ユグノー十字、クロワ・ユグノト
la croix huguenote




 ユグノー十字 (la croix huguenote クロワ・ユグノト) はユグノー、すなわちフランス改革派教会(註1)の象徴で、マルタ十字の下に鳩または滴が下がった形をしています。


【ユグノー十字の起源】

 1598年4月13日、フランス国王アンリ4世 (Henri IV, 1589 - 1594 - 1610) はナントにおいて発布した勅令でプロテスタント(ユグノー)の権利を認め、これによってユグノー戦争が終結しました。しかし二代あとの国王ルイ14世 (Louis XIV, 1638 - 1715) は、1685年10月15日、フォンテーヌブローの勅令によってナントの勅令を廃止し、ユグノーに対する迫害が再開しました。


聖霊騎士団の徽章

 フォンテーヌブロー勅令の発布から3年経った1688年のこと、如何なる徽章を身に着けることも禁止されていたユグノーのために、自身もユグノーであったニームの金細工師メートル (Maystre) がユグノー十字を考案したと考えられています。ユグノー十字は聖霊騎士団 (l'ordre du Saint-Esprit) の徽章を改変したものであり、鳩がマルタ十字の下の位置に配されていることを除けば聖霊騎士団の十字架に酷似しているために、ほとんどの部外者には両者の区別がつかなかったようです。このような事情で、プロテスタントが迫害される時代であったにもかかわらず、ユグノー十字はフランス全域にすぐに広まりました。


【ユグノー十字の形状】

 ユグノー十字の上部にある十字架は、西ヨーロッパの十字架、すなわちローマ・カトリックが採用するラテン十字と異なり、等しい長さの4本の腕木が末端に向かって広がるマルタ十字となっています。各腕木の先端部には、二個ずつの玉が付いています。玉の数は十字架全体で八個になりますが、キリスト教において「八」という数字は再生の象徴であり、また山上の垂訓(マタイによる福音書5章3節から10節)で説かれている八つの幸福の象徴でもあります。山上の垂訓では。「神に頼る人、悲しむ人、義に飢え渇き、義のために迫害される人は幸いである」と説かれており、これらの言葉は当時迫害に遭っていたユグノーたちの心に強く響いたに違いありません。

 十字架の腕木と腕木の間にはフルール・ド・リス(fleurs de lys 百合文またはアヤメ文)が置かれています。三つの花弁を有するフルール・ド・リスは三位一体の象徴であるとともに、フランスの象徴でもあります。四つのフルール・ド・リスの花弁を合わせると十二枚になりますが、これは十二使徒、及び十二使徒によって代表される全キリスト教徒を象徴します。

 さらにフルール・ド・リスと、これをはさむ十字架の腕木二本によって、十字架の周りに四つの心臓形が形成されます。心臓は言うまでもなく愛の象徴であり、「四」という数によって四人の福音記者をも表します。また四つのフルール・ド・リスが形作る環は茨の冠を象(かたど)ったものと見ることができ、終わり(端)の無い環形は無限にして永遠なる神の愛を表しています。


 箱舟から鳩を放すノア。13世紀イタリアのモザイク画。


 十字架からはが下がっています。鳩はノアの箱舟から放たれ、オリーヴの枝を咥えて戻ってきました。それゆえ鳩は神との平和を象徴します。これが十字架からぶら下がっているのは、キリストの受難によって神との平和が回復されたことを表します。

 鳩は聖霊の象徴でもあります。キリスト教徒は十字架によって聖霊を受けたのであり、聖霊によって神の子となります(「ローマの信徒への手紙」 8章 15, 16節)。十字架から発出する聖霊は、このことをも表します。

 この鳩の代わりに、プロヴァンス語で「トリスゥ」(trissou) と呼ばれる滴のようなものがぶら下がっていることがあります。トリスゥはランス司教座聖堂において国王塗油の秘跡に使われる聖油の小瓶 (la Sainte Ampoule) を模(かたど)ったもので、フルール・ド・リスとともにユグノーの愛国心の表われです。トリスゥはまたペンテコステにおいて使徒たちの上に降った聖霊(「使徒言行録」 2章)を象徴するとも、迫害されるユグノーの涙を表すとも言われています。

 マルタ十字の各腕木は十字架の中心から末端に向かって幅が広がり、光線が発出しているように見えます。それゆえマルタ十字は光である神を象徴していると看做すこともできます。このように考えれば、父なる神、子なる神、聖霊なる神の三位一体が、ユグノー十字に表現されていると解釈することができます。


【紋章におけるユグノー十字】



 フランスのコミューヌ(町や村)はそれぞれ紋章を制定していますが、歴史的にプロテスタントとつながりが深いコミューヌのなかには、ユグノー十字を紋章に取り入れた例が見られます。上左は、六角形のフランス国土の右上隅付近にある小村キルベール(Kirrberg アルザス地域圏バ=ラン県)の紋章です。上右はフランスの中央よりも少し北東に寄ったところの小さな町サン=マール=アン=オト(Saint-Mards-en-Othe シャンパーニュ=アルデンヌ地域圏オーブ県)の紋章です。



註1 改革派教会 (les églises reformées) とは、ジャン・カルヴァン (Jean Calvin ou Jehan Cauvin, 1509 - 1564) の教説に従う教会のことです。



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