重なり合う二つの聖心 心臓型クールと水玉のビーズ フランスのアンティーク・シャプレ 全長 46 cm 1870 - 1880年代頃


全長 46 cm


突出部分を含むクルシフィクスのサイズ 39.9 x 21.0 mm

突出部分を含むクールのサイズ 18.3 x 15.5 mm


ビーズの直径 約 7mm


フランス  1870 - 1880年代頃



 フランス語ではロザリオを「シャプレ」(chapelet)、センター・メダルを「クール」(cœur 心臓)といいます。本品はブロンズのクルシフィクスとクール、不透明の青色ガラス製ビーズを使用した美しいシャプレです。本品の製作年代は 1870年代ないし 1880年代で、フランスのアンティーク品です。わが国でいえば明治前半初期頃です。





 本品の金属部分、すなわちクルシフィクス、クール、チェーンはブロンズでできています。

 クルシフィクスはシンプルなラテン十字の上に、打ち出し細工によるブロンズ製コルプス(キリスト像)を溶接しています。コルプスの頭上に表されることが多いティトゥルス(TITULUS 罪状書き、INRIの札)は略されています。祈る手に触れられて磨滅した優しい丸みと、歳月を経た物だけが獲得する美しい古色が、真正のアンティーク品ならではの趣きを醸しています。クルシフィクスは良い状態で、溶接の剥離等の問題は一切ありません。

 シャプレ(ロザリオ)のセンター・メダルを、フランス語でクール(仏 cœur 心臓)と呼びます。本品のクールは中空の心臓形(ハート形)で、ブロンズの薄板を合わせることにより、立体性を持たせています。クールに打ち出された模様は両面とも同じです。クールは片面(上下の写真に写っている面)の一部に凹みがありますが、充分に良い状態です。環状部分の破断等、特筆すべき問題は一切ありません。

 チェーンは破断等も無く、良い状態です。実用上、美観上での問題は一切ありません。





 本品のクールはイエスの「ジ」(J)を打ち出した楕円と、マリアの「エム」(M)を打ち出した楕円を横に並べ、全体の形は「クール」(仏 cœur)の名前通りに心臓を模(かたど)ります。しかるに心臓は生命と愛の座です。それゆえイエスとマリアの名を冠した心臓は、「イエスの生命と愛」(キリストの聖心)並びに「マリアの生命と愛」(聖母の聖心、汚れなき御心)を重層的に表します。

 「シャプレ・ド・ラ・サント・ヴィエルジュ」(仏 chapelet de la Sainte Vierge 五連のロザリオ)は、天使祝詞の回数を数えるための数珠であり、天使祝詞はマリアに対する受胎告知をマリアとともに喜び、またマリアに執り成しを願う祈りです。しかるに救い主イエスは罪びとを愛し、罪びとに生命を与えるために、地上に降誕し給いました。したがってクールに刻まれたイエスの御名は、キリストの聖心(サクレ=クール)、すなわち罪びとに対するイエス・キリストの愛と、イエス・キリストが罪びと与え給うた生命を表しています。

 他方、聖母の聖心(汚れなき御心)は、キリストの愛の反映です。トマス・アクィナスは「スンマ・テオロギアエ」第一部108問5項 「天使たちの位階には適切な名が付けられているか」("Utrum ordines angelorum convenienter nominentur.")において、セラフィムの属性を「神に向かう愛」であると論じ、あたかも火が周囲に燃え広がるように、神に向かう愛がセラフィムから下位の存在者へと伝わって行く様子を述べています。ちょうどそれと同じように、神とキリストの愛は聖母の内に反映し、「神への愛」を生じさせて、聖母の全存在を神へと向かわせます。これと同時に愛の火に焼かれてキリストと似た者となり給うた聖母は、キリストがなさったのと同様にすべての罪びとを愛し、罪びとの執り成し手として働き給います。


 聖母は一般のキリスト者とは違った特別な地位におられる一方で、キリスト者の鑑(かがみ 手本)でもあります。それゆえ聖母の身に起こった「神の愛の火が燃え移る」という体験は、ロザリオを祈る全てのキリスト者に起こるべきことでもあります。

 聖母は十字架の下(もと)においても信仰を捨てず、キリストに従い給いました。「イエズス、マリア」の名を帯びた本品のクールは、本品を用いて祈る人の信仰の戦い、すなわちペルセヴェランス(仏 persévérance 堅忍、信仰を保ち続ける心)をも象(かたど)ります。二つの聖なる名前「イエズス、マリア」、あるいはその略記である「ジ・エム」(JM)は、ジャンヌ・ダルクの軍旗や天草の乱におけるキリシタン側の軍旗など、神の名による旗印を連想させ、地上を旅するキリスト者に勇気を与えてくれます。





 本品のビーズは不透明の青色ガラスでできています。ビーズは完全な手作りで、ひとつひとつのサイズと形が微妙に異なります。それぞれのビーズには、白色不透明ガラスによる三か所ずつの斑点が、これも手作業によって付けられています。ビーズの数は五十九個で、すべて揃っています。


 青は天空の色であり、球形ビーズの形状とともに、神のまします天、あるいは神ご自身を象徴します。本品のビーズの色と形状が神の象(かたど)りであるならば、三つの白点は三位一体を表現したものと考えることができます。

 神は「オントース・オン」(希 ὄντως ὄν 在りて在る者 「出エジプト記」 3:13)、すなわち必然的存在者であり、本来は被造物とは別の次元におられる方です。しかしながら被造物から隔絶された御方であるにもかかわらず、神は人知を絶する愛ゆえに罪びとを愛し、マリアを通して地上に降誕し給いました。

 本品では斑点の数が三つであることにより、ビーズをどの方向から見ても必ず白い点が見えるように作られていますが、これは三位一体の神が、人知では測り知れない愛ゆえに、常に人に寄り添い給うことを表します。キリストとしてお生まれになった神は三位一体の第二位格(子なる神)であって、第一位格(父なる神)や第三位格(聖霊なる神)ではありません。しかしながら神は三にして一ですから、マリアによって地上に降誕し給うた「子なる神」を、ペルソナ間のペリコーレーシス(希 περιχώρησις 相互浸透)に基づき、三つの点で表しても何ら問題はありません。神の愛と受肉という究極のミステリウム(羅 MYSTERIUM 奥義)は、点の数を三つにすることでいっそう強調的に表されます。





 西ヨーロッパにおけるゴシック期以降の宗教美術において、青は聖母を象徴する色です。それゆえ三つの白点が神を表しているとすれば、青の中に三つの白点がある意匠は、聖母のうちに神が宿っておられる状態、すなわち聖母による救い主の受胎を表します。マリアは受胎を告知されたとき、「わたしは主のはしためです。お言葉どおり、この身に成りますように」と答えました。この出来事は、神が救いを強制せず、マリアが自由意思によって救いを受け容れたことを意味します。したがって三つの白点がある青色のビーズは、「人知を絶する神の愛」と「アブラハムやヨブにも勝るマリアの信仰」を象徴しています。




(上・参考写真) Fra Filippo Lippi (1406 - 1469), Madonna and Child Enthroned with Two Angels, 1437, tempera and gold on wood, Metropolitan Museum of Art, New York


 青は智慧の象徴でもあります。

 上の写真は上智の座の聖母を描いたフラ・フィリッポ・リッピのテンペラ画で、メトロポリタン美術館に収蔵されています。この作品において聖母子の右(向かって左)にいる天使は、「集会書」24章26節(現行の聖書では「シラ書」 24章 19節)の聖句「われを欲する汝等は皆、われに来(きた)りて、われの産み出すものにて満たされよ」(羅 VENITE AD ME OMNES QUI CONCUPISCITIS ME ET A GENERATIONIBUS MEIS IMPLEMINI)が書かれた巻物を手にしています。「集会書」24章の「我」とは「知恵」(SAPIENTIA)すなわちイエスを指します。

 このシャプレに使われている青色ビーズも、その中にある三つの白点が神を表しているとすれば、神とキリストと聖霊の愛を知る智慧を表していることになります。真の智慧によって神の愛を知る人は、シャプレを手にし、聖母に執り成しを願います。それゆえ本品のビーズは、シャプレを持つ人の「信仰の智慧」をも象徴しています。


 本品のビーズはひとつひとつが手作りであるために、形とサイズにばらつきがあります。白い斑点に関しても、冷えると乳白色になるガラスを、融解した状態のまま手作業によってビーズに載せ、可愛らしい水玉模様としています。

 白色不透明のガラスを作るのは、技術的にたいへん難しいことです。本品が作られたのと同時期、すなわち明治初年頃の日本では、白色不透明ガラスを独自に作ることができず、西洋で作られた白色不透明ガラスの破片を融かして使っていました。本品の白色ガラスのように、薄い層が完全な不透明性を有するのは、十九世紀フランスにおけるガラス工芸が高い水準に到達していたことを示します。





 本品は百数十年前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。ガラス製ビーズに欠損や特筆すべき破損は無く、金属部分の強度にも問題はありません。純粋なガラス工芸として見ても美しい青色ガラスのビーズに、「神の愛」「マリアの愛と信仰」「キリスト者の智慧」という多重の象徴的意味を担わせた本品は、工芸技術としての水準が高いのみならず、信心具としての精神性の点でもたいへん優れた作例です。





28,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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