テトラモルフ
tetramorph / tétramorphe




【上】 栄光のキリストに伴うテトラモルフ (Raffaelo Sanzio, "The Vision of Ezekiel", oil on wood, 40 x 30 cm, Galleria Palatina, Palazzo Pitti, Firenze)


 テトラモルフ(英 tetramorph、仏 tétramorphe)は、「四」を表すギリシア語テッサレスあるいはテッサラ(τέσσαρες, τέσσαρα 合成語においてはテトラ τέτρα-)と、「姿」「形」を表すギリシア語モルフェー(μορφή)の合成語で、四つの姿がひとつになった生き物、あるいは組み合わせて表現された四つの生き物を表します。

 四つの生き物を組み合わせた表現はキリスト教圏外にも見られますが、キリスト教美術において「テトラモルフ」という場合、第一義的にはエゼキエル書1章 5節から 20節他(註1)、ならびにヨハネの黙示録4章 6節から8節(註2)に描写された神秘的な生き物を指します。


【四つの正典福音書の選定及び配列と、テトラモルフの影響】

 テトラモルフが有する四つの姿、すなわち人間、ライオン、牛、鷲は、リヨンの聖エイレナイオス (St. Eirenaeus Lugduni, c. 130 - 202) 以来、それぞれ福音記者マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネを象徴すると解釈されています。

 テトラモルフを構成する四つの生き物が、各福音記者にそれぞれ割り当てられる根拠は、次のように説明されます。

・マタイ伝は「人の子」イエズスの系譜から始まるゆえに、「人間」はマタイを表す。
・マルコ伝は「荒れ野で叫ぶ者の声」から始まるゆえに、荒れ野で咆哮する生き物である「ライオン」はマルコを表す。
・ルカ伝は祭司ザカリアによる燔祭の記述から始まるゆえに、犠牲獣である「牛」はルカを表す。
・ヨハネ伝は神あるいは天に関する記述から始まるゆえに、天翔(あまかけ)る生き物である「鷲」はヨハネを表す。


 また聖ヒエロニムス (St. Eusebius Sophronius Hieronymus, c. 347 - 420) によると、テトラモルフの四つの生き物は、キリストの生涯における四つの重要な出来事を表します。すなわち「人間」はキリストの受肉、「ライオン」は荒れ野での誘惑、「牛」は受難、「鷲」は昇天に対応します。

 初代教会時代、新約聖書が成立する際に、現在正典とされる四つの福音書が選ばれ、さらにそれらが現在の順番に並べられるにあたって、「テトラモルフ」と各福音書を関連付ける上記のような考え方が、一定の影響力を持った可能性は大きいと考えられます。



註1 エゼキエル書 1章 5節から 20節 (新共同訳)

 またその中には、四つの生き物の姿があった。その有様はこうであった。彼らは人間のようなものであった。それぞれが四つの顔を持ち、四つの翼を持っていた。脚はまっすぐで、足の裏は子牛の足の裏に似ており、磨いた青銅が輝くように光を放っていた。また、翼の下には四つの方向に人間の手があった。四つとも、それぞれの顔と翼を持っていた。翼は互いに触れ合っていた。それらは移動するとき向きを変えず、それぞれ顔の向いている方向に進んだ。その顔は人間の顔のようであり、四つとも右に獅子の顔、左に牛の顔、そして四つとも後ろには鷲の顔を持っていた。顔はそのようになっていた。翼は上に向かって広げられ、二つは互いに触れ合い、ほかの二つは体を覆っていた。それらはそれぞれの顔の向いている方向に進み、霊の行かせる所へ進んで、移動するときに向きを変えることはなかった。生き物の姿、彼らの有様は燃える炭火の輝くようであり、松明の輝くように生き物の間を行き巡っていた。火は光り輝き、火から稲妻が出ていた。そして生き物もまた、稲妻の光るように出たり戻ったりしていた。わたしが生き物を見ていると、四つの顔を持つ生き物の傍らの地に一つの車輪が見えた。それらの車輪の有様と構造は、緑柱石のように輝いていて、四つとも同じような姿をしていた。その有様と構造は車輪の中にもう一つの車輪があるかのようであった。それらが移動するとき、四つの方向のどちらにも進むことができ、移動するとき向きを変えることはなかった。車輪の外枠は高く、恐ろしかった。車輪の外枠には、四つとも周囲一面に目がつけられていた。生き物が移動するとき、傍らの車輪も進み、生き物が地上から引き上げられるとき、車輪も引き上げられた。それらは霊が行かせる方向に、霊が行かせる所にはどこにでも進み、車輪もまた、共に引き上げられた。生き物の霊が、車輪の中にあったからである。


註2 ヨハネの黙示録 4章 6節から8節 (新共同訳)

 また、玉座の前は、水晶に似たガラスの海のようであった。この玉座の中央とその周りに四つの生き物がいたが、前にも後ろにも一面に目があった。第一の生き物は獅子のようであり、第二の生き物は若い雄牛のようで、第三の生き物は人間のような顔を持ち、第四の生き物は空を飛ぶ鷲のようであった。この四つの生き物には、それぞれ六つの翼があり、その周りにも内側にも、一面に目があった。彼らは、昼も夜も絶え間なく言い続けた。「聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな、全能者である神、主、かつておられ、今おられ、やがて来られる方。」




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