エミール・ドロプシ作 「ロサ・ミスティカとノートル=ダム・ド・ルルド」 丁寧な彫刻による大きめサイズの美麗メダイ 28.8 x 18.8 mm


突出部分を含むサイズ 28.8 x 18.8 mm

フランス  1930年代



 典雅なアール・ヌーヴォーの女性像を得意とするメダイユ彫刻家、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ (Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923) による「ロサ・ミスティカ」のメダイ。聖母の肩の後ろあたりに、ドロプシのサイン (E. Dropsy) が刻まれています。





 一方の面にはロサ・ミスティカの美しい聖母を浮き彫りにしています。若きマリアが被るヴェールは「祈り」すなわち「神との対話」の象徴です。穏やかな表情で心静かに祈りつつ微笑を浮かべるマリアの心は、神の花嫁として選ばれた幸福に満たされています。




(上) フレデリック・ヴェルノン作 「エヴァ」 ブロンズ製プラケット 当店の商品です。


 薔薇は聖母マリアの象徴です。五世紀のラテン詩人セドゥーリウス (Cœlius/Cælius Sedulius, 5th century) は、よく知られた作品「カルメン・パスカーレ」("CARMEN PASCHALE" 「復活祭の歌」)第二巻で人祖の妻エヴァと聖母マリアを対比し、聖母を薔薇に喩えています。薔薇はキリスト教古代においてさまざまな聖女や殉教者を象徴していました。しかしセドゥーリウスのこの作品に現れる薔薇は、優れて聖母を象徴する花とされています。セドゥーリウスによると、薔薇の花芽は棘のある繁みから生まれますが、棘に傷つくことなく美しい花を咲かせます。ちょうどそれと同じように、薔薇の花たる聖母マリアは、薔薇の棘たるエヴァが犯した罪に傷つくことなく、かえってエヴァの罪を清めます。




(上) Bruder Furthmeyr, Mary and Eve under the Tree of the Fall, 1481, book illustration, Bavarian State Library, Munich


 マリアは人祖アダムの妻エヴァと同じく女性ですが、エヴァが原罪を犯して人間に死をもたらしたのに対し、マリアは救い主を産んで人間に永遠の生命をもたらしました。したがってマリアは「新しきエヴァ」と呼ばれます。「アヴェ、マリス・ステーッラ(羅 AVE, MARIS STELLA めでたし、海の星よ)の一節では、「かの言葉「アヴェ」ガブリエルの口から与えられし御身よ、エヴァという名をアヴェに変え、平和のうちに我らを憩わせたまえ」(羅 SUMENS ILLUD AVE GABRIELIS ORE, FUNDA NOS IN PACE, MUTANS EVAE NOMEN.)と謳われています。

 上の写真は十五世紀の写本挿絵で、エヴァとマリアを対照させて描いています。エヴァが人々に与えている木の実は、死をもたらす罪の象徴です。これに対してマリアは、生命をもたらす聖体を人々に与えています。




(上) 棘の無い薔薇を持つ聖母 Lorenzo Veneziano, The Virgin and Child (details), 1356 - 72, on wood, 126 x 56 cm, The Louvre, Paris


 ところでキリスト教の象徴体系において、茨(薔薇)やあざみなど棘のある植物は、「罪の呪い」、すなわち罪のせいで神から引き離された状態を表します。しかるにマリアはすべての人間の中でただひとり、原罪を受け継がずに母の胎内に宿った「無原罪の御宿り」です。





 マリアを象徴する薔薇は、通常であれば棘がある植物です。しかしながらマリアは罪を持たないので、マリアを象徴する薔薇は棘を持たない「ロサ・ミスティカ」であり、マリア自身もロレトの連祷において「ロサ・ミスティカ」と呼ばれています。「ロサ・ミスティカ」(ROSA MYSTICA)とはラテン語で「神秘の薔薇」、「奇(くす)しき薔薇」という意味です。

 これまでにさまざまな彫刻家が「ロサ・ミスティカ」のテーマに基づいて聖母像を制作していますが、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシによる本品は、その中で最も美しい作品です。





 メダイの裏面には 1858年、ピレネー山中の村ルルドで起こった聖母出現の場面を浮き彫りにしています。聖母を幻視したのは、当時十五歳の少女ベルナデット・スビルーでした。ベルナデットの証言によると、岩場に出現した聖母は気高い少女の姿で、ベルナデット自身と同じくらいの年齢に見えました。しかしながらルルドの御出現を描いた図像において、マリアは優れた信仰と内面の成熟を反映し、成人女性の姿で表されるのが通例となっています。

 本品に彫られた「ルルドの聖母」も、その信仰の卓越性ゆえに、成人女性の姿で表されています。ルルドの聖母は十五連のロザリオを右腕に懸け、胸の前に両手を合わせています。聖母は裸足ですが、傷つくことなく茨の繁みに立っています。「無原罪の御宿り」である聖母は罪の呪いを蒙らないゆえに、茨の棘(すなわち、罪)に傷つくことも無いのです。





 ベルナデットはヴェールを被り、ロザリオを腕に掛けて跪いています。ベルナデットの傍らには、粗朶(そだ 薪)の束と、揃えて脱いだサボ(仏 sabots 木靴)が置かれています。

 ベルナデットの傍らに粗朶の束とサボが描かれるのはルルドの聖母出現図の定型的表現で、1858年2月11日、ベルナデットが初めて聖母を幻視したときの状況を反映しています。しかしながら本品に彫られている聖母の姿は、同年3月25日、聖母が十六回目に出現した際の様子です。この日、ベルナデットに名を問われた聖母は、「わたしは無原罪の御宿りです」(ガスコーニュ語ビゴール方言 Que soy era Immaculada Concepciou.) と答えたのでした。


 上の写真に写っている定規のひと目盛は一ミリメートルです。マリアとベルナデットの顔は一ミリメートルほどのサイズですが、目鼻立ちが整っているばかりか、聖母の表情には愛が、ベルナデットの表情には敬虔が溢れています。一本一本の粗朶や、茨の枝葉など、気が遠くなるような細部も、まったく手を抜かずに再現されています。





 本品は 1930年代のフランスで制作されたメダイです。1930年代は第二次世界大戦が始まる前夜であり、ヨーロッパの空気が緊張と不安をはらんだ時代です。いずれの面にも若きマリアの優しい表情を刻んだ本品を手に取ると、当時の人々が心の奥底に感じていた消せない不安と、慈母のようなマリアに庇護を求める気持ちが感じられるとともに、地上の人間の愚かさと罪を赦し給う神の、人知を絶する強く温かい愛が心に沁み通ってまいります。

 本品はおよそ八十年も前のものですが、突出部分にも磨滅は見られず、制作当時と変わらない良好な保存状態です。真正のアンティーク品ならではの趣(おもむき)を備えた本品は、美しい作品が多いフランス製メダイの中でも、重厚感と高級感を兼ね備え、特に立派なもののひとつです。





本体価格 18,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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