稀少品 ラウル・ラムルドデュによる大型メダイユ 《サクレ=クール・ド・モンマルトル 聖心を示すパリのキリスト》 愛を強調した彫刻の芸術品 直径 31.2 mm


 突出部分を除く直径 31.2 mm  最大の厚さ 3.0 mm  重量 10.8 g

フランス  1910 - 20年代



 聖心を示しつつ祝福を与えるイエス・キリストを、優れた浮き彫り彫刻で活き活きと表した美しいメダイユ。パリ、モンマルトルの聖心教会(サクレ=クール・ド・モンマルトル)を雲上に描く裏面には、フランスのメダイユ彫刻家ラウル・ラムルドデュのサインがあります。本品は三十一ミリメートル強の直径があり、大型の作例です。10.7グラムの重量は百円硬貨二枚分に相当し、手に取ると心地よい重みを感じます。





 メダイの表(おもて)面には、メダイを見る者を真正面に見据えつつ、右手を挙げて祝福を与え、左手で聖心を指し示すイエス・キリストを浮き彫りにしています。上部に十字架を突き立てられ、眩(まばゆ)い光輝に包まれた聖心は、自分を十字架につけた者たちを、自らの命を捨てて救い給う救世主イエスの、人知を絶する激しい愛を象徴します。

 イエスの右(向かって左)に見える文字(Α)は、ギリシア語アルファベットのアルファ(ἄλφα)です。イエスの左(向かって右)に見える文字(ω)は、ギリシア語アルファベットのオーメガ(ὠμέγα)です。アルファはギリシア語アルファベットの最初の文字、オーメガはギリシア語アルファベットの最後の文字であるゆえに、これら二つの組み合わせは「すべてのもの」を表し、ひいてはすべてのものの造り主、全宇宙の支配者であり給うイエス・キリストを表します。





 キリスト教はユダヤ教、イスラム教と同様に唯一の神を信じます。しかるに人間知性の能力には限界があって、神をありのままに捉えることができず、唯一の神を「父なる神、子なる神、聖霊なる神」に分けて認識します。ナザレのイエスは歴史上実在した一人の人物であり、普通の人と同様に全くの人間ですが、その一方で三位一体の第二位格、「子なる神」でもあります。

 「子なる神」は概念においてのみ他の二つの位格と区別され、実体においては父なる神、聖霊なる神と同一です。したがってイエスは歴史上に実在した一人の人物であるとともに、すべてのものの造り主、創造主なる神でもあるのです。「すべてのもの」を表すアルファとオーメガの組み合わせ文字は、創造主にこそふさわしいシンボルですが、これがクリストグラム(仏 christogramme キリストを象徴する記号)のひとつとされるのは、以上のような理由によります。





 右手を挙げて祝福を与える正面向きのキリスト像は、ギリシア語でクリストス・パントクラトール(希 Χριστὸς Παντοκράτωρ)すなわち全能者キリストと呼ばれる図像類型に似ています。

 破綻なく完全で、且つ無限な図形であるおよびは、神を象徴します。それゆえ聖堂建築において、四角形の床と壁が地上界を表すのに対し、聖堂後陣の半ドームや交差部のドームは神のおわす天上界を象徴します。クリストス・パントクラトールは聖堂のドームあるいは半ドームに描かれる図像で、右手を挙げて祝福を与える正面向きのキリストの左右に、イエースース・クリストスの略字(IC XC)を記します。全能者キリストは、「神のロゴス(言葉)」すなわちキリスト自身を象徴する書物を、左手に持っています。ロゴスとしてのキリストについて、「ヨハネによる福音書」一章三節は次のように書いています。

  万物は言(ことば)によって成った。成ったもので、言によらずに成ったものは何一つなかった。(新共同訳)


 クリストス・パントクラトールを本品のキリスト像を比較すると、前者が書物で象(かたど)っていたキリストの超越的神性、すなわち天地万物を創造したキリストのロゴス性は、後者ではアルファとオーメガの組み合わせで表されています。後者に刻まれたアルファとオーメガの二文字は、クリストス・パントクラトールにおけるイエースース・クリストスの略字(IC XC)と同じ位置にあります。またクリストス・パントクラトールは左手に書物(ロゴス)を持っていますが、本品のキリストは左手で聖心を指し示しています。書物が表す知と心臓が表す愛は神において実体的に区別されませんが、本品は前者を文字(アルファとオーメガ)に置き換え、後者を光り輝く聖心として目立つ位置に配することで、神とキリストのカーリタース(羅 CARITAS 愛、慈愛)をいっそう強調した作例となっています。





 キリスト像の周囲には、フランス語で「スヴニール・ド・モンマルトル」(仏 souvenir de Montmartre モンマルトル巡礼記念)の文字が刻まれています。ここで言うモンマルトルとは、パリのモンマルトルにあるラ・バジリク・サクレ=クール・ド・モンマルトル(仏 la Basilique Sacré-Cœur de Montmartre モンマルトルの聖心のバシリカ)のことです。

 バシリカはもともと古代建築の様式のひとつですが、カトリック教会は信仰上特別な重要性を持つ聖堂にこの称号を与えています。ラ・バジリク・サクレ=クール・ド・モンマルトル(モンマルトルの聖心のバシリカ)は巨大な白亜の聖堂で、たいへん美しい建物ですが、建築物としての立派さによってではなく、十九世紀後半から二十世紀前半のフランス宗教界で重要な意味を持つ聖堂であるゆえに、バジリク(仏 la basilique バシリカ)の称号を得ています。





 もう一方の面にはラ・バジリク・サクレ=クール・ド・モンマルトルが細密な浮き彫りで表されています。雲よりも上に置かれた聖心のバシリカは、新しいエルサレム(希 ἁγία Ἰερουσαλὴμ καινὴ)を強く想起させます。

 「ヨハネの黙示録」二十一章には、新しいエルサレムが「夫のために着飾った花嫁のように用意を整えて、神のもとを離れ、天から下って来る」様子が描写されています。「ヨハネの黙示録」二十一章六、七節には、新しいエルサレムにある神と子羊の玉座から聞こえてきた声が、次のように記録されています。「事は成就した。わたしはアルファであり、オメガである。初めであり、終わりである。渇いている者には、命の水の泉から価なしに飲ませよう。勝利を得る者は、これらのものを受け継ぐ。わたしはその者の神になり、その者はわたしの子となる。」(新共同訳)


 ルイ十四世のフランス絶対王政が繁栄の頂点を極めた十七世紀後半、聖母訪問会パレ=ル=モニアル修道院の修道女マルグリット=マリ(Ste. Marguerite-Marie Alacoque, 1647 - 1690)は、五つの傷と愛に燃える聖心を示すキリストの幻視を、1673年から1690年の間にたびたび経験しました。聖女はキリストの聖心(サクレ=クール)にフランスを奉献させるべく、ルイ十四世に宛てて手紙を書き、次のようなキリストの言葉を伝えました。

     Fais savoir au fils aîné de mon sacré Cœur – parlant de notre roi – que, comme sa naissance temporelle a été obtenue par la dévotion aux mérites de ma sainte Enfance, de même il obtiendra sa naissance de grâce et de gloire éternelle par la consécration qu'il fera de lui-même à mon Cœur adorable, qui veut triompher du sien, et par son entremise de celui des grands de la terre.
   わが聖心の長子(ルイ十四世)に伝えよ。王は幼子イエズスの功徳によって儚(はかな)きこの世に生まれ出でたのであるが、崇敬されるべきわが聖心に自らを捧げるならば、永遠の恩寵と栄光のうちに生まれるを得るであろう。わが聖心は王の国を支配し、また王を仲立ちにして地上の諸君主の国々を征服することを望むからである。
         
     Il veut régner dans son palais, être peint dans ses étendards et gravé dans ses armes, pour les rendre victorieuses de tous ses ennemis, en abattant à ses pieds ces têtes orgueilleuses et superbes, pour le rendre triomphant de tous les ennemis de la sainte Église.    わが聖心は王の宮殿にて統べ治め、王の軍旗に描かれ、王の紋章に刻まれることを望む。そうすれば王はすべての敵に勝利し、驕り高ぶる覇者たちの頭をその足下へと打ち倒し、聖なる教会のすべての敵を征服するであろう。
         
      (Marguerite-Marie d'Alacoque, Lettre IIC, 17 juin 1689, Vie et œuvres, vol. II, Paray-le-Monial)     (「マルグリット=マリの生涯と著作 第二巻」より、1689年6月17日付第98書簡)


 しかるにルイ十四世は聖女の手紙に何の反応も示さず、フランスが精神に捧げられることはありませんでした。その後のフランスは十八世紀末のフランス革命を皮切りに、十九世紀には度重なる革命と社会経済的混乱、普仏戦争の配線とコミューンの内乱を経験し、二十世紀に入ると未曽有の世界大戦の戦場となりました。十九世紀半ばにマルグリット=マリの書簡が公開されて以降、信仰深い人たちはフランスの苦難を神罰とらえ、今一度フランスをカトリック諸国の長姉とすべく、「ガッリア・ポエニテーンス」(羅 GALLIA PŒNITENS 悔悛のガリア)の信仰復興に取り組みました。このような状況を背景に、全フランス国民の奉献の誓い(仏 le vœu national, 1870 - 71)によって建設されたのが、ラ・バジリク・サクレ=クール・ド・モンマルトルです。





 メダイユの縁に近いところに、フランスの彫刻家ラウル・ラムルドデュ(Raoul Eugène Lamourdedieu, 1877 - 1953)のサインがあります。ラウル・ラムルドデュは、アキテーヌ(フランス南西部)に生まれ、二十歳の時にパリに出て、国立高等美術学校 (l'École nationale supérieure des beaux-arts de Paris, ENSBA) においてアレクサンドル・シャルパンティエに師事しました。美しい裸体、母子像、女性像を得意とし、象徴性に富むその作風は、オーギュスト・ロダンに「彫刻界のピュヴィス・ド・シャヴァンヌ」と評されました。

 ラウル・ラムルドデュの作品において特筆すべきは、柔らかな肌や布、さらには雲や光など不定形なものの表現です。

 メダイユ彫刻家の主な仕事は貨幣彫刻とメダイユ彫刻です。貨幣彫刻においては細部をくっきりと表現することが求められ、十九世紀半ば頃までに制作されたメダイユ彫刻も、貨幣と同様に明瞭な線で構成されました。これに対して十九世紀後半以降の美術メダイユにおいては、あたかもスフマート(伊 sfumato)のように輪郭をぼかし、あるいは高低差 0.1ミリメートルにも満たない凹凸によって雲や光を表現する作品が現れます。本品をはじめ、ラウル・ラムルドデュによる一連の作品もこの系譜に属します。本品は表(おもて)面に大きく彫られたキリスト像が目を惹きますが、裏面に彫られたバシリカの硬く直線的な形態と、柔らかで不定形な雲の対比も見事です。とりわけ雲のように不定形なものを、色を使わず金属の凹凸だけで絵画的に表現するのは、メダイユ彫刻家の優れた芸術的感覚と超絶的な技術の為せる業です。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもさらに大きなサイズに感じられます。





 本品はおよそ百年前のフランスで制作されたメダイユですが、その美術的価値にふさわしく大切に保管されてきたゆえに、古い年代にもかかわらず極めて良好な保存状態です。突出部分にも磨滅は全く見られません。人々に祝福を与えるキリスト像はクリストス・パントクラトールを思わせますが、クリストス・パントクラトールが造物主の超越性の視覚化であるのに対し、本品は救い主の焼き尽くすがごときカーリタース(慈愛)を強調しています。第一次世界大戦後の荒れ地のような人心に、生命の水となって沁み込む不可視の慈愛が、奇しくも「神の愛」(ラムル・ド・デュ)という名を持つ彫刻家の手により、美しい芸術作品に結晶しています。

 本品は彫刻の出来栄え、保存状態のすばらしさとも、ミュゼ(美術館、博物館)の収蔵品の水準に達しています。お買い上げいただいた方には必ずご満足いただけます。





32,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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