖遺物容器」は、現在メトロポリタン美術館に収蔵されています。





 棺から出発した聖遺物容器は、当初は箱型でしたが、やがて聖人の全身像、あるいは収納されている遺体の部分を模(かたど)り、宝石で飾った人像型聖遺物容器「マジェスタース」(MAJESTAS) が制作されるようになりました。コンクの聖フォワのマジェスタースは現存する最も初期の作例であり、最もよく知られた例でもあります。





 近世以降は、腐敗していない聖人の遺体を納めるために、ガラスの棺も多く作られています。下の写真はパレ=ル=モニアルの聖母訪問会修道院付属礼拝堂の様子です。向かって右のガラスの棺に、マルグリット=マリの遺体が安置されているのが見えます。





 個人が所有する小さな聖遺物容器は、形態に決まりはなく、さまざまな形をしています。19世紀以降にフランスで制作された個人用の聖遺物容器に関して見ると、持ち歩かないものの場合、厚みのある大きめの額型の作例(下の例A)や、それよりも小さいが、やはりフレームで囲まれ、前面にガラスがはめ込まれた作例(下の例B)が多く見られます。携帯可能な聖遺物容器は、ペンダント型のもの(下の例C)や、手帳型のもの(下の例D)が作られています。


(下・例A) 無原罪の御宿り、あるいはルルドの聖母のルリケール 縦 36 x 横 26センチメートル 奥行 11センチメートル 1890年代頃のフランスで制作されたもの。当店の商品です。




(下・例B) アッシジの聖フランチェスコのルリケール 縦 77 x 横 62ミリメートル 厚さ 21ミリメートル スパンコールやガラスビーズ、マジョリカ真珠で装飾した作例。1970年代のフランス製。当店の商品です。




(下・例C) 聖ジャン=ガブリエル・ペルボワル神父 (St. Jean-Gabriel Perboyre, 1802 - 1840) 携帯可能なルリケール 縦 26.4 x 横 19.0ミリメートル 厚さ 8.0ミリメートル フランス 1843年頃 筆者蔵 ジャン=ガブリエル・ペルボワル師は、中国で殉教したラザリスト会の宣教師です。



(下・例D) リジューの聖テレーズ 携帯可能なルリケール 手帳型ケースを開いたときのサイズ 76 x 45ミリメートル 1925年から1930年代頃に、リジューのカルメル会修道院で制作されたもの。布の小袋に入れた聖遺物(聖女が使用した布地)を、肖像写真とともに革製ケースに収納しています。当店の販売済み商品





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