全仏孤児の日
journée nationale des orphelins



 シャルル・フェルステル (Charles Foerster) 作 メダイユ「孤児の日」 1916年 当店の商品です。


 中世、近世のヨーロッパにおいて、戦争とは権力者が職業軍人を使って行う勢力争いに他なりませんでした。戦闘の過程で農地が踏み荒らされたり、飢えた兵士が略奪を働くことは頻繁にありましたが、敵の領土の住民を直接的な攻撃対象にすることは、原則的には無かったのです。

 ところが二十世紀になって技術が進歩し大量殺戮が可能になると、戦争の在り方が変わりました。それぞれの国民国家は徴兵制を敷いて職業軍人でない一般市民を戦場に駆り出し、銃後の市民にも戦争遂行への協力を求めました。これは国民全員が戦闘要員あるいは準戦闘要員になったというに等しく、裏返していえば敵国の軍人のみならず国民全員が「敵」となったことを意味するゆえに、一般市民の殺傷を目的とした市街地への無差別爆撃も行われるようになりました。

 このような状況下で、戦争孤児、戦災孤児の救済は戦時下における国民の義務となりました。裕福な篤志家の善意や宗教的動機によってなされる慈善ではなくて、いわば戦友同士の間で当然為すべき互助となったのです。


 孤児の救恤(きゅうじゅつ)資金を集めるため、フランスでは1916年11月1, 2日の「全仏孤児の日」に、子供を含めた全国民に広く募金が呼び掛けられました。このときのポスターの内容を下に示します。日本語訳は筆者(広川)によります。






    GUERRE 1914 - 1915 - 1916   このたびの戦争における
    Journée Nationale des Orphelins, 1er à 2, novembre, 1916   全仏孤児の日 1916年11月1, 2日
         
    FRANÇAIS ET FRANÇAISES,   フランス国民諸君に告ぐ
     C'est pour les petits dont les Pères sont tombés au Champ d'Honneur, c'est pour ces innocentes victimes d'une guerre imposée à la France que nous faisons appel à votre cœur. En ces journées consacrées au Culte des Morts, vous vous rappellerez le sublime sacrifice de ceux qui offrirent leurs poitrines pour barrer la route aux envahisseurs, pour défendre vos foyers et vous-mêmes, pour sauver la Patrie et la Civilization. Votre pensée émue ira à ceux qu'ils ont laissés sans soutien: les femmes et les enfants qui pleurent. En apportant votre obole à la "Journée Nationale des Orphelins" vous songerez à vos propres enfants, à la vie douloureuse qui serait la leur, si vous n'étiez plus là pour leur assurer le pain de chaque jour et les réconforter de votre tendresse.    名誉の戦場に斃れた父を持つ幼き者たちのため、フランスに仕掛けられた戦争の罪無き犠牲者たちのため、我らは諸君の心に訴えかける。侵略者たちの進路を遮断して諸君の家庭ならびに諸君自身を守り、祖国と文明を守るために、自らの胸に弾を受け止める者たちの気高き犠牲を、死者を悼むこの日に思い起こそう。諸君が心を動かしたその思いは、支え無しに遺され嘆く妻たち、子供たちに届くのだ。「全仏孤児の日」に少しの寄付を持ち寄るとき、想像してみてほしい。もしも諸君がいなくなり、諸君自身の子供たちに日々の糧を与えられず、優しく励まし支えることもできなくなったならば、子供たちはどれほど困難な人生を歩むであろうか。
     Il faut que les enfants de ceux qui ont noblement donné leur sang pour la défense de notre pays en danger puissent vivre; il faut qu'ils soient élevés comme leurs pères eussent voulu les élever eux-mêmes; il faut que l'union réalisée dans la lutte contre l'ennemi se réalise de même pour la protection de ces petits êtres qui ont droit à l'affection et à la reconnaissance de tous.    危機に瀕したわが国を守るために、気高き心で血を流した者の子供たちが、生活できないなどということが、あってはならないのだ。この子供たちは、彼らの父親たち自身が育てたいと考えていたように、育てられなければならないのだ。我らは敵に対する戦いにおいて団結するのと同じように、この小さな者たちを団結して守らねばならない。この子供たちには皆から愛され感謝される権利がある。
     Pour sauver des existences indispensables à l'avenir de la Race française, pour assurer le nécessaire aux petits Orphelins de nos soldats, que le cœur de chacun s'émeuve et comprenne le grand devoir de la fraternelle solidarité.    フランス人の未来には、この子供たちの存在が必要だ。この子供たちを救済し、我らの兵士たちが遺した幼き孤児たちが、必要とする物に困ることが無いように、各人が心を動かし、友愛に基づく連帯の義務を理解されんことを願う。
       
    PETITS FRANÇAIS ET PETITES FRANÇAISES,   フランスの子どもたちへ
     Pour les enfants dont les Papas ne sont plus, donnez ce que vous pouvez, donnez un peu de votre joie, un peu de votre bien-être et beaucoup de votre âme. Les Orphelins de la Guerre sont vos petits frères et vos petites sœurs. NE LES OUBLIEZ PAS.    おとうさんがいなくなったおともだちのために、あげられるものをあげましょう。うれしいことを、すこしわけてあげましょう。あなたのしあわせをすこしわけてあげてください。あなたのやさしいきもちをたくさんわけてあげてください。せんそうこじの子たちは、みなさんのきょうだいなのです。この子たちのことをわすれてはいけません。
       
     La Journée est organisée, en accord avec le "Secours National", par le Comité d'attribution constitué pour distribuer les fonds de la première Journée des Orphelins.    このたびの全仏孤児の日は、「国民互助」の精神に基づき、第一回「全仏孤児の日」の寄付金を分配するために結成され、権限を委任された委員会によって実施される。
     Le Comité comprend des représentants de toutes les opinions, de toutes les croyances, de tous les milieux sociaux; il a distribué dans tous les opinions, de toutes les croyances, millions de la première Journée à plus de 60.000 Orphelins nécessiteux, par l'intermédiaire des Œuvres qui en ont pris la responsabilité morale.    この委員会はあらゆる党派、あらゆる宗教、あらゆる社会階層からの代表者で構成される。委員会は第一回「全仏孤児の日」による数百万フランの資金を、かかる道徳的義務を担う慈善諸団体の仲立ちを経て、あらゆる党派、あらゆる宗教の六万箇所を超える孤児院に対し、これまでに分配している。
       
    LE COMITÉ:   委員会を構成する組織の一覧表
      (略)
       
    Les Dons et Souscriptions doivent être adressés au Siège Social du Comité, 33, Rue Bonaparte, PARIS (6e)    義捐金、寄付金は、パリ六区、ボナパルト通り 33番地、「全仏孤児の日」実行委員会本部宛にお送りください。
       
    Vu et approuvé: Le MINISTRE DE L'INTÉrieur, L.-J. MALVY   検閲・許可済 内務大臣ルイ=ジャン・マルヴィ



 ポスターを読むと、孤児救済の呼びかけがおとなのみならず子供に対しても為されていることに気付きます。さらに孤児救済の資金集めを託された委員会が、政党や労働組合、宗教界など、フランス社会を代表するあらゆる集団、階層で構成されていることにも気付かされます。

 ポスターには「祖国と文明を守るために」(pour sauver la Patrie et la Civilization) という表現、また「フランス人の未来に必要不可欠なこの子供たちを救うために」(Pour sauver des existences indispensables à l'avenir de la Race française) という表現が見られます。十九世紀までの戦争は、君主同士が職業軍人を使って勢力を争うものに過ぎませんでした。しかしながら二十世紀の戦争は存亡を賭けた国民同士の戦いとなりました。二十世紀の国家は軍人に加え、一般市民のみならず子供たちまでも戦争に巻き込んでいるのです。「全国民同士の戦い」という現代の戦争の性格が、このポスターによく表れています。


 戦災孤児たちは、その後に成立した法律により、1917年7月27日以降、「ピュピル(またはピュピーユ)・ド・ラ・ナシオン」(pupille de la nation)、すなわちフランス人全員が後見人となって経済的に支えるべき子供たちとされ、国家の保護下に置かれることになります。「ピュピル・ド・ラ・ナシオン」とは、フランス語で「ナシオンの被後見未成年者」という意味です。「ナシオン」は「国家」ですが、「国民」の意味を含みます。「ピュピル・ド・ラ・ナシオン」の活動は、保護の対象を拡大しつつ、現在でも続いています。




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