19世紀フランス特有の宗教ジュエリー クロワ・ド・デヴォシオン サン=テスプリのある銀製クルシフィクス 28.8 x 19.4 x 5.0 mm


突出部分を含むサイズ 縦 28.8 x 横 19.4 mm  最大の厚み 5.0 mm

フランス  19世紀



 19世紀頃までのフランスでは、十字架や鳩の形の聖霊など、キリスト教信仰を色濃く反映したジュエリーが多く制作されていました。「ビジュ・ド・デヴォシオン」(bijoux de dévotion 信心の装身具)とも呼ぶべきそれらのジュエリーは、地方ごとの特徴的な意匠に基づいて制作される場合が多く、宗教社会学、民俗学、服飾史など、さまざまな観点から研究する価値のある魅力的な品々が、多彩な美を誇っていました。

 19世紀半ば以降にフランス社会の世俗化が進み、また鉄道網や電信、マスメディアが発達するにつれて、地方文化は弱体化し、消滅してゆきました。それに伴い「ビジュ・ド・デヴォシオン」も姿を消してゆき、現在では専門書や博物館の収蔵品カタログでしか目にすることができません。



 本品は 19世紀のフランスで制作されたクルシフィクスです。18世紀、19世紀頃の特徴を色濃く残しており、アンティーク品ならではの「ビジュ・ド・デヴォシオン」、現代のクロスやクルシフィクスには見られない様式の作例となっています。





 十字架は、銀板製クロス二点に「打ち出し」の技法で立体性を持たせ、鑞付け(ろうづけ 溶接)によって貼り合わせて、立体的な厚みを持たせています。十字架の各先端部は幅が広くなって三つに分かれており、フルール・ド・リスを連想させます。コルプス(キリスト像)はクロスと同じ銀製で、別作したものを鑞付けしています。十字架上部に突出した環に、フランスにおいて800シルバーを示す「イノシシの頭」のポワンソン(ホールマーク)が刻印されています。





 十字架裏面の交差部には、一羽の鳩が打ち出されています。鳩が頭を下にしているのは、この鳩が天上から地上に向けて降下する聖霊であることを表しており、メダイクロワ・ユグノトに同様の意匠が見られます。


(下) デッド・ストックの高級品 925シルバー製 クロワ・ユグノト 30.6 x 15.2 mm フランス 1970年頃 当店の商品です。




 三位一体の第三の位格である聖霊は、イエスの受洗の際、鳩の姿でイエスに降(くだ)りました。


(下) Gerard David, "The Baptism of Christ", 1505, Oil on wood 128x97cm, Gröningemuseum, Bruge




 聖霊降臨祭(ペンテコステ、五旬祭)のミサの際に、中世から歌い継がれているセクエンティア、「ウェニー・サンクテ・スピーリトゥス」(Veni Sancte Spiritus.  聖霊よ来たりたまえ)は、聖霊に捧げる祈りです。全文は次の通りです。日本語訳は筆者(広川)によります。


    ラテン語テクスト  
         
    Veni, Sancte Spiritus,
Et emitte coelitus
Lucis tuae radium.

Veni, Pater pauperum,
Veni, dator munerum,
Veni, lumen cordium.
  聖霊よ来たりたまえ。
御身の光の輝きを、
天より送りたまえ。

貧しき者どもの御父よ、来たりたまえ。
賜物を与えたまう御方よ、来たりたまえ。
心の光よ、来たりたまえ。
    Consolator optime,
Dulcis hospes animae,
Dulce refrigerium:

In labore requies,
In aestu temperies,
In fletu solatium.
  誰よりも良く慰めたまう御方よ。
魂に宿りたまう優しき御方よ。
優しき慰めよ。

労する者を休ませ、
悩む者の不安を鎮め、
泣く者を慰めたもう御方よ。
    O lux beatissima,
Reple cordis intima,
Tuorum fidelium.

Sine tuo numine,
Nihil est in homine,
Nihil est innoxium.
  いとも甘美なる光よ。
御身を信ずる者どもの
心の奥を満たしたまえ。

神なる御身のはたらきたまわざらば、
人のうちにあるもの無く、
すべては害あるものとならん。
    Lava quod est sordidum,
Riga quod est aridum,
Sana quod est saucium.

Flecte quod est rigidum,
Fove quod est languidum,
Rege quod est devium.
  汚れたるものを洗い、
渇けるものに水を与え、
傷つけるものを癒したまえ。

頑(かたく)ななるものを曲げ、
弱りたるものを護り、
道を外れたるものを正したまえ。
    Da tuis fidelibus,
In te confitentibus,
Sacrum septenarium.

Da virtutis meritum,
Da salutis exitum,
Da perenne gaudium.
  御身を信ずる者どもに、
庇護を求むる者どもに、
七つの秘蹟を与えたまえ。

徳への報いを与え、
死にゆく者を救い(註)、
永遠の喜びを与えたまえ。
    Amen, Alleluia.   アーメン、ハレルヤ。


 ヒッポのアウグスティヌスは、「デー・トリニターテ」(三位一体について) 第五巻十一章において、聖霊なる神とは父と子の間に成立する愛であると論じました。この愛は第一義的には各位格間の愛ですが、神の属性は互いに不可分ですから、聖霊は人に対する愛でもあることになります。人知を絶する神の愛は、イエスの受難において最も端的に現れました。したがって聖霊はクルシフィクスの裏面に表現するのに最もふさわしい図像であるといえます。





 本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、表面の摩耗もごく軽く、たいへん良好なコンディションです。 各部の鑞付けに緩みは無く、特筆すべき歪みや凹み等もありません。本品の意匠は18世紀、19世紀頃の特徴を色濃く残しており、現在では博物館や美術館でしか見られなくなった「ビジュ・ド・デヴォシオン」、現代のクロスやクルシフィクスとは大きく異なる様式によるアンティーク工芸品となっています。

 なお本品は銀製ですが、他の銀製ジュエリーと同様に、身に着けていれば服の布地等と擦れ合って磨かれるので、黒ずむことはほとんどありません。もしも硫化して黒ずんだ場合は、ブラシに練り歯磨きを付けて軽くこすり、推薦すれば容易にクリーニングできます。本品はごく軽量であるゆえに、日々のご愛用に適しています。





本体価格 15,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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