ラファエロ作 「聖セシリアの幻視」 A. ピッケルによる細密インタリオの小聖画


中性紙にオー・フォルト及びグラヴュール


121 x 77 mm

 フランス  19世紀末



 ラファエロが油彩で描いた聖人と天使の群像「聖チェチリアの幻視」を、オー・フォルト(エッチング)及びグラヴュール(エングレーヴィング)で再現した小聖画。19世紀末にフランスまたはドイツで刷られた小版画で、19世紀最後の年、1900年の日付が裏面に書かれています。


【下・参考画像】 Raffaelo Sanzio, "L'Estasi di santa Cecilia" c. 1514, olio su tavola, 236 x 149 cm, la Pinacoteca Nazionale, Bologna




 聖画は良質の中性紙で、表裏とも金色に縁取られています。表(おもて)面中央に、ローマ建築の半円アーチを連想させるクラシカルな形状の画面を配し、ラファエロによる原画のほぼ全体を、細密版画で忠実に再現しています。

 この作品に描かれている聖人は、向かって左から右に、使徒パウロ、使徒ヨハネ、聖セシリア、ヒッポのアウグスティヌス、マグダラのマリアです。





 使徒パウロは老けた姿で表されることも多いですが、ここでは濃い頭髪と屈強な体格の若々しい姿で表されています。使徒ペトロは逆さの十字架に架けられて激しい苦痛のうちに殉教しましたが、使徒パウロはローマ帝国の市民権を有していたため、剣で斬首されて殉教しました。それゆえキリスト教図像学において、剣は使徒パウロの象徴となっています。ラファエロのこの作品の中で、使徒はローマ帝国市民を象徴するトガを着て、左手にパウロ書簡と剣を持っています・





 その奥にいるのはイエズスに愛された若者、聖ヨハネです。使徒の中で最年少であった聖ヨハネは、 図像学的伝統において、多くの場合若者として表されます。聖ヨハネは「ヨハネによる福音書」の記者であるとともに、エーゲ海東端のパトモス島における幻視を、「ヨハネの黙示録」に書き記した人でもあります。福音記者聖ヨハネはテトラモルフの鷲で象徴されます。ラファエロによるこの作品において、鷲は聖ヨハネの足許に描き込まれています。





 絵の中心に立つのは聖セシリア(聖カエキリア、聖セシル、聖チェチリア)です。聖セシリアはルネサンス期の服を着て、純潔の象徴である紐状のベルトをしています。14世紀以降、聖セシリアは音楽の守護聖人と考えられるようになり、この絵においても携帯用オルガンを持った姿で描かれています。聖女の足許にも多数の楽器がありますが、よく見るとどれも壊れています。束の間しか続かない音楽を象徴する楽器は、メメントー・モリーのひとつです。ラファエロは壊れた楽器を描くことにより、天上に目を向け、天使たちが奏でる音楽に耳を傾ける聖女が、地上における感覚の楽しみ、ひいてはあらゆる地上の楽しみを棄てていることを表現しています。





 聖セシリアの左(向かって右)、司教杖を持つ男性は、ヒッポ司教聖アウグスティヌスです。ラファエロの原画はボローニャのアウグスチノ会の教会にある聖チェチリア礼拝堂のために注文された祭壇画ですので、聖セシリアとともに、聖アウグスティヌスも欠かせない人物です。




【上・参考画像】 ガロファーロによる1830年代のスティール・エングレーヴィング 「聖アウグスティヌスの幻視」 アウグスティヌスと聖セシリアを描いたルネサンス期の作品。


 しかしながら、この祭壇画がアウグスチノ会の教会に納められたという経緯とは別に、聖アウグスティヌスはルネサンス期の知識人に絶大な人気があったゆえに、キリスト教史における最も重要な人物のひとりとして、ラファエロのこの作品に描かれているとも考えられます。ヒッポ司教アウグスティヌスは卓越した知性の持ち主であり、優れた古典的教養とキリスト教的霊性を併せ持つヘレニズム・キリスト教的ソフィア(叡智)の体現者です。それゆえ聖アウグスティヌスは、ルネサンス期のユマニストや芸術家たちの間で、教父時代以降のキリスト教史における誰よりも偉大な人物と考えられていたのです。





 画面右端の女性はマグダラのマリアです。マグダラのマリアは原始教会において使徒に準じる地位を有していた重要な人物です。この作品において、マグダラのマリアはナルドの香油の壺を左手に持っています。マリアの豊かな髪は、キリストの花嫁であることを示す純白のヴェールに被われています。


 ラファエロの原画は縦 236センチメートル、横 149センチメートルの大作で、聖人たちを等身大に描いていますが、本品の版画部分は縦 86ミリメートル、横 56ミリメートルと小さいゆえに、驚くべき細密さを有します。下の写真は実物を百倍以上の面積に拡大しています。定規のひと目盛は 1ミリメートルです。人物の顔立ちはいずれも美しく整っていますが、顔のすべての造作が 2乃至 3ミリメートル四方の範囲に収まっています。眼には瞳と虹彩が描き分けられ、鼻の形、唇の形も美しく整っていますが、これら各部分は 1ミリメートルに満たない極小サイズのインタリオで実現されています。画像を拡大すると、髪の毛やひげが一本ずつ丁寧に描かれていることが分かります。







 聖画の下端左には「ラファエロが描いた」(Raphael pinxt)、右には「A. ピッケルが彫った」(A. Pickel sc.) と刻まれています。 聖画下端中央には図版番号 "628" が刻まれています。"pinxt" はラテン語 "PINXIT"(描いた)、"sc." はラテン語 "SCULPSIT"(彫った)の略記です。その下にはラテン語あるいはドイツ語で「聖カエキリア」(S. Cäcilia) と記されています。最下部には、版元に関する情報がドイツ語とフランス語で次のように記されています。

  Eigentum des Vereins zur Verbreitung religiöser Bilder in Dusseldorf  版権所有 聖画普及協会 デュッセルドルフ

  Seul Depôt à Paris chez A. W. Schulgen Éditeur, 25 rue St. Sulpice  パリ特約取扱 A. W. シュルゲン書店 サン・シュルピス通25番地


 裏面には、1900年4月11日に、リュソン司教座聖堂ノートル=ダムの聖セシリア会 (Société de Sainte Cécile) に、ひとりの女性が入会した記録が書かれています。リュソン(Luçon ペイ・ド・ラ・ロワール地域圏ヴァンデ県)は、フランス西部のビスケー湾に面した町です。「聖セシリア会」はおそらくリュソン司教座聖堂の聖歌隊の名前でしょう。


 本品は百年以上前に制作された真正のアンティーク品で、軽い折れ目や経年による淡い色づきが見られますが、特筆すべき問題は無く、充分に綺麗な保存状態です。使用されている紙は高品質の中性紙で、酸性紙に見られるような紙自体の劣化や崩壊は、将来も起こりません。

  なお、木製フレームにベルベットを使用した額装を、手頃な価格で承ります。下の写真は上質の写真立てを使った額装の例です。額のサイズは縦 27.5センチメートル、横 23センチメートルで、壁掛け式としても自立式としても使用できます。サンプルには黒のベルベットを使用してみました。料金は 6,300円(税込)です。






小聖画の本体価格 4,800円 (額装別) 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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