極稀少品 大きなサイズのクロワ・プラット ジュエリー職人の手作りによるマユショルの美品 51.0 x 36.0 mm


突出部分を含む十字架本体のサイズ 縦 51.0 x 横 36.0 mm

重量 6.2 g


フランス  十九世紀後半から二十世紀初頭



 例外的に大きなサイズのクロワ・ド・クゥ。フランス南東部サヴォワ地方で愛用されるビジュ(仏 bijoux ジュエリー)、クロワ・サヴォワヤルド(仏 croix savoyarde)のひとつで、「クロワ・プラット」(仏 croix plate)と呼ばれる種類です。

 クロワ・プラットの形状は、シンプルなラテン十字の縦木上端を平坦なフルール・ド・リス(仏 fleur de lys 百合の花)とし、他の三か所の末端は外側に向けて小さな突出を有する小球となっています。すなわち末端の形状に限って言えば、クロワ・プラットはクロワ・ジャネットと共通しています。サヴォワ地方のクロワ・ド・クゥはほとんどが複雑な形状で、クロワ・プラットのミニマリスティックな形状は異彩を放っています。




 十九世紀のフランスには、その地方ごとに独特の衣装やアクセサリー、ビジュ(仏 bijoux ジュエリー)がありました。このように地域性豊かな伝統的なジュエリーを総称して、ビジュ・レジオノ(仏 bijoux régionaux)と呼びます。単数形はビジュ・レジオナル(仏 bijou régional)です。

 ビジュ・レジオノは豊かな地域で最もよく発達しました。ブルターニュやプロヴァンスには数多くの見事なビジュがあります。プロヴァンスの北隣に当たるサヴォワ地方も多彩なビジュ・レジオノで知られる地域で、谷に位置する町や村同士が急峻な高山で隔てられているゆえに、狭い地域でありながらもビジュ・レジオノの分化が進んでいます。クロワ・サヴォワヤルド(仏 croix savoyardes サヴォワの十字架)と呼ばれるクロワ・ド・クゥ(仏 croix de cou 十字架型ペンダント)に限っても、アルノルド・ヴァン・ジュネップ(Arnold van Gennep, 1873 - 1957)によると、十四もの変種を数えることができます。

 十九世紀半ば以降にフランス社会の世俗化が進み、また鉄道網や電信、マスメディアが発達するにつれて、地方文化は弱体化し、消滅してゆきました。それに伴いビジュ・レジオノも姿を消してゆき、現在では専門書や博物館の収蔵品カタログでしか目にすることができません。本品「クロワ・プラット」も、そのようなもののひとつです。アンティークのクロワ・プラットは入手困難で、いずれも稀少品です。





 クロワ・プラットは十四種あるクロワ・サヴォワヤルドのひとつです。この十字架は主にサヴォワ地方の北半分(現在のオート=サヴォワ県)で使われますが、ラ・モーリエンヌ(la Maurienne)の中部、及びラ・タランテーズ(la Tarantaise)に近い高地の村ティーニュ(Tignes)にも分布しています。

 十九世紀は社会全体が豊かでなかったために、貴金属製のビジュ・レジオノは薄く小さく作られます。厚みが必要な場合は、立体的パターンを打ち出した非常に薄い貴金属の板を背中合わせに接合し、中空の品物を作ります。





 最上部のフルール・ド・リスに、ジュエリー工房の刻印があります。本品は銀色ですが、貴金属検質所の刻印はありません。くすみや黒ずみもなく非常に綺麗な状態ですので、材質はマユショル(仏 maillechort)と思われます。

 マユショルはフルートや懐中時計のケース、硬貨などの素材に使われる合金で、美しい輝きと優れた耐摩耗性を備えます。薄板を立体的に張り合わせた貴金属製の十字架は、折れ曲がったり、破断したり、溶接部が外れたりする危険性がありますが、マユショル製の本品は中身が詰まっているためにたいへん丈夫で、張り合わせ品のような心配がありません。重量は六グラム強で五百円硬貨に近く、手に取ったときの心地よい重みに高級感があります。





 本品は職人の手でほぼ完璧に仕上げられ、どこにも瑕疵(かし 欠点)が無いゆえに、ビジュ・レジオナルとしては例外的に単純な形状も手伝って、近年に作られた工業製品と見紛(みまが)います。しかしながら本品は産業的方法、すなわち鋳造や打刻で作られたのではありません。マユショルの板の切り抜きから数十工程の鑢(やすり)掛け、環の取り付けまで、本品の製作はサヴォワの熟練ジュエリー職人がすべて手作業で行っています。

 本品の実物を注意深く観察すると、十字架本体が人の手による鑢掛けで面を取られ整形されていること、横木両端と縦木下端もそれぞれ独立して鑢掛けによる整形が為されていること、フルール・ド・リス(仏 fleur de lys 百合の花)を模(かたど)る上部の装飾も厚板から手作業で切り出され、根気良く鑢を掛けて薄く整形されていることがわかります。それゆえ本品は「製品」ではなく「作品」であり、高い美術的水準にある工芸品といえます。

 なお商品写真では十字架の側面が明るい線状に写っていますが、これは光の反射によるものです。鋳張り(金型分割面が残した線)ではありません。本品は鋳造品ではないので、金型は使用していません。また写真では本品は艶(つや)が無いように見えますが、実物には美しい金属光沢があります。





 本品の表裏はフルール・ド・リスの下端を見れば判別できますが、表(おもて)面と同様に、裏面も丁寧に作られています。本品を製作したジュエリー職人は、ただの一箇所も手を抜いていません。





 本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず実用上、美観上とも特筆すべき瑕疵(かし 欠点)は何もありません。上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が実物をご覧になれば、写真で見るのに比べて一回り大きなサイズに感じられます。

 十九世紀のクロワ・ド・クゥといえば、クロワ・ジャネットがよく知られています。アンティークのクロワ・ジャネットは稀少品ですが、本品クロワ・プラットはさらに稀少で、手に入れることはまず不可能です。稀に手に入った場合でも、大抵はごく小さな作例で、本品のように大きな作品は見つかりません。本品は伝統的意匠に則って製作されたクロワ・サヴォワヤルド(サヴォワの十字架)ですが、当地のジュエリー職人が全くの手作りで製作した工芸品であり、製作の手間の点でも、類品がおそらくほとんど現存していないであろうという点でも、一点ものと言って差支えありません。


 筆者はビジュ・レジオノの収集に力を入れ、常に良いものを探していますが、本品は芸術性、優れた職人技、稀少性、資料性、保存状態等、いずれの点でも第一級の品物です。本品と同等水準のクロワ・プラットはおそらく二度と手に入らないので、本当は手放したくないのですが、アンティークアナスタシアは美術館ではなくアンティーク店ですので、大切にしてくださる方にお譲りいたします。

 当店の商品は現金一括払い、ご来店時のクレジットカード払いのほか、現金の分割払い(二回、三回、六回など。金利手数料無し)でもご購入いただけます。当店ではお客様のご希望に出来る限り柔軟に対応しております。





58,000円 販売終了 SOLD

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