高級品 透かしのある美麗銀無垢メダイ 天地を繋ぐ少女マリア 円と方形を組み合わせた作例 27.8 x 24.0 mm


突出部分を含むサイズ 縦 27.8 x 横 24.0 mm

重量 4.0 g


フランス  二十世紀中頃



 歳若きマリアの整った顔立ちを浮き彫りにした透かし細工のメダイ。八個の部品を溶接して組み立てられています。

 本品はめっきではない銀による銀無垢(ぎんむく)製品です。純度八百パーミル(八十パーセント)の銀はフランス製信心具に使われる最も高級な素材です。上部に突出した環には、この純度の銀を示す「蟹」のポワンソン(仏 poinçon 貴金属の検質印)、及び銀細工工房のマークが刻印されています。銀(Ag)はブロンズ等に比べて比重が大きく、本品を手に取ると心地良い重みを感じます。





 本品に刻まれた若き聖母は祈りの印であるヴェールを被り、心静かに神と対話しています。マリアの横顔は目鼻立ちが整っているだけでなく、瞳、瞼、眉等の細部が巧みに表され、女性らしい優しさが溢れています。視線をまっすぐ前に向け、口許に微かな笑みを浮かべているように見える若きマリアの様子は、父を慕う娘のようです。明るく穏やかなマリアの表情は、救世主を産むという大任を果たすように天使ガブリエルから告げられても、いささかも動じなかった少女の、神への限りない信頼を表しています。浮き彫りにされた衣の襞は自然に流れ、ヴェールの薄絹はメダイの金属に置き換わった後も、揺らめいているかのように見えます。


 メダイユ彫刻に刻まれる人物像に横顔が多いという事実には、古代以来の貨幣彫刻の伝統を引いていることに加えて、ふたつの理由が考えられます。

 第一は技法的な理由です。浮き彫りという技法の特性として、空間的な奥行きに厳しい制限があります。また絵画と違って色彩を使うことができません。したがって浮き彫り彫刻で人物の目鼻立ちを表す場合、正面向きよりも横顔のほうが適しています。

 第二の理由は、モデルの人柄がありのままの形で現れるのは、正面向きの顔ではなく横顔だという理由です。クアットロチェント(15世紀)のイタリアにおいてピザネッロが始めたメダイユ彫刻は、イタリア本国よりもむしろフランスで栄え、19世紀においてひとつの頂点に達しました。19世紀のフランスでメダイユ彫刻が興隆するきっかけとなったのが、ダヴィッド・ダンジェ (Pierre-Jean David d'Angers, 1788 - 1856) による作品群です。常に変わらないモデルの人柄は、横顔にこそありのままの形で現れる、とダヴィッドは考えました。一時的な感情ではなく、人物の生来の人柄と、それまでの歩みによって形成された人柄を作品に表現するのであれば、横顔を捉えるのが最も適しているというダヴィッドの指摘には、大きな説得力があります。





 同じくフランスで制作されたものであっても、純然たる美術分野の浮き彫り作品は円形のメダイユだけでなく、方形のプラケットもかなりの割合で制作されています。しかるに信心具に属するキリストや聖母マリア、諸聖人のメダイユ(メダイ)は、円形または楕円形の作例が大多数を占めます。

 信心具のメダイに円形または楕円形の作例が多いのには理由があります。円環は無限の循環を表すゆえに、いかなる限定的属性によっても捉えることができない神の象徴と考えられました。これを敷衍して、円は「完全な平面図形」であり、環と同様に神を象徴すると考えることができます。さらに敷衍して、神が住まう天界は完全な立体図形、すなわち球として表象されます。天動説モデルにおいて、天の全体は球形です。したがって球を平面上に投影した円は、球と同様に天上界を象徴します。信心具のメダイが円形または楕円形であるのは、これらの形が神のいます天上を表し、いまや天上にあるイエス、マリア、諸聖人の姿を表すに相応しいと考えられる故です。





 本品においてもマリアの横顔は円形メダイに彫られていますが、全体の意匠は特徴的で、円形メダイを方形の枠と組み合わせています。円と方形の組み合わせは、天と地を表します。


 叙上のように、円は天を象(かたど)る平面図形です。これに対して地は四つの方角を有するゆえに方形で象徴されます。ロマネスク聖堂の後陣は方形の壁の上に半円蓋を載せますが、方形部分の壁面にはイエスの公生涯や聖人の事績など、地上での出来事が描かれるのに対し、穹窿部分には天上の光景が描かれ、この区別は厳密に守られます。

 天が円いとする思想は、我々東洋人にとってもなじみ深く感じられます。北京の天壇は円形プランに基づいて建てられています。インドのストゥーパも半球状、あるいは円筒に半球を載せた形に築かれ、頂部に円盤を多層に連ねた相輪を有します。我が国の仏塔は基壇及び屋根と裳腰が方形ですが、相輪はやはり円を連ねます。我が国の祭祀施設に関して時代を飛鳥以前に遡れば、古墳の石室は方形で、ときには壁に四神を描き、天井は石材をラテルネンデッケ様(よう)に組む例が見られます。ここにラテルネンデッケ(独 die Laternendecke)が採用される理由は、筆者(広川)が思うに、天井に丸みを持たせたいということしか考えられません。石川県能登島にある蝦夷穴古墳の雄穴及び雌穴は、石室がラテルネンデッケ様の天井を有します。京都大学・明石高専の村田治郎教授はこの構造の天井を「隅三角状持ち送り式天井」と名付けておられます。


 これらの事例からわかるように、円形と方形に天地を対応させるシンボリズムは、時代と地域に広く共通します。このシンボリズムを手掛かりにして、本品の特異な意匠に籠められた意味を読み解くならば、受胎を告知される少女マリアを円形メダイに浮き彫りにし、それを方形の枠で囲んだ本品は、天地を繋ぐ世界柱としてのマリアを表しています。「お言葉通り、この身に成りますように」というマリアの言葉は、天(神)が愛の手を差し伸べ、地(人間)がそれを受け容れたことを端的に表します。マリアが救いを受け容れたとき、マリアという一人の女性を接点にして、天地のつながりが回復されたのです。





 本品は突出部分を含めて全く摩滅しておらず、未使用品同様の保存状態であることから、大切に保管されてきた品物であることが分かります。若きマリアの横顔を彫ったこの美しいメダイが、どのような機会に購入され、身に着けられたものであるのかは推測するしかありません。しかしながらコミュニオン・ソラネルの際には本品のように美麗な意匠のメダイを身に着ける場合が多くありました。またコミュニオン・ソラネルは一生に一度の大きな行事ですので、メダイはしばしば銀無垢の高級品が贖われました。

 コミュニオン・ソラネルを受ける少女はキリストの花嫁であり、ウェディング・ドレスを身に着けます。清らかな輝きを放つ銀に無原罪の御宿リを浮き彫りにした本品は、おそらく汚れなき少女の胸を飾った品物でしょう。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、保存状態はきわめて良好で、突出部分もまったく磨滅せずに制作当時のまま残っています。銀無垢メダイユの清潔な輝きと、肌を背景にしても布地を背景にしてもよく調和する上品な透かし細工は、日々ご愛用いただけるペンダントにふさわしい長所となっています。





本体価格 18,900円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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