《無原罪の御宿り ルルドの聖母のルリケール》 聖母像、ロザリオ、メダイ、教皇ピウス9世が祝福したパン 36 x 26 x 11センチメートル


ルリケール全体のサイズ 縦 36 x 横 26 x 奥行 11 センチメートル

台座を除く聖母像の身長 14センチメートル



 1890年代頃のフランスで制作された美しいルリケール。「ルリケール」(reliquaire) とは、前面がガラス張りになった容器や、深い奥行の額に、聖画や小聖像等を封入したもので、多くの場合聖遺物あるいはこれに類する物を含みます。本品は「ノートル=ダム・ド・ルルド(ルルドの聖母)」の小像を中心に、教皇ピウス9世が祝福したパンのかけら、聖母のロザリオ、メダイユ三枚を配しています。





 本品に含まれる聖遺物らしきものといえば、現在福者となっているピウス9世 (Pius IX, 1792 - 1846 - 1878) の祝福を受けたパン切れですが、このルリケールの主役はむしろ「無原罪の御宿り」です。「無原罪の御宿り」としてのマリアの聖遺物は存在しないので、いわばその代用として、「ノートル=ダム・ド・ルルド」の小像がルリケールの主役を務めています。

 このルリケールが制作された時の教皇はレオ13世 (Leo XIII, 1810 - 1878 - 1903) ですが、先代のピウス9世に関連する品物がこのルリケールに封入されている理由は、ピウス9世が 1854年12月8日に「無原罪の御宿り」を教義として宣言した教皇であるからです。ルルドに聖母が出現し、「われは無原罪の御宿りなり」と名乗り給うたのは、ピウス9世による教義宣言の四年後、1858年のことでした。





 ルリケールの中央に立つ「ノートル=ダム・ド・ルルド」像は、台座を除く身長が 14センチメートルの石膏製あるいは漆喰製塑像で、丁寧な手作業により彩色されています。茨の繁みに傷つくことなく裸足で立つ聖母の足元からは、清らかな泉が湧き出しています。





 右腕にロザリオを懸けた聖母は、胸の前に手を合わせ、まっすぐに前を見ています。これは 1858年3月25日、16回目の出現の際に、ベルナデットに対して「わたしは無原罪の御宿りです」と名乗り給うた聖母の姿を表しています。聖母像は長い間どこかに飾られていたものらしく、手の一部に表面の剥落と修復跡がありますが、大きな破損の無い良好な状態です。





 聖母像の頭上後方には小さなパン切れを入れた紙包みが張り付けられています。紙包みにはフランス語で次の言葉が書かれています。

pain beni par la main auguste et servi à la table de notre Très Saint Père le Pape Pie IX, le 14 Juillet 1872. . 1872年7月14日、聖なる父、教皇ピウス9世聖下の尊き御手によりて祝され、食卓に上りしパン






 このパンは、教皇ピウス9世の「食卓に上りしパン」(pain... servi à la table) とあるように、言うまでもなく聖体ではなくて普通のパンです。19世紀の文書ですので、紙包みの美しい文字は鵞ペンのようなつけペンで書かれています。



 ロザリオは59個のビーズを有する「シャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ」(聖母のシャプレ)で、十字架とビーズはおそらく黄楊(つげ)製です。常緑樹である黄楊は、古来「不死」「永遠の生命」を表すとともに、北ヨーロッパにおいては「枝の主日」にも使われて、キリストの勝利を象徴します。





 クール(cœur センター・メダル)の表裏に打刻されたイエズスとマリアの横顔は、「人に対する神の愛」「神に対する人の愛」をそれぞれ表すとともに、聖母に執り成しを願う者の拠り所である「聖母子に通い合う愛」をも表します。簡素な作りの本品「シャプレ・ド・ラ・ヴィエルジュ」は、野に咲く白百合のような聖母の美しさを映しています。






 このルリケールには三枚のメダイユが入れてあります。メダイユは三枚ともアルミニウム製で、制作年代はいずれも 1890年代です。新品のままルリケールに封入されたため、百年以上前に制作されたにもかかわらず、全く摩耗していない制作当時のままの保存状態です。


 紡錘形のメダイユは、一方の面に愛の光を発出するサクレ=クール(le Sacré-Cœur 聖心)を浮き彫りにし、周囲にラテン語で「わがイエズスよ、憐れみたまえ!」(O MI JESU, MISERICORDIA!)、「百日間の免償」(INDULGENTIA CENTUM DIERUM) と書かれています。

 もう一方の面には「絶えざる御助けの聖母」を浮き彫りにし、周囲にラテン語で「絶えざる御助けの聖マリア」(SANCTA MARIA DE PERPETUO SUCCURSU) と刻んでいます。聖母の像の下に浮き彫りにされた「十字架」「錨」「心臓」は、「信仰」「希望」「愛」をそれぞれ象徴します。





 円形のメダイユは、南仏ラングドックのプルイユ(Prouilhe オクシタニー地域圏オード県)にて聖ドミニコにロザリオを授ける聖母子を浮き彫りにします。通常の聖母子像において、幼子イエズスは聖母の左膝に座りますが、この浮き彫りでは向かって左に聖母子、右に聖ドミニコを配置しているゆえに、幼子イエズスを聖母の右膝に座らせて、聖母が聖人のほうに腕を伸ばしてもイエズスが隠れてしまわないように、構図が工夫されています。聖ドミニコの頭上には、この聖人のアトリビュート(図像的象徴)である星が輝いています。この群像を取り巻くように、「いとも聖なるロザリオの元后よ、我らのために祈りたまえ」(Reine du Très Saint Rosaire, priez pour nous.) とフランス語で記されています。

 もう一方の面には、衣の胸を開いて愛に燃える聖心を示すイエズス・キリストが浮き彫りにされています。イエズスは左手で聖心を示しつつ、罪びとを招くように右手を差し出していますが、どちらの手にも大きな釘の穴が痛々しく口を開いています。このイエズス像は浮き彫り彫刻として非常に優れた作品です。





 楕円形のメダイユは「スカプラリオのメダイ」で、一方の面に聖心を示すイエズス、もう一方の面にカルメルの聖母子を浮き彫りにします。聖母子の周囲には、聖母に執り成しを求める祈りが、「カルメルの乙女よ、我らのために祈りたまえ」(VIRGO CARMELI, ORA PRO NOBIS.) とラテン語で刻まれています。






 ルリケールの内部には緑色の布が張られています。は古来生命力の象徴であるとともに、キリスト教においては希望と喜びを象徴する色でもあります。

 人祖アダムの妻エヴァは、「生命」というその名にもかかわらず、原罪を犯すことによって人間に死をもたらしました。しかるに「新しきエヴァ」であるマリアは、受胎の告知を受け容れ、救い主を生むことによって、人間に救いと永遠の生命をもたらしました。中世ヨーロッパの伝承によると、アダムとエヴァの罪によって生命樹は枯死しましたが、その材からイエズスの十字架が作られ、救い主の尊き血を浴びることによって、生命樹はふたたび緑になりました (Albert Édouard Auguste Pauphilet, "Études sur la Queste del saint graal attribuée à Gautier Map", Paris, 1949)。このルリケールに張られた緑色の布は、恩寵の器マリアを通して神がもたらし給う「救い」と「生命」の象徴に他なりません。


(下・参考画像) 生命樹から作られた材を礼拝するシバの女王 Piero della Francesca, "Adorazione della Croce" (dettaglio), 1452 - 66, affresco, la cappella maggiore della basilica di San Francesco, Arezzo




 緑の布に散らしてある星のような白い図形は、六弁の花である白百合を様式化したものです。花弁と花弁の間には黄色い雄蕊(おしべ)が突出しています。これに類した百合の例として、フルール・ド・リスを模(かたど)ったフィレンツェ市章を示します。


(下) ドゥオモ(サンタ・マリア・デル・フィオレ聖堂)に見られるフルール・ド・リス。フィレンツェ市章と同様のもので、二頭のアグヌス・デイの間に置かれています。




 「雅歌」 2章 2節の聖句「おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花」に基づき、百合は神に選ばれた聖母の象徴とされます。さらに白百合は純潔の象徴であり、神にすべてを委ねる信仰の象徴でもあります。したがって百合はこのルリケールを飾るのに最もふさわしい花ということができます。


 ルリケールの前面は黒い木製枠にガラスが嵌まり、内部に封入された品々を守るとともに、正面から見た印象を引き締めています。黒は死者を埋葬する地中の色、死の色ですが、同時に再生の色でもあります。イエズスは「一粒の麦もし地に落ちて死なずば、ただ一つにてあらん。死なば多くの実を結ぶべし」(「ヨハネによる福音書」12章24節)と語り給いました。すなわち黒は信仰による生まれ変わりを象徴する色であり、このルリケールにおいて、内部の緑色と響き合って「永遠の生命」を視覚化しています。





 本品は 1890年代頃のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、内部の品々は封入された当時のままの状態で保存されています。ルリケールは本格的な美術品というよりも「アール・ポピュレール」(art populaire 民衆芸術)に属する品物であり、高い審美的水準を達成しているとは限らないのですが、本品は私自身がこれまでに目にした多数のルリケールの中で群を抜いて美しく、見事というしかない作例です。できることならばずっと手許に置いておきたく、実際しばらく売り場に出さずに眺めておりました。しかしながら当店アンティークアナスタシアは美術館ではなくアンティーク店ですので、思い切って商品といたします。





115,000円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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