未使用品 世界軸としての聖母マリア 《天地を繋ぐ無原罪の御宿り 不思議のメダイ 36.0 x 22.8 mm》 大きめサイズの重厚な作例 フランス 二十世紀中頃


突出部分を含むサイズ 縦 36.0 x 横 22.8 mm  最大の厚さ 3.6 mm  重量 8.6 g



 数十年前のフランスで制作された不思議のメダイ。長径三センチメートルを超える大きなサイズです。本品の聖母像は肉厚の浮き彫りで、大きなサイズも相俟って丸彫りに近い印象を与えます。





 メダイの表(おもて)面には、無原罪の御宿りなる聖母マリアが蛇を踏みつけて立ち、両手の指から恩寵の光が地上に降り注いでいます。聖母に執り成しを求めるフランス語の祈りが、浮き彫りの周囲を取り巻いています。

  Ô Marie conçue sans péché, priez pour nous qui avons recours à vous.  罪無くして宿りたまえるマリアよ、御身を頼みとするわれらのために祈りたまえ。

 上部の環に製造国を示すフランス(FRANCE)の文字があります。


 キリスト教神学では、神の属性すなわち神がどんな方であるかを、人間の知性が捉えることはできないとされています。他方、神がどんな方でないかを知ることはできます。たとえば神は物体ではありません。生物でも無生物でもありません。電磁波や力のようなエネルギーでもありません。神は我々が知るどんなものでもありません。我々が神以外の物について知るあらゆる属性を差し引いてゆくと、神は如何なる大きさも属性も持たず、数学的点に譬えられるものとなります。

 全ての事物は神から発出しつつ、神から無限に隔たっています。被造物と神との隔たりは、どの被造物の場合も無限です。これを幾何学で例えれば、どの被造物も神から等距離ぶん隔たっています。しかるに空間上の点から等距離にある点は球を描きます。それゆえ神を点であるとすれば、被造的世界は球に譬えることができます




(上) William Cunningham, "The Cosmographical Glasse, conteinyng the Pleasant Principles of Cosmographie, Geographie, Hydrographie or Navigation", London, John Day, 1559.


 イギリスの医師であり占星術師でもあったウィリアム・カニンガム(William Cuningham, c. 1531 - 1586)は、1559年、主著「コスモス叙述の鏡」("The Cosmographical Glasse, conteinyng the Pleasant Principles of Cosmographie, Geographie, Hydrographie or Navigation")をロンドンで出版しました。上の絵は「コスモス叙述の鏡」から採った挿絵版画で、プトレマイオスの宇宙論に基づく天球の構造を示しています。

 天球の中心には地球があり、その上から外側に向かってアエール(羅 AER 空気)またはアエール(希 ἀήρ 空気)、ファイア(古英 fier 火)、七層の天(内側から順に、月天、水星天、金星天、太陽天、火星天、木星天、土星天)、恒星が張り付いたファーマメント(英 firmament 支え、土台)、クリスタリン(古英 cristalline 透明天球)と続きます。天球の最外殻であるクリスタリンは、プリームム・モビレ(羅 PRIMUM MOBILE 動かされる第一のもの)の仲立ちを経て、第一動者(神)と繋がっています。





 「コスモス叙述の鏡」の挿絵版画が示すように、被造的世界は多層の構造を有し、それらの階層は全て球形を為すと考えられました。不思議のメダイにおいて、聖母の足元にある球体は地球ではなく、この被造的世界全体を象ります。「コスモス叙述の鏡」は十六世紀半ば、1559年の著作です。このときコペルニクス(Nicolaus Copernicus, 1473 - 1543)は既に没していましたが、ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe, 1546 - 1601)はこれから活躍することになる少年であり、ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei, 1564 - 1642)は未だ生まれていませんでした。つまり 1559年の本に掲載されたこの挿絵版画は、当時の知識人にとって文化史的資料などではなく、宇宙の実際の構造を図解したものと考えられたのです。

 一方バック通りの愛徳姉妹会修道院に不思議のメダイの聖母が出現したのは 1830年です。当時の人々は未だダーウィンの進化論を知りませんでしたが、宇宙の構造については近代的な認識を持っていました。十九世紀の人々は星を張り付けた殻状の天球が実在するとはもはや考えていませんでしたが、被造的世界を表す天球は象徴的図像として生き残り、不思議のメダイにも登場しています。





 エレア派の祖である古代ギリシアのパルメニデスは、存在する実体はひとつであると主張し、これを無限に大きな球と表象しました。プラトンも破綻なく美しい宇宙を球と表象しました。キリスト教の神学哲学はパルメニデスの論法と似て、神から無限に隔たった被造的世界を球に象りました。他方プトレマイオスも天体の見かけ上の運動を手掛かりに、宇宙を球体と考えました。古代ギリシアあるいはそれ以前に端を発するこれらの知的営為は混然一体となって、聖母の足元の球に結実しています。それゆえ不思議のメダイの図像において、聖母の足下にある球体は地球ではなく、神の被造物である全宇宙の象徴です。

 不思議のメダイはキリスト教の信心具であり、しかるにキリスト教は人間にしか関わらないゆえに、聖母の足元の球体を地球と考えても実質的に間違いとは言えないと思う方があるかもしれません。しかしこの球体を地球と考えるならば、無原罪の聖母の超越性、世界軸性が失われます。これについては直ぐ後で述べますが、聖母の足元の球体はあくまでも地球ではなくて、神から無限に隔たった被造的世界を象徴する形、あるいは天動説時代の名残である天球を表します。

 聖母の足元の球体が被造的世界を表す理念的な形であるとしても、あるいは天球の形であるとしても、いずれにせよこの球は人間が住む世界を象ります。球体の上にいるへびは爬虫類のへびではなくて、「創世記」三章においてエヴァを誘惑した悪魔の象徴です。悪魔はエヴァに罪を犯させて全宇宙を堕落させたので、その強大で悪しき影響力を視覚化するために、宇宙の球体上に乗っています。しかるに無原罪の御宿りである聖母は悪魔の支配を受けないノヴァ・エヴァ(羅 NOVA EVA 新しきエヴァ)であり、その優越性は悪魔のへびを踏みつけることで表されています。聖母が両手の指にはめた指輪からは、神の恩寵の光が被造的世界に向けて降り注いでいます。




(上) Domenico Ghirlandaio, "Madonna della Misericordia", c. 1473, la chiesa di Ognissanti, Firenze


 不思議のメダイの聖母はたいへん大きなマントを羽織っています。このマントを広げれば、すべての人をその下に匿(かくま)うことができます。慈母の眼差しを地上に向けつつ恩寵の光を注ぐ不思議のメダイの聖母は、マドンナ・デッラ・ミゼリコルディア(伊 madonna della misericordia 憐れみの聖母)に他なりません。

 上の写真はマドンナ・デッラ・ミゼリコルディアを描いた 1472年頃のフレスコ画で、ドメニコ・ギルランダイヨの作品です。聖母が立つ台には「ミセリコルディアー・ドミニー・プレーナ・エスト・テッラ」(羅 MISERICORDIA DOMINI PLENA EST TERRA 地は主の憐れみに満ちている)と書かれています。右から二人目の少年はアメリゴ・ヴェスプッチです。このフレスコ画はフィレンツェのオニッサンティ教会身廊にあります。





 先ほどから繰り返して言うように、聖母の足元の球体は地球ではなく、天球もしくは被造的宇宙全体の象徴です。聖母が地球の上に立っているのであれば、その有様は常人と何ら変わりがありません。普通の人と同様に、聖母は地面に立っているだけです。しかしそうではなくて、聖母は天球もしくは被造的宇宙全体の上に立っておられるのです。これは聖母が神のおわす天上界と人の住む地上界を繋ぐ世界軸であることを示します。

 聖母が普通の人と同様の人間であれば、聖母はまったくの世界内存在であって、世界軸にはなれません。また聖母が天上に住まう女神であれば、聖母の存在様態は天上界のみで完結し、地上界とは本質的に無関係になって、やはり世界軸にはなれません。聖母は人間として地上界に生まれながらも、地上界を支配する原罪を免れ給いました。それゆえに聖母は天球もしくは被造的宇宙に足を着けつつも、その内部ではなく外側に立って、神と人を繋ぐ恩寵の器になっておられるのです。聖母に執り成しを求める祈りの言葉と、指輪を通して降り注ぐ神の恩寵は、常人のような世界内存在に留まらない聖母の宗教的超越性を、「無原罪の御宿り」図像として巧みに可視化しています。





 メダイ裏面の中央には、エム・イー(M I ラテン語読み)と十字架のモノグラム(組み合わせ文字)が刻まれています。エム・イーはマリ・イマキュレ(仏 Marie Immaculée 無原罪のマリア)またはインマクラータ・マリア(羅 INMACULATA MARIA 無原罪のマリア)の頭文字です。エム・イーの左下にはイエスの聖心、右下にはマリアの聖心を浮き彫りにし、全体を十二個の星で囲んでいます。十二個の星の冠は「ヨハネの黙示録」十二章一節において女が被っているものです。新共同訳により、該当箇所を引用します。

  また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。(「ヨハネの黙示録」十二章一節 新共同訳)





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。本品は縦 36.0ミリメートル、横 22.8ミリメートル、厚さ 3.6ミリメートルという立派なサイズで、8.6グラムの重量があります。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもさらにひと回り大きく感じられます。

 ちなみに 8.6グラムは五百円硬貨と一円硬貨を併せたよりも少し重い程度です。一般的な不思議のメダイの二、三枚分に相当しますが、ペンダントに重すぎるということはありません。







 本品は数十年前のフランスで制作された真正のヴィンテージ品ですが、古い年代にもかかわらず極めて良好な保存状態です。突出部分にも全く摩滅が見られないゆえに、未使用のまま大切に保管されてきた品物と考えられます。浮き彫り彫刻が優れた出来栄えであることに加え、ずっしりとした重量感と高級感を兼ね備えた本品は、どのような場でも堂々と身に着けることができます。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





本体価格 18,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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