美麗大型メダイユ 北アメリカの殉教者 聖イザック・ジョーグ、聖ジャン・ド・ブレブフと六人の仲間たち 直径 45ミリメートル 重量 35グラム 高い芸術水準の名品 ドイツ 1930年
1639年11月、ヒューロン湖の東側にあるジョージア湾の南岸に十八人のフランス人イエズス会士が拠点を造り、この小屋を聖母マリアに捧げて、ヒューロン族の国におけるサント＝マリ（Sainte-Marie-au-pays-des-Hurons）と名付けました。ここを拠点として活動するイエズス会の司祭六名と俗人二名の合計八名が、1642年から
1649年にかけて次々に殉教しました。八人の聖人は北アメリカの殉教者（カナダの殉教者）と呼ばれ、1930年に列聖されました。
本品メダイは八聖人の列聖を記念して制作されました。聖人たちが持つナツメヤシの葉は殉教者の栄冠を、足下の雲は聖人たちが天上に挙げられていることを表します。
一方の面には、向かって左から順にジャン・ド・ラランド（St. Jean de la Lande, +1646）、イザック・ジョーグ（St. Isaac Jogues, 1607 - 1646）、ルネ・グピル（St René Goupil, 1608 - 1642）の三人が浮き彫りにされています。サーンクティー・マルテュレース、ド＝ラ＝ランド、ジョーグ、グピル、ソキイー・イエースー（羅 SĀNCTI MARTYRĒS
DE LA LANDE - JOGUES - GOUPIL, SOCIĪ JĒSŪ イエズス会の聖なる殉教者たるド＝ラ＝ランド、ジョーグ、グピル）というラテン語の銘が、三人の群像を取り巻いています。
元々神父として先住民の居住地に入ったのは三人のうちイザック・ジョーグ（St. Isaac Jogues, 1607 - 1646）だけで、あとの二人は信仰深い俗人でした。それゆえジャン・ド・ラランドは俗人の服装で表されています。ルネ・グピルも俗人でしたが、殉教の直前にイザック・ジョーグに対してイエズス会の誓願を立てましたので、本品メダイにおいては神父のスータン姿で表現されています。
メダイ下部にはスタティー・ウーニティー（羅 STATI UNITII）の文字を刻んだ球体が配され、その左右に分かれてアンノー・ドミニー MCMXXX（ANNO
DOMINI MCMXXX 主の年 1900、西暦 1900年）と記されています。
スタティー・ウーニティーはラテン語で合衆国（英 the United States）の意味です。本品裏面の同じ位置にはカナダ（CANADA）と書かれていますので、この面のスタティー・ウーニティーは明らかに国名を指しています。しかしながらこのスタティーを動詞ストー（羅 STŌ）の完了分詞と見做せば、スタティー・ウーニティーは「互いに結び合わされてしっかりと立つ人たち」という意味になります。またスタティーを動詞スタトゥオー（羅 STATUŌ）の完了分詞と見做せば、「堅固な心で結びついた人たち」という意味に解せます。
実際のところ、英語ステイト（英 state 州）はストーまたはスタトゥオーの完了分詞に由来します。それゆえスタティー・ウーニティーを「互いに結び合わされてしっかりと立つ人たち」「堅固な心で結びついた人たち」という意味に解するのは、語の原意に忠実な読みと言えます。
メダイユ彫刻をはじめ、北アメリカの殉教者を描く図像は、通例八人が一つの画面に集約されます。しかるに本品メダイは八人を三人と五人の二群に分けています。三人の群と五人の群のあいだには、信仰の強さに関しても、殉教の年代や様態に関しても、違いはありません。それにもかかわらず八人を二群に分けた理由は、両群の人数を奇数とすることでメダイ各面の群像を三角形に構成し、視覚的安定を得るためです。三角形の画面構成は数々の名画にも見られる手法であり、信心具とは一線を画して芸術作品の域に達した本品ならではの特徴といえます。
ルネ・グピルの足元向かって右側に、メダイユ工房の印と思われる十字架とHKのモノグラム、及びデポセ（仏 Déposé 意匠登録）の文字が打刻されています。
上部に突出した環には、メイド・イン・ジャーマニー（英 MADE INGERMANY ドイツ製）の刻印があります。第二次世界大戦で敗北したドイツは東西に分割されましたが、本品が制作された 1930年はドイツ分割よりも前ですので、制作国名はウエスト・ジャーマニー（西ドイツ）ではなく、単にジャーマニー（ドイツ）となっています。
上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。本品は四十五ミリメートルの直径があり、類品に比べてたいへん大きなサイズですが、それでも人物像の顔は直径ニミリメートルほどにすぎません。にもかかわらず群像の顔は一人一人が明確に異なり、肖像画と比較すれば個人名が容易にわかります。聖人たちの敬虔な感情は本来不可視のものですが、メダイユ彫刻家の卓越した技量により、視線の向きや手の表情のうちに可視化されています。
聖人たちの背景には天来の光が降り注ぎ、足元には雲も表現されています。光や雲は絵画であれば容易に描くことができますが、メダイユ彫刻では色を使うことができません。そのような制約にもかかわらず本品の彫刻家は、光も雲も金属の凹凸のみで巧みに表現しています。かかる技量があってこそ、本来不可視の価値である敬虔さや信仰心さえも彫刻で表すことが可能になっています。
もう一方の面には、向かって左から順にアントワーヌ・ダニエル（St. Antoine Daniel, 1601 - 1649）、ガブリエル・ラルマン（St. Gabriel Lallemant, 1610 - 1649）、ジャン・ド・ブレブフ（St. Jean de Brebeuf, 1593 - 1649）、シャルル・ガルニエ（St. Charles Garnier, 1606 - 1649）、ノエル・シャバネル(St. Noel Chabanel, 1613 - 1649）の五人が浮き彫りにされています。サーンクティー・マルテュレース、ダニエル、ラルマン、ド＝ブレブフ、ガルニエ、シャバネル、ソキイー・イエースー（羅
SĀNCTI MARTYRĒS DE LA LANDE - JOGUES - GOUPIL, SOCIĪ JĒSŪ イエズス会の聖なる殉教者たるダニエル、ラルマン、ド＝ブレブフ、ガルニエ、シャバネル）というラテン語の銘が、群像を取り巻いています。
メダイ下部にはカナダ（CANADA）の文字を刻んだ球体が配され、その左右に分かれてアンノー・ドミニー MCMXXX（ANNO DOMINI
MCMXXX 主の年 1900、西暦 1900年）と記されています。
殉教者たちが宣教の拠点としたサント・マリ（ヒューロン族の国におけるサント＝マリ Sainte-Marie-au-pays-des-Hurons）があった場所は、現在カナダ領です。しかしながら宣教師たちが殉教した十七世紀の新大陸はアメリカ先住民（アメリカインディアン）の土地であり、カナダもアメリカ合衆国もいまだ成立していませんでした。それゆえこれらイエズス会の殉教者たちはザ・ノース・アメリカン・マーターズ（英
The North Ammerican Martyrs 北アメリカの殉教者たち）と呼ばれ、北アメリカ全体で崇敬されています。殉教の日付はそれぞれの人によって異なりますが、ザ・ノース・アメリカン・マーターズの祭日は、カナダにおいては九月二十六日、アメリカ合衆国においては十月二十九日となっています。
ノエル・シャバネル(St. Noel Chabanel, 1613 - 1649）が跪（ひざまず）く右側、メダイの縁に近いところに、十字架とHKのモノグラム、及びデポセ（仏
Déposé 意匠登録）の文字が打刻されています。
上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。人物像の顔は直径ニミリメートルほどにすぎません。それにもかかわらず聖人たちの顔は一人一人の個性が巧みに再現され、可視化された愛と信仰が表情に刻まれています。
本品は 1930年に制作された古いメダイユです。浮き彫り彫刻は突出部分が摩滅しやすいですが、本品は突出部分も全く摩滅しておらず、百年近くのあいだ新品のままの状態で大切に保存されてきたことがわかります。本品は細密浮き彫りの極めて優れた作例であり、次代に伝える価値のある美術工芸品といえます。
上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。本品は直径四十五ミリメートルと例外的に大きなサイズですが、女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもさらにひと回り大きく感じられます。
八聖人のメダイユは 1930年の列聖時にのみ制作され、手に入るのはその際の作品に限られます。本品も 1930年の作品ですが、九十年以上前のものとは信じがたいほど良好な保存状態です。そもそも八聖人のメダイはこれまでに作られた数が少ないですが、本品はとりわけ迫真性に優れます。保存状態はこれ以上無いほどに良好です。サイズに関しても本品のような大型の作例はたいへん珍しく、筆者（広川）が自身初めて目にする極めて稀少な作品です。
本体価格 34,800円
電話 (078-855-2502) またはメール（procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp）にてご注文くださいませ。
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