ここにいますは汝が御母 《三位一体の聖母 重厚な楕円形メダイ 36.1 x 19.5 mm》 信仰の秘跡と、一にして聖、公同、使徒継承のエクレシア イタリアまたはフランス 二十世紀前半または中頃


突出部分を含む縦横のサイズ 36.1 x 19.5 mm   最大の厚さ 3.2 g    重量 9.6 g


本体価格 17,800円



 数十年前のフランスで制作されたアンティーク・メダイユ。三位一体と聖母を一方の面に、エウカリスチアと繋釈権の鍵をもう一方の面に、それぞれ浮き彫りで表しています。





 三位一体と聖母の面は、最上部に三位一体の第一位格(父なる神)を、そのすぐ下に鳩の形の第三位格(聖霊)、その下に第二位格(子なる神)を、それぞれ浮き彫りにしています。

 古代のキリスト教において、人像型の父なる神が絵画や彫刻に表されることはありませんでした。しかるに中世以降はこの禁忌が緩和されて、例は少ないながらも、父なる神が図像化される例が見られます。フラ・アンジェリコは数点の受胎告知画において父なる神を描いています。ミケランジェロはシスティナ礼拝堂の天井に巨大なフレスコ画連作を制作しましたが、天地創造の際アダムに生命を吹き込む神の姿はよく知られています。サンティアゴ・デ・コンポステラ聖堂の柱には、アダムを創造する神の姿が刻まれています。





 子なる神(キリスト)は受肉して地上に生まれ、生活し給うたゆえに、図像化の禁忌は父なる神に比べてはるかに弱く、カタコンベクリストス・クリオフォロス(良き羊飼い)を皮切りに、現代にいたるまで無数の作例があります。


 可視的な姿で目撃された聖霊は、新約聖書の二箇所に登場します。ひとつめはヨハネがイエスに洗礼を施した際の出来事で、共観福音書に詳しい記述があります(マタイ 3: 13 - 17、マルコ 1: 9 - 11、ルカ 3: 21 - 22)。「ヨハネによる福音書」はこの出来事について詳述していませんが、「わたしは、“霊”が鳩のように天から降(くだ)って、この方の上にとどまるのを見た。」との記述が一章三十二節に見られます。ふたつめは「使徒言行録」二章一節から三節にあるペンテコステ(五旬祭)の記事で、聖霊が「炎のような舌」として記録されています。炎の舌型の聖霊はヴェズレー修道院付属聖堂タンパンに彫刻されている他、エル・グレコの油彩にも見られます。

 本品メダイの聖霊は、鳩の形に造形されています。本品の浮き彫りは三つの位格の並び順が、位格の順と異なります。イエスが洗礼を受け給うた際、鳩の形の聖霊が天から、すなわち父なる神から降ったと記録されているゆえに、本品では鳩型の聖霊が父と子の中間に彫られています。


 三位一体を可視化した図像は、メダイの上半分に刻まれています。メダイを囲む縁の上半には、次のラテン語がアーチとなって刻まれています。

  GLORIA PATRI ET FILIO ET SPIRITUI SANCTO  父と子と聖霊に栄光があるように。





 メダイの下半分には球体の上に蛇を踏みつける無原罪の御宿りが浮き彫りにされています。

 無原罪の御宿り(羅 immaculata conceptio)とは、原罪を引き継がずに母の胎内に宿ったマリア(聖母)のことです。マリアが踏みつけているのは、「創世記」三章においてエヴァを誘惑した蛇です。すなわちこれは爬虫類の蛇ではなく、罪とその結果の象徴です。マリアが蛇を踏みつける図像は、マリアが原罪を引き継がず、罪の支配を受けないことを可視的に表しています。

 球は被造的世界の象徴であり、マリアがその上に立つ図像は、マリアの執り成しが全世界のすべての人々に及ぶことを表します。マリアの足元の球体には 1830の年号が刻まれており、本品のマリアが不思議のメダイの聖母であることがわかります。


 メダイを取り巻く縁の下部には、あたかも無原罪の御宿りが踏む下弦の月にも似た形を為して、次の言葉がラテン語で記されています。

  ECCE MATER TUA.  ここにいますは汝が御母

 これは「ヨハネによる福音書」十九章二十七節の引用で、十字架上のイエスが使徒ヨハネに向かって言い給うた言葉です。しかしながら本品メダイにおいて、この言葉はマリアがすべての人の母であるとの意味で使われています。





 ノートル=ダム・ド・ラ・トリニテ(三位一体の聖母)、別名ノートル=ダム・デ・トロワ・アヴェ・マリア(三度のアヴェ・マリアの聖母)は三位一体の神から力、智恵、慈愛を与えられた聖母マリアの称号で、十三世紀の修道女である聖メヒティルトが聖母から受けた啓示に基づきます。

 フランスの古都ブロワには、三位一体の聖母(三度のアヴェ・マリアの聖母)に捧げられた聖堂が建っています。上の像は同聖堂に安置されている作品で、三位一体から聖母に対し、力、智恵、慈愛が与えられる様子を表します。三位一体に発する力と智恵と慈愛は、マリアの心(心臓)に注ぎ込まれています。





 三位一体と聖母を並べた本品の浮き彫りは大変珍しい意匠ですが、これは聖母を神の第四位格として表現しているわけでは決してありません。受胎を告知された際、マリアは「お言葉通り、この身に成りますように」と答え、自由意思により救いを受け入れました。マリアのこの信仰が無ければ、救い主がマリアから生まれるという形で救世への道が開かれることはありませんでした。その意味でマリアは神とともに働く救世の共働者と言うことができます。

 本品の浮き彫りではマリアを三位一体の神と同じ軸上に配し、殊にイエスの十字架と重なるように彫ることで、救世の経綸におけるマリアの役割を強調しています。無原罪の御宿り(マリア)は、神から力、智恵、慈愛を与えられる「三位一体の聖母」として表現されています。この面の浮き彫りは、マリアが救いを受け入れたこと、救いの受容は自由意思によるものであったが、そこには三位一体の援けがあったことを、可視的に表現しているのです。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、、一ミリメートルです。本品は大きめサイズの楕円形メダイですが、人物像の顔の高さはニミリメートルに満たず、充分に細密な浮き彫りであることが分かります。商品写真は大きく拡大しているゆえに突出部分の摩滅が判別できますが、肉眼で見る実物は充分に綺麗な状態です。





 もう片面の上方にはエウカリスチア、すなわちホスチアと聖杯が浮き彫りにされています。ホスチア、及び聖杯に入った葡萄酒は、実体変化によってキリストの体と血になり、眩い光を放っています。

 聖体には "IHS" の文字が見えますが、これはラテン文字のイ・アシュ・エス(アイ・エイチ・エス)ではなくて、ギリシア文字のイオタ・エータ・シグマです。大文字シグマの標準字体は Σ ですが、特にラテン文字圏では異体字 S がしばしば使われます。

 イオタ・エータ・シグマは救い主の御名イエースース(希 Ἰησοῦς)の略記で、クリストグラム(仏 christogramme キリストを表す象徴的文字)のひとつです。良く知られたクリストグラムとしてはキー・ロー(XP)、アルファー・カイ・オーメガ(AΩ)、イクテュス(希 ΙΧΘΥΣ 魚)、イー・エヌ・エル・イー(INRI ラテン語読み)が挙げられますが、聖体の美術表現においてはイオタ・エータ・シグマ(IHΣ, IHS)が常用されます。





 聖杯には三つの意味があります。一つ目は、最後の晩餐でイエスが葡萄酒を入れ給うた杯のこと。二つ目は、十字架上のイエスが脇腹を槍で刺され給うたとき、流れた血を受けたと伝承される器のこと。三つ目は、ミサの際に葡萄酒を入れて実体変化させる杯のこと。中世の騎士物語で追い求められるのは、二つ目の聖杯です。本品に浮き彫りにされているのは、三つ目の聖杯です。

 聖体と聖血はキリストの体と血を象徴しているのではなく、レアリテル(羅 REALITER)に、すなわち観念的にではなく実体において、キリストの体と血そのものであると考えられています。歴史学者にとって、イエス・キリストの受難は二千年前のエルサレムで起きた出来事です。しかしながら宗教的にみれば、イエス・キリストは現代にいたるまで、世界中のあらゆる場所でミサが行われるたびに受難し続けておられます。本品メダイの上部に彫られたミステーリウム・フィーデイー(羅 MYSTERIUM FIDEI 信仰の秘跡)という言葉は、このことを指しています。


 本品浮き彫りの聖杯には、円形ないし楕円形の装飾が多数嵌め込まれているように見えます。これら円形または楕円形の装飾は、カボション・カットされた宝石、まはたはエマイユでしょう。

 現代人は宝石をファセット・カットし、輝きを楽しみます。しかしながら近世初期以前のヨーロッパにおいて、宝石はもっぱらカボションにカットされ、カラーストーンの色を楽しみました。カボションカットされた多数のカラーストーンは、聖遺物箱や祭具、祈祷書や詩篇、福音書などを美しく飾りました。

 エマイユ(七宝)は不透明または半透明の色付きガラスで、カラー・ストーンの美しい色をよく再現するばかりか、クロワゾネやシャンルヴェの技法により、宝石のモザイクやインタリオでは実現困難な意匠を実現しました。宝石と同様に、エマイユもリモージュの聖遺物箱や祭具などを美しく飾りました。





 メダイの下部に彫られた二本の鍵は、ローマ司教の繋釈権を表します。聖ペトロの繋釈権は「マタイによる福音書」十六章十三節から二十節、及びこれと並行のペリコペー(マルコ 8: 27 - 30、ルカ 9: 18 - 21)によります。二本の鍵は、義なる生き方によって煉獄を通らずに天国に迎えられる者たちが通る門の鍵と、ひたすら恩寵によって天国に入る者たちが通る門の鍵です。

 ドイツ聖書協会のギリシア語テキスト(ネストレ=アーラント二十六版)及び新共同訳により、「マタイによる福音書」十六章十八・十九節を引用いたします。

   18.    κἀγὼ δέ σοι λέγω ὅτι σὺ εἶ Πέτρος, καὶ ἐπὶ ταύτῃ τῇ πέτρᾳ οἰκοδομήσω μου τὴν ἐκκλησίαν, καὶ πύλαι ἅ|δου οὐ κατισχύσουσιν αὐτῆς.    わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。
   1.9    δώσω σοι τὰς κλεῖδας τῆς βασιλείας τῶν οὐρανῶν, καὶ ὃ ἐὰν δήσῃς ἐπὶ τῆς γῆς ἔσται δεδεμένον ἐν τοῖς οὐρανοῖς, καὶ ὃ ἐὰν λύσῃς ἐπὶ τῆς γῆς ἔσται λελυμένον ἐν τοῖς οὐρανοῖς.    わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。あなたが地上でつなぐことは、天上でもつながれる。あなたが地上で解くことは、天上でも解かれる。
       Το Κατά Ματθαίον Ευαγγέλιον, XVI, 18 - 19, Nestle-Aland 26. Auflage    「マタイによる福音書」十六章十八・十九節 新共同訳






 伝承によると、使徒ペトロは初代ローマ司教(教皇)です。イエスがペトロに与え給うた繋釈権の鍵は、代々のローマ司教に受け継がれると考えられています。それゆえ繋釈権の鍵は、カトリック教会の権威の象徴でもあります。

 メダイの縁の下半分には使徒信条の一節が刻まれています。

  ET UNAM SANCTAM CATHOLICAM ET APOSTOLICAM ECCLESIAM 一にして聖、公同、使徒継承の教会を(私は信じる)

 使徒信条の文言は二世紀に制定されたもので、西洋の諸教会(カトリック教会、正教会、プロテスタント)において信仰の根幹を為しています。カトリコス(希 καθολικός 公同の)というギリシア語は、ホロス(希 ὅλος  全体の)の語幹に接頭辞カタ(κατα-)と形容詞語尾イコス(-ικός)を付けた語で、全体の、全地の、包括的な、という意味です。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖杯の装飾や鍵の形状をはじめ、浮き彫りの細密さが眼を惹きます。

 この面の楕円形画面は、糾(あざな)える茨に囲まれています。受難のキリストに被せられた冠を思い起こさせる環状の茨は、「創世記」三章十八節の茨とあざみを形にしたもので、罪とその結果がもたらす死及び苦しみを形象化しています。しかしながら本品の茨の太さは 0.1ミリメートルほどであり、大きく彫刻された聖体と聖杯と二本の鍵に比べれば如何にもか細く、いまにもちぎれそうです。茨のこのような細さは、救い主の勝利を際立たせています。







 本品は清楚な銀色で、どのような色の服にも取り合わせることができます。本品の重量は 9.6グラムで、百円硬貨二枚分と同じです。





本体価格 17,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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