ソヴガルド 聖心の布製メダイユ
sauvegardes, tissus portant l'image du Sacré-Cœur






 聖マルグリット=マリ・アラコック (Ste. Marguerite-Marie Alacoque, 1647 - 1690) は、1686年3月、ド・ソメーズ修院長に宛てた手紙の中で、神から命じられたこととして、家に飾ったり、身に着けたりできるように、聖心を描いた布をたくさん作ることを依頼しました。これが現在「ソヴガルド」(sauvegarde フランス語で「保護」「庇護」の意)と呼ばれている布製信心具の起源です。

 18世紀初めのマルセイユのスール(シスター、修道女)、アンヌ=マドレーヌ (sœur Anne-Madeleine, Madeleine Rémusat, 1696 - 1730) は、マルグリット=マリの仕事を引き継いで聖心の信心を広めたことにより、「聖心の使徒」( l'apôtre du Sacré-Cœur) と呼ばれています。1720年にマルセイユでペストが流行したとき、アンヌ=マドレーヌは市民に対し、聖心を描いた楕円形の布を身に着けるように勧めました。聖心を描いた布を身に着ける習慣はこれをきっかけにして一挙に広まりました。「ソヴガルド」と呼ばれるようになったのもこのときからです。19世紀後半に悔悛のガリア (GALLIA POENITENS) たるフランス全土で聖心に対する信心が盛んになったことも、ソヴガルドの普及に与かりました。


【ソヴガルドの様式】

 ソヴガルドの定型化された様式は、愛の火を噴き上げる聖心を楕円形の布に描きます。聖心は茨の冠に取り巻かれ、上部には十字架が付き立てられ、フランスの罪に傷付いて血を流しています。聖心の周囲には次の言葉が書かれます。

  Arrête! Le Coeur de Jésus est là. Que Votre règne arrive!  止まれ!此処にイエズスの聖心あり。御国(みくに)の来たらんことを!





 しかしながらソヴガルドには、上記以外にもさまざまな形態のものがあります。聖心は描かれるのではなく刺繍で表されることもありますし、聖心のみ単独で図像に表されるとは限りません。「歩みを止めよ!此処にイエズスの聖心あり。御国(みくに)の来たらんことを!」という言葉も、必ずしも記されるとは限りません。全体の形も楕円形とは限らず、長方形の場合もあります。またアグヌス・デイと一体になった作例も見られます。

 したがってソヴガルドとは「茨の冠に取り巻かれ、上部に十字架を付き立てられて血を流す聖心を布にあしらい、身に着けるようにしたもの」と定義できましょう。


【カトリックの象徴としてのソヴガルド】

 下に示した絵はフランスの新古典派の画家ピエール=ナルシス・ゲランの作品で、ヴァンデの反乱 (Rébellion Vendéenne, 1793 - 1796) の際、弱冠21歳で戦死した王党派の軍人アンリ・ド・ラ・ロシュジャクラン (Henri de la Rochejacquelein, 1772 - 1794) を描いています。ヴァンデの反乱はフランス西部、現在のペイ・ド・ラ・ロワール地域圏ヴァンデ県を中心に、信仰篤い人々がフランス革命勢力の暴政に対して立ちあがった反乱でした。この絵において、アンリ・ド・ラ・ロシュジャクランは軍服の左胸部分にソヴガルドを縫い付けています。ヴァンデの反乱において、王党派は聖心を旗印に掲げました。またソヴガルドは、「止まれ!此処にイエズスの聖心あり」という言葉が書かれているゆえに一種の弾除けと考えられ、着用する者を「悪しき死」(註1)から護る役割を担っていました。

 ソヴガルドは現在でもカトリック保守派の象徴となっています。


(下) Pierre-Narcisse Guérin, "Henri de la Rochejaquelin", 1817, huile sur toile, 216 x 142 cm, Musée Municipal de Cholet





註1 「悪しき死」(羅 MALA MORS 仏 une mauvaise mort)とは、即死のことです。

 「病者の塗油」の秘蹟(終油の秘蹟)を受けることができないままに死んだキリスト者の魂は、地獄には堕ちないまでも、罪を償い終えて天国に迎え入れられるまでの長年月を煉獄で過ごし、地獄にいるのとあまり変わらない苦しみに曝されることになります。それゆえ司祭が臨終に間に合わないような突然の死は、「悪しき死」として恐れられています。

 ヴァンデの反乱に加わった軍人たちは、死そのものを恐れたのではなく、上記のような「悪しき死」を恐れ、これを防ぐためにソヴガルドを身に着けたのです。


 ソヴガルドには無関係ですが、聖クリストフォロスは「悪しき死」に遭わないように守ってくれる守護聖人として有名です。下に示す聖クリストフォロスの画像は、1423年の年号がある南ドイツの手彩色木版画で、絵の下部にはラテン語で次の言葉が書かれています。

  Christofori faciem die quacumque tueris, illa nempe die morte mala non morieris.   クリストフォロスの顔を見れば、その日は決して悪い死に遭うことがない






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