地中海珊瑚色のパート・ド・ヴェール 《生命樹としての幼子イエス  真鍮製メダイの小ロザリオ》 ケルトのエマイユを想起させるフランス製アンティーク 全長 11.5 cm 十九世紀後半から二十世紀初頭


突出部分を含むメダイのサイズ 縦 20.7 x 横 14.6 mm

ガラス製ビーズの直径 およそ 5.5 mm



 チェコ共和国の首都プラハに、跣足カルメル会に属する勝利の聖母教会があり、奇蹟の聖像として知られる幼子イエス像が安置されています。本品はこの幼子イエス像に関する数珠(クーロンヌ、ロザリオ)で、フランス語ではプチット・クーロンヌ・ド・ランファン・ジェジュ・ド・プラグ(仏 petites couronnes de l'Enfant Jésus de Prague プラハの幼子イエスの小ロザリオ)と呼ばれています。フランス語クーロンヌ(仏 couronne)の原意は冠ですが、環状の数珠(ロザリオ)をこのように呼んでいます。





 プチット・クーロンヌ・ド・ランファン・ジェジュ・ド・プラグ(プラハの幼子イエスの小ロザリオ)は、幼子のメダイに続けて三個のビーズ、次の環状部分に十二個のビーズを使います。祈り方は、メダイの部分で「聖なる幼子イエスよ、我らを祝福したまえ」(仏 Saint enfant Jésus, benissez-nous.)、または「崇むべき三位一体よ、聖なる幼子イエスの聖心を、我ら心より崇め奉る」(仏 Adorable Trinité, nous vous offrons toutes les adorations du cœur du Saint Enfant Jésus)と祈り、次の三個のビーズで主の祈りを唱え、環状部分の各ビーズにおいては「言葉は肉となりて、我らのうちに宿りたまえり」(仏 Le Verbe s'est fait chair et il a habité parmi nous.)という言葉の後で天使祝詞を唱えます。





 本品のメダイは真鍮製で、楕円形のマトリクス(母型)により非常に細密なミニアチュール浮き彫りを打刻しています。打刻による浮き彫りは鋳造品に比べて立体性に欠ける反面、凹凸が少ないゆえに摩滅しにくいのが長所です。本品メダイの色が幾分白っぽく見えるのは、もともと施されていた銀めっきが残っているためです。めっきが残っていることからもわかるように、本品は突出部分を含めて浮き彫りの摩滅がほとんど見られません。

 メダイにはプラハの幼子イエスの全身像が刻まれています。信徒が寄進した豪華な衣をまとい戴冠した幼子は、胸の前に右手を挙げて全キリスト教会を祝福しています。左手に載せたグロブス・クルーキゲル(世界球)は、幼子が三位一体の第二のペルソナであり、全宇宙の支配権を有することを表します。幼子イエスを取り囲むように、祈りの言葉がフランス語で刻まれています。

  SAINT ENFANT JÉSUS, BÉNISSEZ-NOUS.  聖なる幼子イエスよ。我らを祝福したまえ。





 裏面にはフランス語で「奇跡を起こし給うプラハの幼子イエス」(仏 L'ENFANT JÉSUS MIRACULEUX DE PRAGUE)と記されています。


 本品のビーズは不透明のガラス製で、溶融したフリット(仏 fritte ガラス粉)の名残が表面に見られることから、パート・ド・ヴェール(仏 la pâte de verre)であることがわかります。本品の赤いビーズは、救い主イエスの血に形象化された神の愛を表します。不思議のメダイにおいてマリアのモノグラムを囲む十二の星と同様に、本品の十二のビーズは全キリスト教会を象徴しています。




(上) Piero della Francesca, "Adorazione della Croce" (dettaglio), 1452 - 66, affresco, la cappella maggiore della basilica di San Francesco, Arezzo ピエロ・デッラ・フランチェスカがアレッツォのサン・フランチェスコ聖堂に描いた連作のうち、「聖なる梁を礼拝するシヴァの女王」


 本品ビーズの赤は地中海珊瑚と同じ色であり、したがって珊瑚を模していると考えられます。珊瑚は腔腸動物が作る群体の骨格ですが、樹木のような外見ゆえに、生命樹及び生命そのものを象徴します。パリのビブリオテーク・ナシオナル・ド・フランス(フランス国立図書館)に収蔵されている「フランス語写本 No. 1036」によると、エデンに生えていた生命樹はアダムとエヴァの罪によって枯死し、やがてイエスの十字架となりました。救い主がこの十字架上で救世を成し遂げ給うたことにより、生命樹は再び永遠の命を取り戻しました。

 旧約聖書の生命樹を十字架の前表と看做す思想は、イエズス会士ガスパル・デ・ロアルテ(Gaspar de Loarte, S. J.,1498 - 1578)の著書「救い主キリストの御受難を黙想するための手引きと助言、ならびに御受難に関する幾つかの黙想」("Instruttione e avisi per meditare la passione di Christo Nostro Redentore; con alcune Meditationi di essa", per il P. Gaspar Loarte Dottor Teologo, della Cpmpagnia di Giesu, Roma, 1570)にも現れて、近世ヨーロッパの宗教界で広く読まれました。この本はキリシタン時代のわが国でも訳出され、1607年、長崎のイエズス会で印刷された「スピリツアル修業」に、第二篇「御パシヨンの観念」として収録されています。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。


 本品はプラハの幼子イエスを生命樹そのものと看做し、イエスから万人へと向かう愛、及び万人に与えられる永遠の生命を、珊瑚色のビーズのうちに形象化しています。奇跡の幼子イエス像はチェコのプラハにありますが、本品はフランスで制作されています。詳しい製作地は不明ですが、富裕でビジュ・レジオナルに富むブルターニュは有力な候補地の一つです。ブルターニュにはケルト文化が色濃く残りますが、ケルトの出土物には地中海珊瑚を模したエマイユ細工が見つかることがあり、この地方でも珊瑚が生命樹と関連づけられていたことが伺えます。ガラスで珊瑚を再現した本品のビーズは、珊瑚を生命樹と看做した地中海文化とガラスで珊瑚を模造する北フランスのケルト文化が、カトリック信心具のうちに合流して生まれたものです。本品「幼子イエスのプチット・クーロンヌ」は、小さなサイズのうちにフランスそのものを体現した作例といえましょう。

 本品は十九世紀後半から二十世紀初頭ころまでに制作された新生のアンティーク品ですが、古い年代にもかかわらず、保存状態は極めて良好です。各部の破損や逸失、チェーンの摩耗などの特筆すべき問題は何もありません。





税込み 19,500円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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