サヴォワ地方の谷は急峻な高山によって別の谷と隔てられているため、女性が身に着けるビジュ(仏 bijoux ジュエリー)は、町や村ごとに独自の意匠を発達させました。クロワ・ド・クゥに関しても、サヴォワの地域ごとに意匠が大きく異なります。フランスの高名な民俗学者アルノルド・ファン・ジュネップ(Arnold
van Gennep, 1873 - 1957)によると、サヴォワ地方の伝統的ビジュには十字架だけでも十四の変種が存在し、クロワ・プラットはそのひとつです。
【クロワ・プラットの形状と分布】
クロワ・プラットの形状は、シンプルなラテン十字の縦木上端をフルール・ド・リス(仏 fleur de lys 百合の花)とし、他の三か所の末端は外側に向けて小さな突出を有する小球となっています。すなわち末端の形状に限って言えば、クロワ・プラットはクロワ・ジャネットと共通しています。サヴォワ地方のクロワ・ド・クゥはほとんどが複雑な形状で、クロワ・プラットのミニマリスティックな形状は異彩を放っています。