パニス・アンゲリクス エウカリスチアの愛と智を讃仰する天使 金彩入りの多色刷り石版によるカニヴェ (版元不明)

Souvenir de Première Communion, éditeur et numéro inconnus


112 x 71 mm

フランス  19世紀末から20世紀初頭



 繊細な透かし細工の台紙に、ひとまわり小さなクロモリトグラフィ(多色刷り石版画)を貼り付けたカニヴェ。フランス第三共和制、ベル・エポック時代に制作されたものです。





 クロモリトグラフィには、ふたりの天使がエウカリスチア、すなわち聖体と聖血を讃仰(さんぎょう)する姿が描かれています。天使たちの足下には雲があり、また大勢のケルビムがエウカリスチアを取り囲んでいることから、ここに描かれているのが地上の様子ではなく、天上の光景であることがわかります。

 ミサの際に拝領される聖体と聖血は、小麦のパンと葡萄酒が司祭の祈りによって実体変化を起こしたものであり、地上にあるはずなのに、この絵においてはなぜ天上にあるように描かれているのでしょうか。それは人間によって拝領される聖体が、本来は天使のパン(パニス・アンゲリクス PANIS ANGELICUS)であったからです。「天使のパン」はもともと詩篇 78篇 25節に出てくる言葉ですが、トマス・アクィナス (St. Thomas Aquinas, c. 1225 - 1274) が書いた「サクリース・ソレムニイース」(SACRIS SOLEMNIIS) によって人口に膾炙(かいしゃ)しています。トマスはこの詩において、次のように謳っています。訳詩は筆者(広川)によります。


    Panis angelicus fit panis hominum;
Dat panis caelicus figuris terminum;
O res mirabilis: manducat Dominum
Pauper servus et humilis.
  天使のパンが、人のパンになる。
天のパンにより、数々の前表が終わりを告げる。
なんと驚くべきことであろう。
貧しく卑しき僕(しもべ)が主を食べるとは。



 トマスが聖体を「天使のパン」と呼ぶ理由を完全に理解するには、アリストテレスの哲学と13世紀のスコラ哲学の知識が必要なのですが、ここではごく簡単に説明します。トマスによると、天使は神(あるいは神の本質)を認識できますが、地上にある人間の知性は神(あるいは神の本質)を認識することができません。しかるにエウカリスチア(聖体と聖血)は実体変化により神の本質を有します。したがって、トマスによると、聖体はもともと「天使のパン」、すなわち天使の知性のみが認識でき、天使に生命を与えるパンなのです。スコラ哲学に基づく詳しい説明は「天使のパン」のレファレンスに書きました。関心のある方はご覧ください。





 このクロモリトグラフィにおいて、聖血は金のカリスに入っており、その上方に聖体が浮かんでいます。聖体には、「イエズス」(イエースース IHSOYS)を表すギリシア文字イオタ、エータ、シグマのモノグラム (IHS) が記されています。聖体と聖血からは、神の愛と智がまばゆい金の光となって発出し、周囲のケルビムをはじめ、カニヴェ全体が神の光を受けて金色に輝いています。

 エウカリスチア(聖体と聖血)を讃仰するふたりの天使は、赤と青の衣を着ています。愛を象徴する色である赤の衣の天使はセラフ(熾天使)、智を象徴する色である青の衣の天使はケルブ(智天使)です。セラフとケルブは神に最も近い所で神に仕える最高位の天使です。


【下・参考画像】 ライヒェナウ派による10世紀末のイザヤ書挿絵。セラフィムに囲まれた神から、愛(赤の光)と智(青の光)が発出しています。Staatsbibliothek Bamberg, Bibl. 76, fol. 10 v. 24.8 x 18.6 cm




 このカニヴェにおいて、二人の天使は聖体の前に跪(ひざまず)き、頭(こうべ)を垂れて限りない崇敬を捧げていますが、これにはふたつの理由があります。

 ひとつめの理由は、神の本質を有する聖体が、天使の生命の源、トマスの表現を借りれば「天使のパン」であるということです。トマス・アクィナスによると、天使たちは肉体を持たずに自存する知性ですが、まったく自力で自存しているのではなくて、その属性である愛や智を、またエッセ(ESSE 存在するという働き)自体を、神から分有しています。しかるに聖体は神あるいはキリストの本質を有します。したがって聖体は、人間にとって霊的生命の源(「人のパン」)であるのとまったく同様に、天使にとっても生命の源(「天使のパン」)なのです。

 ふたつめの理由は、聖体拝領の度にキリストが受難し給うからです。三位一体の第二のペルソナである神のひとり子が十字架上に刑死するという最も考え難い方法で、神は人間を救済し給いました。さらに神のひとり子イエズス・キリストは、エウカリスチアを定め給うたことにより、いまも日々聖体拝領が為されるたびに、神の子羊として受難されています。この想像を絶する神の愛のミステリウムの前に、天使たちは頭を垂れているのです。


【下・参考画像】 完全な捧げ物である神の子羊イエズス・キリスト 19世紀フランスの小聖画 当店の商品です。




 クロモリトグラフィの下部、セラフとケルブよりも手前には、聖体パンの原料である小麦、ワインの原料であるぶどうに加え、白百合が描かれています。白百合は初聖体を受ける子供たちの純潔を表すとともに、聖母による加護をも象徴しています。

 カニヴェの最下部には、「スヴニール・ド・プルミエール・コミュニオン」(Souvenir de prenière Communion. フランス語で「初聖体記念」)と書かれています。

 本品はおよそ百年、あるいはそれ以上前に制作された真正のアンティーク品ですが、レース状の切り紙細工に一箇所の欠損も無い完品です。使用されている紙は高品質の中性紙で、酸性紙に見られるような紙自体の劣化や崩壊は、将来も起こりません。ひどい汚れや折れ目等の特筆すべき問題も一切見られず、百年を超える古い年代ものとは俄かに信じがたいほど綺麗な保存状態です。





カニヴェのみの価格 22,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




聖体と聖体拝領のカニヴェ 商品種別表示インデックスに戻る

カニヴェ、イコン、その他の聖画 一覧表示インデックスに戻る


イエズス・キリストのカニヴェ 商品種別表示インデックスに移動する

カニヴェ 商品種別表示インデックスに移動する


カニヴェ、イコン、その他の聖画 商品種別表示インデックスに移動する


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS