御身、栄えの大君なるキリストよ 第一次世界大戦期に制作された神の愛のメダイ 26.0 x 18.0 mm


突出部分を含むサイズ 縦 26.0 x 横 18.0 mm

フランス  1910 - 20年代



 古典的な図柄にラテン語を配した古いタイプのメダイ。第一次大戦期の前後にフランスで鋳造されたもので、珍しい盾の形をしています。メダイの材質はブロンズまたは真鍮で、表面に銀めっきを施しています。





 片面の中央には、十字架上のキリストが浮き彫りで表されています。胸の中心部には聖心が浮き彫りにされています。聖心はメダイのこの面で最も突出しているので、摩滅していて、写真では分かりづらくなっています。しかしながらメダイの実物を見ると、銀めっきの剥がれた部分が心臓形に盛り上がっており、聖心があることがよくわかります。

 聖心(サクレ=クール Sacré-Cœur)とはフランス語で「聖なる心臓」という意味です。心臓は愛の座であるゆえに、キリストの心臓である聖心は、神と救い主が人間に対して持ち給う人知を絶する愛を象(かたど)ります。神と救い主の愛はあまりにも強いゆえに、心臓(聖心)の上部から激しい炎となって噴き出し、目も眩む光となって心臓から放射しています。





 磔刑像の周囲には次の言葉がラテン語で記されています。

  TU REX GLORIÆ CHRISTE  御身、栄えの大君なるキリストよ

 「御身、栄えの大君なるキリストよ」("TU REX GLORIÆ CHRISTE")というのはテ・デウムの一節です。このメダイにおいては盾の形に合わせて、古典ラテン語のような語順に並べられています。磔刑像そのものも盾形を活かしてメダイの面いっぱいに表現されています。また後光は頭部の光輪の代わりに聖心から発出する身光として表され、迫力ある図像となっています。





 十字架の下には球体が見えます。

 人間の知性は神の属性を捉えることができません。しかるに大きさの無い点は、如何なる属性も有しません。したがって点は神に類比され得るのであり、神を象徴します。ところで球は「空間の一点から等距離にある点の集合」として定義されます。したがって球は神から発出するすべての被造物、被造的全世界、全宇宙を象徴しています。


 本品においても、最下部に表現された球は全世界・全宇宙を象(かたど)ります。これが十字架の基部にある様(さま)は、いまや十字架上に救世を達成し給うた栄光の主、イエス・キリストの支配に、世界が服していることを象徴的に表しています。

 「ルカによる福音書」四章一節から十三節にはキリストが荒れ野で悪魔から誘惑され給うた出来事が記録されています。イエスを高所に引き上げて世界の国々を見た悪魔は、「この国々の一切の権力と繁栄とを与えよう。それはわたしに任されていて、これと思う人に与えることができるからだ。」(四章六節)と言います。

 しかし悪魔は神の許しを得て一時的に地上を支配しているだけであり、全宇宙の支配権は本来は神に属します。十字架上に受難した後に復活し、死に打ち勝ち構うたキリストは、全宇宙の支配権を取り戻し給うた栄光の王(羅 REX GLORIÆ)なのです。





 神には欠けるところがありません。すなわち神はその本性において充足しておられ、自らの幸福のために他者を必要とし給いません。それにもかかわらず神は、自らにとって何の価値も無い人間を愛し給います。価値が無いどころか、我々の判断力によれば憎むべき存在であるはずの、救世主を磔にして殺害した人間たちをも愛し、そのような憎むべき人間たちに永遠の命を得させるために、キリストは十字架に架かり給います。これは人知を絶する神の愛であり、キリストの受難は視覚化された神の愛そのもの、神の愛の極点といえます。

 球体の前には王冠が置かれています。キリスト磔刑の伝統的図像において、人間の罪と死を象徴するアダムの骨を十字架の下に置いた作品が多く描かれていますが、これは死に対するキリストの勝利を表します。しかるにこのメダイでは、アダムの骨の代わりに王冠をキリストの足下に置いてます。これはキリストこそが地上のあらゆる支配者に勝る「王の中の王、主のなかの主」であることを意味し、キリストの栄光を強調した図像となっています。





 メダイのもう一方の面には球体の上にて十二の星の冠をかぶり、下弦の月に立つモントジッヒェルマドンナ(独 die Mondsichelrmadonna 弦月の聖母)、無原罪の御宿りが浮き彫りにされています。モントジッヒェルマドンナの描写は、「ヨハネの黙示録」十二章の冒頭を思い起こさせます。「ヨハネの黙示録」十二章一節から語節には、次のように書かれています。


     1 Καὶ σημεῖον μέγα ὤφθη ἐν τῷ οὐρανῷ, γυνὴ περιβεβλημένη τὸν ἥλιον, καὶ ἡ σελήνη ὑποκάτω τῶν ποδῶν αὐτῆς, καὶ ἐπὶ τῆς κεφαλῆς αὐτῆς στέφανος ἀστέρων δώδεκα, 2 καὶ ἐν γαστρὶ ἔχουσα, καὶ κράζει ὠδίνουσα καὶ βασανιζομένη τεκεῖν.    また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。女は身ごもっていたが、子を産む痛みと苦しみのため叫んでいた。
     3 καὶ ὤφθη ἄλλο σημεῖον ἐν τῷ οὐρανῷ, καὶ ἰδοὺ δράκων μέγας πυρρός, ἔχων κεφαλὰς ἑπτὰ καὶ κέρατα δέκα καὶ ἐπὶ τὰς κεφαλὰς αὐτοῦ ἑπτὰ διαδήματα, 4 καὶ ἡ οὐρὰ αὐτοῦ σύρει τὸ τρίτον τῶν ἀστέρων τοῦ οὐρανοῦ καὶ ἔβαλεν αὐτοὺς εἰς τὴν γῆν. καὶ ὁ δράκων ἕστηκεν ἐνώπιον τῆς γυναικὸς τῆς μελλούσης τεκεῖν, ἵνα ὅταν τέκῃ τὸ τέκνον αὐτῆς καταφάγῃ.    また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっていた。竜の尾は、天の星の三分の一を掃き寄せて、地上に投げつけた。そして、竜は子を産もうとしている女の前に立ちはだかり、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。
     5 καὶ ἔτεκεν υἱόν, ἄρσεν, ὃς μέλλει ποιμαίνειν πάντα τὰ ἔθνη ἐν ῥάβδῳ σιδηρᾷ: καὶ ἡρπάσθη τὸ τέκνον αὐτῆς πρὸς τὸν θεὸν καὶ πρὸς τὸν θρόνον αὐτοῦ.    女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖ですべての国民を治めることになっていた。子は神のもとへ、その玉座へ引き上げられた。
     (Nestle-Aland 26. Auflage)    (新共同訳)






 聖母の上には三位一体の象徴である三角形が置かれ、そこから鳩の形の聖霊が降(くだ)っています。これはいうまでもなく受胎告知の図像に描かれる聖霊であり、マリアが自由意思で救いを受け容れて救い主を産み、恩寵の器となったことを表します。


 本品の聖母は両腕を真横に挙げています。磔刑像と同じこの姿勢は、通常の無原罪の御宿リ像には見られない珍しいものです。聖母に降(くだ)る聖霊も、磔刑像のティトゥルス(羅 TITULUS 罪状書き、INRI と書かれた札)のように見えます。

 本品の聖母が磔刑像を思わせる姿勢を執る第一の理由は、聖母が母としての愛ゆえに十字架上のイエスと同化し、イエスと共に受難しておられるからです。聖母の胸にはキリストの胸にあるのと同様の心臓が浮き彫りにされていますが、これは神とイエスへの愛に燃える汚れ無き御心です。





 本品の聖母が磔刑像を思わせる姿勢を執る第二の理由は、執り成し手なる聖母が救世(罪びとたちの救い)に参与しておられるからです。

 神と救い主の無限の愛は、聖母の心に火の如き愛を点火します。神の愛に触れた聖母の心臓には、神の愛、すなわちサクレ=クール(キリストの聖心)の火が燃え移り、サクレ=クールと同化して炎を噴き上げます。それゆえ聖母は、わが子イエスを愛するのみならず、イエスを死に至らせた罪びとたちをも愛し給い、恩寵の器、執り成し手として救世の御業に与(あずか)り給います。




(上) Domenico Ghirlandaio, "Madonna della Misericordia", c. 1473, la chiesa di Ognissanti, Firenze


 本品に彫られた聖母は、非常に大きなマントを纏っておられます。これは聖母を優しい執り成し手、すべての罪びとをマントの下に包み庇護するマドンナ・デッラ・ミゼリコルディア(伊 Madonna della Misericordia 憐れみの聖母)として表現しているからです。

 上の写真はマドンナ・デッラ・ミゼリコルディアを描いた 1472年頃のフレスコ画で、ドメニコ・ギルランダイヨの作品です。聖母が立つ台には「ミセリコルディアー・ドミニー・プレーナ・エスト・テッラ」(羅 MISERICORDIA DOMINI PLENA EST TERRA 地は主の憐れみに満ちている)と書かれています。右から二人目の少年はアメリゴ・ヴェスプッチです。このフレスコ画はフィレンツェのオニッサンティ教会身廊にあります。





 本品の説明に戻ります。聖母の周りには次の言葉がラテン語で記されています。

  MARIA MEDIATRIX ORA PRO NOBIS  執り成し手なるマリアよ、我らのために祈りたまえ。


 リヨンのメダイユ及びジュエリー工房「ア・オジ」(A. Augis)の刻印が、聖母の右の足許(向かって左の足許)に刻まれています。A. オジは 1830年創業の老舗で、今日も六代目当主のもとで存続しています。


 本品の制作時期は、第一次大戦期頃です。第一次世界大戦は、史上初めて一般市民を標的にした大量殺戮戦でした。ヨーロッパには戦死者、戦災死者、戦争寡婦、戦争孤児が溢れました。仏独の激戦地となったベルギーでは、百年後の今も年間三千発の不発弾が見つかっており、この割合で行けばすべての不発弾が回収されるまでにあと三百年かかると言われています。

 本品はこのような時代に制作されたものでありながら、「無条件の愛」を主題にしています。否むしろ、このような時代に制作されたものであるからこそ、「無条件の愛」がその主題となっています。本品の一方の面は、神の愛の極点である救い主の受難を主題にしています。もう一方の面は、大きなマントに罪びとを匿(かくま)い執り成し給うマドンナ・デッラ・ミゼリコルディアの愛を主題にしています。本品の両面の意匠には、地上の悪意に痛めつけられた当時の人々の、神を求める真摯な祈りが籠められています。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。





 本品は第一次世界大戦頃のフランスで制作された真正のアンティーク品です。盾形メダイの稀少性に加えて、真正のアンティーク品ならではの古色が深い趣を醸しています。

 およそ百年前に制作された品物ですが、古い年代にもかかわらず保存状態は良好で、細部までよく残っています。拡大写真では突出部分に軽い摩滅が認められますが、肉眼で見る本品は写真よりもずっと美しく、ご購入いただいた方には必ずご満足いただけます。





14,,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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