(上) 表(おもて)面と裏面を並べた写真。メダイの数は一点のみです。















稀少品 われは無原罪の御宿りなり ルルドの御出現50周年 アール・ヌーヴォーの美麗メダイ


突出部分を含むサイズ 28.8 x 16.8 mm

フランス  1908年



 ルルドに聖母が出現した50年後、1908年にフランスで制作された記念メダイ。曲線的な植物文様を多用した左右非対称の造形には、19世紀末以来ヨーロッパを席捲した日本美術の色濃い影響がうかがえます。いずれの面も同様に見事な出来栄えです。





 一方の面において、ルルドの聖母は典雅なアール・ヌーヴォー様式により、長衣をまとった八頭身の女性像として表されています。マサビエルの岩場に出現した聖母は、野薔薇の繁みに裸足で立っています。5世紀のラテン詩人セドゥーリウス (Coelius/Caelius Sedulius, 5th century) は、「カルメン・パスカーレ」("CARMEN PASCHALE" 「復活祭の歌」)第2巻で人祖の妻エヴァと聖母マリアを対比し、棘のある繁みから生まれながらも、棘に傷つくことなく美しい花を咲かせる薔薇を、聖母マリアに喩えました。このメダイにおいて、ルルドの聖母が野薔薇の繁みに裸足で立っているのは、聖母が薔薇の棘、すなわちエヴァの罪に傷付かない「無原罪の御宿り」であることを、象徴的に表しています。聖母の足下には何輪かの可憐な野薔薇が咲いていますが、聖母自身こそが、あらゆる薔薇の中で最も美しい大輪の花、ロサ・ミスティカ(奇しき薔薇)なのです。





 右腕にロザリオを掛けた聖母は、胸の前に手を合わせ、頭を微かに左(向かって右)に傾(かし)げて天を仰ぎ、 「わたしは無原罪の御宿りです」と名乗っています。「わたしは無原罪の御宿りです」(Je suis l'Immaculée Conception.) という聖母の言葉は、中世風の丸みを帯びたアンシャル体により、後光の周囲に刻まれています。

 ここに刻まれているのは 1853年 3月25日、16回目の出現の際、ベルナデットに名前を問われた聖母の姿で、聖母が「ごく若かった」というベルナデットの証言に基づき、ルルドの聖母は少女のように若い女性として表されています。マリアの整った顔、柔らかい衣に隠された嫋(たおやか)な体つき、薄絹でできた柔らかなヴェールが、彫刻家の熟練した技により、あたかも生身の女性を眼前に見るかのような現実味を伴って再現されています。





 聖母の左右には様式化された植物が立ち上がり、左右非対称の有機的な曲線によって、日本風、あるいはアール・ヌーヴォー様式のシルエットをメダイに与えています。五枚の花弁を有する花を咲かせていることから、様式化されたこの植物は薔薇であることがわかります。前述のように薔薇は聖母の象徴であり、聖母はロサ・ミスティカ(奇しき薔薇)と呼ばれますが、薔薇の中に立つ聖母は、純潔の象徴である白百合に喩えることもできます。旧約聖書の恋の歌「雅歌」には、若者から「わたしの恋人」(amica mea) と呼ばれる美しい女性が登場しますが、キリスト教ではこの女性を、神の眼に適ったマリアの象徴と解釈しています。「雅歌」 2章 2節には次のように書かれています。

  Sicut lilium inter spinas, sic amica mea inter filias. (Nova Vulgata)  おとめたちの中にいるわたしの恋人は 茨の中に咲きいでたゆりの花。(新共同訳)

  聖母を「茨のなかのゆり」に喩えたこの聖句に基づき、薔薇の間に聖母を描いた図像が、中世以来多数描かれています。

 メダイの最下部に「ノートル=ダム・ド・ルルド」(Notre-Dame de Lourdes ルルドの聖母)の文字、その右上の岩肌に "OBC" の文字が刻まれています。





 メダイの裏面上部には聖母を目撃したベルナデット・スビルーの像、下部にはルルドのバシリカのクリプト(地下部分)となったマサビエルの岩場が浮き彫りにされています。マサビエルに出現した聖母は、1858年3月2日、13回目の出現の際、この岩場に聖堂を建てるように、ベルナデット・スビルーに命じました。


【参考写真】 (上) 聖母出現当時のマサビエル (下) 1876年に建てられたルルドのバシリカ






 聖ベルナデット、俗名ベルナデット・スビルー (Bernadette Soubirous, Bernadeta Sobirós, 1844 - 1879) は、教皇ピウス11世により、1925年6月14日に列福、1933年12月8日に列聖されました。このメダイが制作された 1908年当時のベルナデットは未だ列福も列聖もされていませんので、浮き彫りの背景に後光は無く、円形画面の周囲には「ベルナデット・スビルー」(Bernadette Soubirous) の俗名だけが書かれています。





 メダイ裏面の下部に刻まれているのは、ルルドのバシリカのクリプト(地下部分)です。ここはもとマサビエルの岩場であったところで、ルルドの聖水を汲むことができます。聖母が出現した岩のくぼみには聖像が置かれ、年間数百万人の巡礼者を迎えています。


(下) ルルドのクリプトで祈りを捧げる人々を描いたブアス=ルベルのカニヴェ。当店の商品。




 フランスはメダイユ芸術が極度に発達した国で、信心具のメダイは芸術品レベルのメダイユの普及版とでも呼ぶべきものですが、普及版といっても決して馬鹿にしてはいけません。信心具のメダイのなかには、サイズが小さいだけで、本格的な美術メダイユと同等の芸術的レベルに達している作品もあります。極小のサイズにかかわらず、大型の美術メダイユと同等の表現が為されている場合、むしろ本格的な美術メダイユに勝る芸術品と評価することも可能でしょう。

 本品もそのような作品の一つで、その美しさは極小の細部においても損なわれません。裏面に彫られたクリプトの光景では、ごつごつした岩と、岩場の窪みに安置された聖母像、奇蹟的な治癒により不要になった無数の松葉杖、岩場の手前に設置された柵、柵の左手前にある泉水の汲み取り口、右手前にいる巡礼者の親子等あらゆる細部が、細密な浮き彫りによって克明に表現されています。聖母の衣の襞や、フルール・ド・リス(百合の花、あるいはアヤメの花)を象(かたど)った柵の頂部までもが再現されており、メダイユ彫刻家の芸術的感性と人間離れした技量には、ただ感嘆するしかありません。

 下の写真は実物の面積を 140倍に拡大しています。定規のひと目盛は1ミリメートルです。





メダイの最下部には「御出現記念」(souvenir des apparitions) の文字と二つの年号(1858, 1908) が刻まれています。





 本品は3センチメートル近い高さ、5グラム近い重量のある立派なサイズで、手に取ると心地良い重みを感じます。百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、表面に磨滅がほとんど見られず極小の細部まで完全に残っており、驚くほど良好な保存状態といえます。「ルルドの御出現」50周年を記念するメダイを、私はこれまでに何種類か目にしています。1908年にのみ制作、発行された50周年記念メダイはいずれも稀少な品物ですが、そのなかでも本品はおそらく最も美しく、アール・ヌーヴォーの典雅さとともに、深い精神性を湛(たた)えています。本品を製作したメダイユ彫刻家は、芸術的才能、職人的技量ともまことに素晴らしく、このメダイを手に取ると、あたかもルルドのクリプトに身を置いているかのような気持ち、あるいはルルドの聖母に直接見(まみ)えるような気持ちさえしてまいります。列福、列聖前のベルナドットの姿を刻んだメダイとしても珍しいアンティーク工芸品です。





本体価格 25,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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