稀少品 リュドヴィク・ペナンとジャン・バティスト・ポンセの共作 諸国民に呼びかけるフランス パレ=ル=モニアル 大聖年のメダイ 38.3 x 22.3 mm


突出部分を含むサイズ 縦 38.3 x 横 22.3 mm

フランス  1900年



 マルグリット=マリ・アラコック (Ste. Marguerite-Marie Alacoque, 1647 - 1690) が 1864年に列福されて以来、フランスではキリストの聖心にフランスを奉献する「悔悛のガリア」(Gallia poenitens) の運動が国民的規模で盛んに推進されました。また1900年にはリヨン近郊ロザンヌ (Lozanne) とパレ=ル=モニアルを結ぶ鉄道線が開通しました。それゆえ大聖年に当たる1900年に、聖心の地パレ=ル=モニアルは大勢の巡礼者を集め、その規模はルルドに並ぶものとなりました。

 本品は1900年の大聖年を記念し、ふたりの高名なメダイユ彫刻家の共作として制作された美麗なメダイで、高い芸術性と稀少性を兼ね備えた大型サイズの作品です。





 一方の面には、パレ=ル=モニアルの聖母訪問会修道院礼拝堂で、祭壇上の聖体顕示台に向かって跪くマルグリット=マリと、聖女に出現したキリストを浮き彫りにしています。後方にはミサを執り行う司祭の姿が見えます。

 神秘思想家の常として、マルグリット=マリはほとんど日常的といえるほどに神との交感を経験し、修道院長や司祭に命じられて書き残した記録では、それら数多くの体験を「神が私に現れ給うた」と表現するのが常でしたが、なかでも1673年12月から1675年6月までの一年半の間に、三度の「大きなアパリシオン(出現)」を体験しました。これら三度の「大きなアパリシオン」において、聖心あるいはキリストは、聖心への信心をフランスに広めるよう、マルグリット=マリに命じています。

 三度の大きなアパリシオンのうち、「キリスト」が出現した、とマルグリット=マリ自身が書き遺しているのは、1674年に起こった二度めのアパリシオンのみですが、本品表(おもて)面最下部には「1675年」の年号があり、本品の浮き彫りが三度めのアパリシオン、すなわち1675年6月に聖女が脱魂状態に陥った際の状況を描写していることがわかります。

 三度めの大きなアパリシオンがミサのときに起こったことなのかどうか、当時の記録には明示されておらず、聖女はこのとき「キリスト」が現れた、とも書いていませんが、本品の彫刻では1674年に起こった二度めのアパリシオンに倣い、出現した神はキリストの姿で表されています。強烈な光輝に包まれたキリストの姿も、二度めのアパリシオンに関する聖女の記述に拠っています。





 キリストは聖女を真っ直ぐに見つめて胸元を開き、全方向に愛の炎を噴き上げる聖心を示しています。修道衣の聖女はキリストの愛に応えて両腕を広げ、全身全霊を救い主に捧げています。マルグリット=マリはこのメダイが製作された時点では未だ列聖されていないので、後光は表現されていません。キリストと修道女マルグリット=マリの後方には、修道院付属礼拝堂内を修道女席と一般信徒席に区切る格子が見えています。


(下) パレ=ル=モニアルの聖母訪問会修道院付属礼拝堂。向かって右に格子が見えます。ガラスの棺にはマルグリット=マリが安置されています。




 修道院内のミサを写実的に表すならば、修道女は格子の向こう側にいるはずで、マルグリット=マリが司祭と同じく一般信徒側に描写されている点は史実と異なります。しかしながらもしも史実通りに描写すれば、マルグリット=マリと司祭のいずれかが格子の反対側に退いてしまい、目立たなくなってしまいます。彫刻家はこの作品において、聖女と司祭の両者をいわば「聖心の使徒」として大きく採り上げたかったのであり、その目的を実現するために、事実に芸術的改変を加えています。


 格子越しにミサに与(あず)かるマルグリット=マリ。古い絵葉書から。


 マルグリット=マリと並ぶ「聖心の使徒」として描かれているこの司祭は、1675年、まさに三度めの大きなアパリシオンがあった年に、パレ=ル=モニアルのイエズス会修道院に赴任してきたクロード・ド・ラ・コロンビエール神父 (St. Claude de la Colombière, 1641 - 1682) でしょう。クロード・ド・ラ・コロンビエール神父はマルグリット=マリがいる聖母訪問会修道院をたびたび訪れましたし、何よりもマルグリット=マリの良き理解者、指導者、協力者でした。


 クロード・ド・ラ・コロンビエール神父


 宗教的メダイユ彫刻の目的は歴史上の出来事の表面的な記録を残すことではなく、むしろ救済史の経綸を可視化することですから、出現した神の姿や聖人の立ち位置が実際の通りでなかったとしても、それらの意図的な改変はメダイユの芸術性の証明でこそあれ、決して欠点ではありません。そもそも神秘家が経験する幻視とは純粋に内的な経験であり、神的存在が物質化して三次元空間に出現するというようなことではありませんから、芸術家がこれを可視化、図像化した時点で、事実の改変はすでに行われているのです。

 メダイの下部には、1675年の年号とともに、キリストによる言葉がフランス語で記されています。

  Je régnerai malgré mes ennemis.  敵どもが居ようとも、わたしは(彼らに勝って)統べ治める。

 これは1675年6月の出現の際にキリストが聖女に伝えた次の言葉の一部です。

  Ne crains rien, je régnerai malgré mes ennemis et tous ceux qui s’y voudront opposer.  怖れることはない。 敵ども、および逆らおうとする者どもが居ようとも、わたしは統べ治める。


 メダイの最下部左の縁に、ふたりの彫刻家「ペナン」と「ポンセ」の名前が刻印されています。リュドヴィク・ペナン (Ludovic Penin, 1830 - 1868) とジャン・バティスト・ポンセ (Jean-Baptiste Poncet, 1827 - 1901) はいずれもリヨンのメダイユ彫刻家で、多くの共作を発表しています。本品の制作時期は20世紀初頭であることから、リュドヴィク・ペナンの没後に鋳造された作品であることが分かります。






 メダイの裏面には、パレ=ル=モニアル修道院を背景に、1900年の年号を記した壇上に立ち、伸ばした両腕を頭上高くに挙げるガリア、あるいはフランスが浮き彫りにされています。ガリア(フランス)の頭上にはキリストの聖心が輝き、そこから発出する恩寵の光がガリアを照らしています。ガリア(フランス)を象徴するこの女性は、「悔悛のガリア」を描いた一連の図像とは異なって、冠を戴き、二本の刀を佩き、女王のように堂々たる姿で表されていますが、これがフランスの栄光を讃える図像ではなく、むしろ神の栄光を讃え、フランスをその婢(はしため)として描いていることは、フランスの頭上に聖心を配した構図から明らかです。

 ただしフランスは「カトリック教会の長姉」(fille aînée de l'Église)、すなわちカトリック教会の守護者です。マルグリット=マリが修道院長に宛てた1689年6月17日付第98書簡によれば、マルグリット=マリに啓示を与えたキリストは、ルイ14世を「わが聖心の長子」(le fils aîné de mon sacré Cœur) と呼び、フランスが自らを聖心に奉献するならば、フランスはすべての敵に勝利し、驕り高ぶる覇者たちの頭をその足下へと打ち倒し、聖なる教会のすべての敵を征服するであろう、と語りました。それゆえこのメダイの図像において、回心し聖心を受け容れたガリア、フランスは、あくまでも王冠の頂上に十字架を戴きながらも、神のしもべの筆頭者にふさわしい威風堂々たる姿で表されています。


 以上の図像は尖頭アーチ形の枠に囲まれた画面に浮き彫りにされており、メダイ最上部の左にはオリーヴの枝、右にはシェーヌ(ブナ)の枝があしらわれています。

 オリーヴは神との平和、神の祝福、力と知恵、希望、勝利と栄光を表すとともに、旧約時代のイスラエル諸王がオリーヴ油を注がれてその地位を与えられた故事に基づき、キリスト教諸国の筆頭者、カトリック教会の長姉たるフランスの地位を象徴しています。さらに、オリーヴと剣をメダイの同じ面に彫ることにより、フランスが聖心から委ねられた権能を用いてカトリック世界を統べ治めるべきことをも表しています。

 いっぽうシェーヌは豊かさと正義を象徴します。ルイ9世がヴァンセンヌのブナの下で裁判を行った事はよく知られています。ソロモンの故事を引くまでもなく、地上に正義をもたらすことは、王の重要な役割です。


 メダイの下部には次の言葉がフランス語で刻まれています。

  La France appelle les nations à Paray-le-Monial.  フランスはすべての国々の民をパレ=ル=モニアルへと呼び寄せる。


 本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、非常に良好な保存状態です。写真は実物の面積をおよそ 30倍に拡大していますので、肉眼で見えないような細かい疵もよく見えますが、実物には美しい金属光沢と、写真で見るよりも優れた立体感があります。

 本品はふたりの高名な彫刻家が制作した鋳型により、1900年という限られた年にだけ鋳造された稀少な美術工芸品として、またフランスの社会史と宗教史の実物資料として、たいへん意味深い立派な作品です。





25,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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