薔薇に囲まれた白百合の聖母 《受胎告知のマリア》 真珠母の浮き彫りによる銀製ペンダント ブルー・ダイアモンド付 21.5 x 14.1 mm


可動式の環を除くサイズ 縦 21.5 x 横 14.1 mm  厚さ 6.5 mm  重量 3.1 g

フランス  1950年代



 真珠母(しんじゅも)に彫った若きマリアの横顔を、銀の枠に留めた美しいペンダント。マリアの横顔を囲むベゼルには、ローズ・カットを施したパイライト(黄鉄鉱)のメレが並べられています。





 ペンダントの表(おもて)面は、中央に嵌め込んだ楕円の真珠母に、マリアの端正な横顔を浮き彫りにしています。横顔を見せるマリアは、祈りを象徴するヴェールを被ってまっすぐに前を見ています。マリアの口許には微かな微笑みが湛えられています。

 本品のマリアはごく若く、少女と言って良い年齢です。受胎告知画において、精神的成熟と優れた信仰を可視的に表現するために、マリアは大人の女性として描かれます。しかしながら天使ガブリエル受胎を告知されたとき、実際のマリアは十五歳ぐらいの少女であったと考えられます。したがって本品に彫られたマリアは受胎告知の聖母であることがわかります。

 ヴェールは祈りの象徴ですが、特に受胎告知の聖母像においては、花嫁の象徴でもあります。「雅歌」二章二節において「おとめたちの中にいるわたしの恋人は、茨の中に咲きいでたゆりの花」(Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias.)と謳われた神の花嫁マリアは、軽やかな薄絹のヴェールを被り、救い主の母として選ばれたことに思いを潜めつつ、神との対話に耽っています。





 美術工芸品において特定の聖人と関係づけられた事物を「アトリビュート」といいます。「茨の中に咲きいでたゆりの花」であるマリアは、白百合をアトリビュートとします。本品のマリアが彫られた真珠母(しんじゅも ナークル、マザー・オヴ・パール)は透明感のある白で、白百合に譬えられるマリアにこの上なくふさわしい素材です。

 キリスト教の象徴体系において、百合は「汚れの無さ」に加えて、「神に選ばれた特別な地位」「神の摂理に対する信頼」をも表します。これらはいずれも聖母マリアに卓越的に当てはまる属性です。本品において、白百合を連想させる真珠母の白さは、マリアの汚れの無さを表すとともに、マリアが神に選ばれた花嫁であること、マリアが神の摂理を信頼し、「お言葉どおり、この身に成りますように」と答えて救いを受け容れたことを表します。

 本品において、マリアの汚れの無さは真珠母の白が示しています。マリアが神の花嫁であることは、マリアが被る純白のヴェールが示しています。神の摂理に対するマリアの信頼は、天使がいきなり家に入ってきて受胎を告知するという異常な出来事にも動じずに微笑みを湛え、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答えるマリアの微笑に示されています。

 ちなみにマリアのヴェールあるいはマントの色は時代によって変わります。最初は悲しみの聖母のマントととして暗く地味な色に描かれ、次に青に変わり、十九世紀には白になりました。十九世紀の聖母が白い衣と白いヴェール(マント)を身に着けるようになったのは、1854年12月8日、教皇ピウス九世が、無原罪の御宿りの教義をローマ司教座から宣言したことと関係があります。本品の制作年代は二十世紀中頃ですが、白を強調した色彩は、十九世紀半ばから続く「マリアの白」の伝統を引き継いでいます。





 聖母の真珠母を囲むベゼルには、ローズ・カットを施したパイライト(黄鉄鉱)のメレが並んでいます。パイライトはペンダントのわずかな傾きに合わせて瞬くように煌(きら)めきます。本品の上部に突出した小さな環には、リボンやチェーンを通すための大きな環が付けられています。この環にも一個のパイライトが取り付けられています。

 ファセット・カットを施したパイライトを、アンティーク・ジュエリーの世界では「マーカサイト」あるいは「マルカジット」と呼んでいます。いわゆるマーカサイト・ジュエリーが最も流行したのは十九世紀であるゆえに、それらのジュエリーに嵌め込まれるパイライトのカットは、上面に平坦な面を持たないローズ・カットです。本品は二十世紀半ばの品物ですが、パイライトのカットはやはりローズ・カットで、たいへんクラシカルな趣きです。

 本品の真珠母が白百合の暗喩であることは、ベゼルにパイライトを連ねた本品の意匠によっても示されています。すなわち真珠母を囲むローズ・カットのパイライトは茨(薔薇)であり、真珠母に彫られた聖母は「茨の中に咲きいでたゆりの花」に他なりません。





 イエス・キリストは「マタイによる福音書」七章六節、及び十三章四十五節から四十六節において真珠をたとえ話に用いておられます。アレクサンドリアのオリゲネス (Ὠριγένης, c. 184 – c. 253) は、「マタイ福音書注解」十巻九節において、イエスのたとえ話の「真珠」が、キリスト(救世主)であるイエス自身を意味すると解釈しています。世界各地の民族において、古来真珠は生命と生命力の象徴です。罪びとたちを救い、永遠の生命を与え給うイエス・キリストの象徴として、真珠はこの上なくふさわしい宝石です。

 したがって真珠を生み出す貝の真珠母は、まさにその名が示す通り、救い主の母を象徴します。本品においてマリア像が真珠母に彫られている事実は、マリアが救い主の母であることを示すのであり、「受胎告知」を主題にした本品の聖母に、この上なくふさわしい素材が選ばれていることがわかります。





 本品は六・五ミリメートルの厚みがあり、可愛らしさと重厚さを兼ね備えたデザインです。フランスにおいて純度八百パーミル(八十パーセント)の銀を示す「テト・ド・サングリエ」(仏 tête de sanglier イノシシの頭)のポワンソン(貴金属の検質印、ホールマーク)が、上部に突出した小さな環に刻印されています。純度八百パーミルの銀はフランスの信心具に使われる最も高級な素材です。「テト・ド・サングリエ」の検質印は、パリ造幣局において 1838年から 1973年まで使用されていました。

 小さな環に取り付けられた可動式の大きな環には、フランスの銀細工工房のマークが刻印されています。銀は銅や鉄よりも比重が大きく、重い金属ですが、本品は透かし細工になっているために軽量で、日々愛用しても疲れません。





 銀細工の作りに関して言えば、本品にはベゼルの内縁と外縁に、真正のミル打ちが施されています。ミル打ちはたいへん手間がかかるので、近年のジュエリーに用いられることはめったにありません。アンティーク品に関しても、ミル打ちが施されるのはファイン・ジュエリーにほぼ限られ、メダイ(信心具)等の普及品ではミル打ちを模して並ぶ小点を鋳造や打刻の型に刻み、ミル打ちの代用とするのが普通です。しかしながら本品には非常な手間をかけて真正のミル打ちが施されており、真珠母の彫刻と並んで丁寧な作りに驚かされます。

 本品のパイライトは接着によってベゼルに固定されています。ストーンの固定が接着による場合、当店では固定に緩みが無いかをきちんと点検しています。本品のパイライトはいずれもしっかりと接着されており、緩みはありません。

 最下部のパイライト一個が脱落逸失しておりましたので、手持ちの石から適切なサイズの物を探して取り付けました。同じ種類の石(パイライト)で補修することも可能ですが、上品な彩り(いろどり)が一箇所あっても良いだろうと考えて、ブルーのダイアモンドを取り付けました。上の写真の右寄り、補修箇所で光っているのがブルー・ダイアモンドです。この石はガラスやトパーズ、キュービックジルコニア、モアサナイト等の代用石、模造石ではなく、真正の天然ダイアモンドです。もともと無色であったダイアモンドに放射線を照射し、結晶格子をゆがめて着色中心を生じさせています。淡いブルーに発色しているのはそのためで、わずかにグリーンがかった色はベリル(アクアマリン)にも似ています。

 このブルー・ダイアモンドは色、クラリティ、カットとも優れた石ですが、数年前からルース(裸石)として持っており、近々何かに使う予定もないので、逸失したパイライトの代わりとしました。天空の色であるは天上界を象徴するゆえに、天の元后マリアが天上と地上を結ぶ「恩寵の器」であることを表します。またケルビム(智天使)の色である青は、「上智の座」(羅 SEDES SAPIENTIAE)の色でもあり、マリアに良く似合います。

 本品にダイアモンドを取り付けたのはいわば「おまけ」で、ダイアモンドの代金をペンダントの価格に加算していませんので、本品をお買い上げいただいた方には喜んでいただけることと存じます。

 本品のストーン(パイライトやダイアモンド)は、脱落することがないように入念に検査しています。もしも将来においてストーンが外れた場合でも、修理は可能です。どうぞご安心ください。





 上の写真は筆者(男性)の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になると、もうひと回り大きなサイズに感じられます。

 白と銀色の本品は、どのような色の服装にも良く合います。写真ではよくわかりませんが、実物を手に取るとたいへん美しい作品です。真珠母は淡く上品な虹色の干渉色を示します。ペンダントが揺らめくたびに、淡いブルーのダイアモンドといくつものパイライトが、チカチカとしたシンチレーション(煌めき)を放ちます。実物は写真よりもずっと美しく、お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





本体価格 32,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。



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