稀少品 ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ作 「汚れなき御心と無原罪の御宿リ」 天使祝詞とロサ・ミスティカの美麗メダイ アール・ヌーヴォーの芸術品 26.0 x 20.0 mm


突出部分を含むサイズ 縦 26.0 x 横 20.0 mm


フランス  二十世紀前半



 若きマリアの優しい横顔を、柔らかなタッチで浮き彫りにした美しいメダイ。アール・ヌーヴォー様式に基づいて数多くの美しい女性像を制作したフランスのメダイユ彫刻家、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ(Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923)の作品です。

 本品は一枚のメダイに二つの意味が籠められています。ひとつの意味は「聖母の汚れなき御心」、もうひとつの意味は「無原罪の御宿リ」です。





 シャプレ(仏 chapelet 数珠、ロザリオ)のセンター・メダルをフランス語で「クール」(仏 cœur 心臓、ハート)と呼びます。本品は独立したメダイであり、シャプレの部品ではありませんが、同時代にフランスで製作されたシャプレのクール(センター・メダル)と同様の心臓形をしています。


 心臓は生命と愛の象(かたど)りです。しかるに本品には中央の楕円形画面に聖母が大きく彫られ、心臓形と聖母が一体化しています。それゆえ本品は聖母マリアの生命と愛、すなわち「聖母マリアの汚れなき御心」を象徴しています。「聖母の汚れなき聖心」は、神とキリストに向かうマリアの愛を表します。

 聖母マリアはキリスト者の鑑(かがみ 手本)であり、神及びキリストと対比されるキリスト者の代表です。それゆえ「聖母の汚れなき聖心」は、人間が神とキリストを愛する愛を表します。しかるに人間が神とキリストに愛する愛は、神とキリストから人に向かう愛の反映にすぎません。したがって本品は罪びとを愛し給う神とキリストの愛を表しているということもできます。

 同時代に作られたフランス製シャプレ(ロザリオ)のクールと同じ形であることにより、本品は天使祝詞(アヴェ・マリア)と栄唱(グロリア)の祈りをも思い起こさせます。「人間が神とキリストに愛する愛は、神とキリストから人に向かう愛の反映にすぎない」と先ほど書きました。しかしながら神とキリストは常に変わらず人を愛し給う一方で、人間は神とキリストを愛するとは限りません。神とキリストを常に愛し続けるためには、意志的な信仰が必要です。それゆえシャプレ(ロザリオ)のクールと同じ形の本品は、常に唱えるべきロザリオの象徴でもあり、堅忍(けんにん 持続的信仰)の象(かたど)りでもあります。





 本品は聖母の前後に一輪ずつ、大きな薔薇が浮き彫りにされています。良く目立つ薔薇の浮彫は、心臓型の輪郭と並んで、本品における意匠上の特徴となっています。

 ロレトの連祷において、聖母マリアは「ロサ・ミスティカ」(ROSA MYSTICA)と呼ばれています。これはラテン語で「神秘の薔薇」、「奇(くす)しき薔薇」という意味です。五世紀のラテン詩人セドゥーリウスは「カルメン・パスカーレ」("CARMEN PASCHALE" )において、棘のある繁みから生え出でつつも傷つくことなく美しい薔薇の花を、人祖の妻エヴァと同じく女性でありながらも、エヴァの罪に傷つくことがない無原罪の御宿り、すなわちマリアの象徴としています。したがって本品に彫られた二輪の薔薇が棘を持たない神秘の薔薇であるならば、これらの薔薇は無原罪の御宿リなるマリア自身を表します。

 同様の表現は「雅歌」二章二節の詩句、「おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花」にも見られます。「雅歌」は旧約聖書に含まれる一書で、「の中に咲きいでたゆりの花」とは異民族に囲まれた選民イスラエルを指します。しかしながら中世のヨーロッパではキリスト教の立場から解釈され、二章二節の「わたしの恋人」は、神に選ばれたマリアを指すと考えられました。したがってマリアの前後に彫られた薔薇が、棘の有る通常の薔薇であるとすれば、二輪の薔薇に囲まれたマリアは百合の花であり、やはり無原罪の御宿リを表すことになります。百合の花は「純潔の象徴」として知られていますが、「神に選ばれた身分の象徴」、「神に対する信頼の象徴」でもあります。





 整った横顔を見せる本品の聖母は、口許にかすかなほほえみをたたえつつ、神の愛と神への愛に思いを潜(ひそ)めています。その穏やかな表情は、救世主を産むという大任を果たすように天使ガブリエルから告げられても、いささかも動じなかったマリアの、神への限りない信頼を表しています。




(上・参考写真) ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ作 「無原罪の御宿り」 ブロンズ製の自立式メダイユ 直径 55.0 mm 1880 - 1890年代 当店の販売済み商品


 マリアの前、楕円形画面の縁に近いところに、ジャン=バティスト・エミール・ドロプシ(Jean-Baptiste Émile Dropsy, 1848 - 1923)のサイン(É. Dropsy)があります。ジャン=バティスト・エミール・ドロプシは、キリスト教美術の分野において、十九世紀後半から1920年代初めのフランスで活躍した最も優れたメダイユ彫刻家のひとりであり、やはり高名なメダイユ彫刻家であるアンリ・ドロプシ(Henri Dropsy, 1885 - 1969)の父としても知られています。ジャン=バティスト・エミール・ドロプシは数点の美しい聖母像を彫っており、本品はそのうちの一点です。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖母の顔は各部が一ミリメートル未満のサイズです。一ミリメートル未満の各部を整った形に彫るためには、数十分の一ミリメートルのオーダーで精密に彫刻する必要があります。聖母の衣とヴェール、八重咲の薔薇の花弁、鋸歯状の縁と脈管を有する葉も、聖母自身と同様の自然さで彫刻され、大型の浮彫作品と比べても全く遜色がありません。

 信心具のメダイにおいて、マグダラのマリア以外の聖女はヴェールに髪を包みます。聖母マリアも例外ではなく、髪がヴェールから覗く場合でも前髪がわずかに見える程度です。しかしながら本品では前髪だけではなく肩の部分にも髪の房が見えており、アール・ヌーヴォー様式による世俗的女性像と共通性が認められます。





 本品は数十年前以上にフランスで製作された古い品物ですが、浮き彫りの突出部分にも摩耗はまったく見られず、極めて良好な保存状態です。上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になると、写真で見るよりもひとまわり大きなサイズに感じられます。

 エミール・ドロプシは本品以外の聖母像も彫っていますが、筆者の知る限り、本品の聖母は最も華やかな作例です。筆者はさまざまなグラヴール(メダイユ彫刻家)による多様なメダイをこれまでに数多く見て来ましたが、本品と同じ聖母像は一度も目にしたことがありません。美しい聖母像を得意とするエミール・ドロプシの作品のうちでも、本品はとりわけ稀少な作例といえます。





本体価格 24,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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