稀少品 重厚なブロンズ製アンティーク品 《イエスと共に受難する聖母のクルシフィクス 34.0 x 18.0 mm》 死に勝利するキリストと、共贖者なるマーテル・ドローローサ フランス 十九世紀前半または中頃


突出部分を含むサイズ 縦 34.0 x 横 18.0 mm



 ブロンズで制作されたアンティーク・クルシフィクス。およそ二百年前のフランスで制作された品物で、緑色がかった美しい古色に被われています。





 本品のコルプス(羅 CORPUS キリスト像)は十字架と一体成型されています。十九世紀半ば以降のクルシフィクスは、キリストが頭部を傾けたクリストゥス・ドレーンス(羅 CHRISTUS DOLENS 苦しむキリスト)型であるのが普通です。しかるに本品のコルプス頭部の中心線が身体の正中線と一致し、クリストゥス・トリウンファーンス(羅 CHRISTUS TRIUMPHANS 勝利のキリスト)に近い形です。クリストゥス・トリウンファーンスは近世以前のクルシフィクスに多く見られる特徴です。




(上) Francisco de Zurbarán, "Christ on the Cross", 291 x 165 cm, 1627, oil on canvas, Art Institute, Chicago


 キリストの頭上、十字架縦木の上部には、四文字のアルファベット(INRI)が見えます。これはラテン語でティトゥルス(羅 TITULUS)と呼ばれる罪状書きです。四福音書によると、磔刑のキリストの頭上には、「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」と記された札が掲げられました。「ナザレのイエス、ユダヤ人の王」はラテン語ではイエスース・ナザレーヌス・レークス・ユーダエオールム(羅 IESVS NAZARENVS REX IVDÆORVM)ですが、小さなクルシフィクスに多くの文字を書くことはできないので、イー・エヌ・エル・イー(INRI ラテン語読み)と略記されます。

 「ヨハネによる福音書」十九章十九節によると、実際の罪状書きはヘブライ語、ラテン語、ギリシア語で書かれていました。上の写真はスルバランによる磔刑図で、シカゴ美術館に収蔵されています。この作品においてティトゥルスはギリシア語とラテン語で書かれています。ギリシア語の下に書かれているのがラテン語です。






 キリストの足下には、交差した骨の上に髑髏(どくろ 頭蓋骨)を重ねた印が浮き出しています。髑髏は死を表しますが、とりわけ人祖アダムの髑髏は、原罪によって人類にもたらされた罪、魂の死を象徴します。本品をはじめ、古い時代のクルシフィクスにはキリストの足下に髑髏が置かれる場合がありますが、これは受難の三日後に復活するキリストが、死に打ち勝ち給うたことを表しています。

 福音書によると(マタイ 22:33、マルコ 15:22、ヨハネ 19:17)、キリストが十字架に架かり給うたのはゴルゴタという場所で、ゴルゴタとはへブル語で髑髏のことです。この変わった地名は刑場であることに由来するとも、頭蓋に似た地形に由来するとも言われていますが、伝承によると人祖アダムの骨はゴルゴタに埋められているとされます。




(上) Piero della Francesca, "Adorazione della Croce" (dettaglio), 1452 - 66, affresco, la cappella maggiore della basilica di San Francesco, Arezzo


 ピエロ・デッラ・フランチェスカはアダムと生命の木、及びキリストの十字架に関する伝承に基づいて、フレスコ画の連作「聖十字架の物語」("Le Storie della Vera Croce", 1452 - 66)を制作しています。この連作はイタリア中部、アレッツォ(Arezzo トスカナ州アレッツォ県)のサン・フランチェスコ聖堂にあります。上の画像は連作のうち「十字架の礼拝」の部分で、シバの女王がソロモンの宮殿に向かう途中で「聖なる梁(はり)」(生命の木から製材した梁)を見つけ、跪いて礼拝しています。この梁はユダヤ人が橋として使っていたもので、後にキリストの十字架の材料となります。





 本品の裏面には無原罪の御宿リ(羅 IMMACULATA CONCEPTIO)が浮き彫りにされています。無原罪の御宿リとは、聖母マリアのことです。聖母の足元には弦月があります。聖母の頭部は星の冠を被っています。星の冠を被り、輝く衣を身に着け、弦月の上に立つ聖母は無原罪の御宿りの定型的図像表現で、「ヨハネの黙示録」十二章一節に基づきます。同所には次のように書かれています。

  また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。 (「ヨハネの黙示録」十二章一節 新共同訳)


 本品のマリアが胸の前で腕を交差させているのは、祈りの姿勢です。マリアの胸には大きな心臓が表されています。古来心臓は生命と愛の座であって、マリアの心臓は汚れなき御心、すなわち神とキリストへの愛に生きる聖母の心を象徴します。聖母の頭上には光を発する下向きの鳩が表されています。これは天から聖母に降る聖霊であり、処女懐胎を表します。「マタイによる福音書一章十八節と二十節には、マリアが聖霊によって身ごもったと書かれています。





 立ち姿の聖母はもう一方の面のコルプスと同じ位置にいて、大きさもほぼ同じです。すなわち本品は受難し給うキリスト像と聖母像が表裏一体となるように作られています。

 聖母が救世主と重なるように作られているのは、偶然ではありません。受難のイエスとともに表現される聖母はマーテル・ドローローサ(羅 MATER DOLOROSA 悲しみの聖母)です。本品の聖母もマーテル・ドローローサで、本品を製作したグラヴール(仏 graveur 浮き彫り彫刻家)は、聖母の位置を十字架上のイエスと表裏一体に重ねることにより、母の愛と悲しみを表現しています。

 しかしながら本品の聖母像は、悲しむ母という以上の神学的意味を有します。すなわちイエスとともに苦しみ、死ぬばかりに悲嘆し給う聖母は、救世の経綸(けいりん 神の計画)において重要な役割を果たす共贖者(きょうしょくしゃ)であると考えられます。

 カトリックはプロテスタントと違って聖母を極めて重視しますが、それは受胎告知の際、聖母が救いを受け容れたからです。プロテスタント神学によると、人間は善を為す自由を有しません。人間にできるのは、悪を為すことのみです。しかるにカトリックは人間が善を為す自由を有すると考えます。神は救いを強制せず、マリアは受胎告知の際に、自由意思を以て救いを受け容れるという善を為しました。本品は聖母の浮き彫りを救世主と重ねることにより、聖母マリアが有する共贖者としての働きを可視化しています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。







 本品はおよそ二百年前のフランスで制作された品物です。第二次世界大戦以降、フランス社会は急激に世俗化しました。しかしながら二十世紀前半以前、特に十九世紀までのフランスはカトリック諸国の長姉を自任し、庶民の日々の生活はカトリック信仰と不可分に融け合っていました。表面が磨滅した本品の浮き彫りは、一挙手一投足を祈りのうちに生活した人の数限りない祈りを、数十年に亙って呼吸してきた証しです。

 本品はレプリカではないので、同じものは二度と手に入りません。表面を厚く覆う均一のパティナ(古色)は、古美術品が長い歳月をかけて獲得する重厚な美です。キリスト像のみのクルシフィクスは珍しくありませんが、救い主イエスと共贖者マリアが表裏一体になった本品は極めて稀少な作例で、筆者(広川)自身もこれまでに数度しか目にしたことがありません。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただける稀少品です。





本体価格 25,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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