生命樹に比される黄楊の珠 《ルルドの無原罪の御宿り 十五連のロゼール 全長 57.5 cm》 聖母に捧げるフランスの祈り 1940 - 50年代


クルシフィクスのサイズ 縦 36.7 x 横 19.4 mm  最大の厚み 6.5 mm

全長 57.5 cm


環状部分の周の長さ 99 cm

天使祝詞の珠の直径 約 5 mm  主の祈りの珠の直径 約 6 mm



 二十世紀まで使われていた十五連のロゼール(仏 rosaire ロザリオ)。1940年代ないし 50年代のフランスで制作されたアンティーク品(ヴィンテージ品)です。





 十五連のロゼールの場合も五連のシャプレの場合も、ロザリオの祈りはクルシフィクスから始まります。本品のクルシフィクスは十字架の両面に皮革あるいは皮革風の素材を象嵌し、表には打ち出し細工のコルプス(キリスト像)を、裏には茨の冠を模した円盤を、それぞれ鋲留めしています。二種類の珠はいずれも黄楊(つげ)製です。金属製チェーンでなく蝋引きの綿紐を使う様式は十九世紀前半以前の古形を遺し、クール(仏 cœur センター・メダル)を欠いています。

 堅くて肌理(きめ)が細かく、美しい材として工芸品に多用される黄楊は、キリスト教以前の古代から不死と永遠を象徴します。また寒冷な北ヨーロッパではナツメヤシの葉やオリーヴの枝が手に入りにくいゆえに、黄楊はそれらの植物に代わって枝の主日に祝別されます。したがって黄楊は、ナツメヤシの葉やオリーヴの枝と同様に、キリストへの信仰告白、救世主を迎える喜び、キリストの勝利と栄光、神との平和をも表します。古いロザリオの木製ビーズは黒く染められている場合がほとんどですが、本品のビーズは白木のままです。ビーズをつなぐ麻紐も、染められずに元の色のままです。キリスト教は自然崇拝の宗教ではありませんが、白木のままのロザリオには、自然物である木の生命力が感じられます。




(上) Piero della Francesca, "Adorazione della Croce" (dettaglio), 1452 - 66, affresco, la cappella maggiore della basilica di San Francesco, Arezzo


 中世以来ヨーロッパに伝わる伝説によると、イエスの十字架は生命樹から作られました。しかるに生命樹は聖なる次元と繋がるもの、すなわちアークシス・ムーンディー(羅 AXIS MUNDI 世界軸)です。したがってイエスの十字架は世界軸に他なりません。

 我々は世界軸を要(かなめ 支点)として、自らが生きる世界を秩序あるコスモス(希 κόσμος)に変えます。シカゴ大学神学部教授のミルチャ・エリアーデ(Mircea Eliade 1907 - 1986)は、1957年の著書「聖なるものと俗なるもの ― 宗教的なるものの本質について」(„Das Heilige und das Profane - Vom Wesen des Religiösen“, Rowohlts Deutsche Enzyklopädie, Nr. 31, Hamburg, 1957)において、均質なウニヴェルズム(独 das Universum 世界)を、世界軸あるいは固定点(独 ein feste Punkt)がコスモス化(独 die Kosmisierung)する、と論じています。





 イエスがかかり給うた十字架は、キリスト教徒の世界軸です。キリストの十字架はエルサレムのゴルゴタに立てられましたが、ロゼール(ロザリオ)の十字架はその再現であって、持ち運び可能な世界軸に他なりません。とりわけ黄楊の白木でできたビーズに連なる本品のクルシフィクスは、黄楊が不死を象徴するゆえに、誰の目にも明らかな生命樹の象(かたど)りとなっています。

 他方ロゼールのビーズは、一つひとつが天使祝詞(アヴェ・マリア)を形象化しています。しかるにアヴェ(羅 AVE)またはカイレ(希 Χαῖρε)はメシアの出現を予告する言葉であって、救済史の要(かなめ)です。非宗教的人間は時間を均質な流れとして表象しますが、キリスト教徒は受胎告知を固定点として、いわば時間をコスモス化(独 die Kosmisierung)します。それゆえカイレ(アヴェ)はいわば時間における世界軸であり、空間における世界軸と同様の働きをします。本品ロゼールの黄楊製ビーズは、十字架と同様に聖なるものと繋がる世界軸であり、これを通して救いと生命がロゼールを祈る人にもたらされます。





 クルシフィクス裏面の円盤にはフランス語でサンクチュエール・ド・ノートル=ダム・ド・ルルド(仏 Sanctuaire de Notre-Dame de Lourdes ルルドの聖母の聖地)と言う文字が打ち出されています。聖母出現の地として最も多くの巡礼者を集めるルルドは、フランスにおける最も有力な世界軸です。ルルドの聖母は自ら無原罪の御宿りを名乗り給い、ロザリオの聖母とも呼ばれます。ロザリオで唱える天使祝詞は無原罪の御宿りに執り成しを求める祈りであるゆえに、ルルドのロザリオである本品は聖母と繋がる「持ち運び可能な世界軸」として、大きな安らぎを与えてくれる信心具となっています。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。十五連のロザリオの長さは七十ないし九十センチメートルほどのものが多いですが、本品の長さは 57.5センチメートルと短めで、携帯しても絡まりにくく作られています。

 本品は二十世紀中頃にフランスのロザリオ工房で手作りされた品物です。数十年前のヴィンテージ品ですが、保存状態は良好で、特筆すべき問題はありません。紐の強度も問題ありません。連の数は十五で、現在の四玄義ではなく三玄義に対応していますが、途中で折り返して祈れば四玄義にも使えます。古い時代においても元々作られることが少なかったロゼール(十五連のロザリオ)が、現代まで美しい状態で遺った稀少な品物です。





本体価格 22,000円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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