M. バウアー作 「アヴェ・マリア 白百合の聖母」 アール・ヌーヴォーの浮き彫り型オラトワール
88 x 73 mm
フランス 19世紀末から20世紀初頭
昔のヨーロッパの家庭の一角、コアン・ド・デュに、十字架や聖像とともに置かれていた信心具、オラトワール (oratoire)。金の後光を背景に、マリアの横顔が大きく表されています。オラトワールの下部に「アヴェ・マリア」と書かれていることから、天使ガブリエルに受胎を告知された少女マリアの横顔であることが分かります。
プロテスタントと違って、カトリックでは聖母マリアを大切にしますが、それは受胎告知の際、マリアがガブリエルに対して「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答えたからです。プロテスタント思想においては、人間は善を為すことができません。人間にできるのは、罪を犯すことだけです。しかるにカトリックにおいては、人間は善を為す自由を有すると考えられています。神は救いを強制せず、マリアは自由意志を以って、全人類のために救いを受け入れるという善を為したのです。
オラトワールの歳若き聖母はしっかりと目を開き、前方をまっすぐに見つめています。天使から救世主の受胎を告知されるという想像を絶する事態にもかかわらず、心の平和がうかがえるその表情からは、すべてを神に委ねるマリアの信仰が読み取れます。
旧約聖書の恋の歌、「雅歌」の主人公である美しい乙女は、無条件の信仰ゆえに神の眼に適(かな)う女性として選ばれた少女マリアの前表であるとされました。下に引用する「雅歌」の聖句に基づき、百合の花がマリアの象徴として重要な役割を果たします。
Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata 2: 2) おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。 (新共同訳 2: 2)
このオラトワールにおいても、自身が百合であるマリアを囲んで、いくつもの百合の花々が咲き乱れています。
百合は宗教美術にありがちな様式化をされておらず、自然のままの姿を表しています。百合のうちの一輪は画面から上方に突き出て、オラトワールのシルエットを左右非対称にしています。またオラトワールの周囲は、植物的な曲線で取り囲まれています。これらは日本美術の強い影響の下(もと)、19世紀末のヨーロッパを席捲したアール・ヌーヴォー様式そのものです。浮世絵をはじめとする日本美術の影響は、百合の写実的な表現、平坦な背景、金色をベタ塗りにした聖母の後光に強く表われています。
聖母像の右下の帯上に彫刻家の署名 (M. BAUER)、左下に工房の名前 (J. M. EDITEUR) が刻まれています。工房が「出版社」(editeur)
となっているのは、彫刻家(エングレーヴァー)が製作する版画、カニヴェの版元が、やはり彫刻家の仕事であるメダイやオラトワールを製作していたからです。
このオラトワールは、鋳造により、浮き彫り風あるいは打ち出し細工風に作られており、壁面に立てかけるか、あるいは額に納めるようになっています。額に納める場合、ベルベットを背景にすると美しく引き立ちます。額装は当店でも承ります。
本体価格 21,800円
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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