極稀少品 無原罪の御宿りなる海の星マリア ブロンズのアンティーク・クルシフィクス 44.9 x 24.9 mm


突出部分を含むサイズ 縦 44.9 x 横 24.9 mm

フランス  18世紀から19世紀前半



 18世紀または19世紀前半のフランスで、ブロンズを用いて制作されたクルシフィクス。 19世紀半ば以前のメダイやクルシフィクスは、浅浮き彫りを打刻している場合がほとんどですが、本品はこの時代の物には珍しく、鋳造により制作されています。そのためにクロスは分厚く、浮き彫りも立体的で、表面の聖像に重厚な存在感があります。一方の面にはコルプス(キリストの磔刑像)が、もう一方の面には無原罪の御宿り(聖母マリア)像が浮き彫りにされていますが、二つの面は同様の丁寧さで作られています。





 コルプス(磔刑像)の面は、キリストの頭部、胸部、右脚を十字架から大きく突出させ、臨場感あふれる表現となっています。小品彫刻ながら、引き攣(つ)るように曲がった左右の手の指は、マチアス・グリューネヴァルト (Matthias Grünewald, c. 1475 - 1528) のイーゼンハイム祭壇画を思わせる迫力があります。


(下) Matthias Grünewald, „Isenheimer Altar“, etwa 1512 – 16, Öl auf Holz, 307 x 269 cm, Musée d'Unterlinden, Colmar




 キリストの足下には、ゴルゴタに埋葬されていたといわれる人祖アダムの骨があります。骨はいうまでもなく死の象徴であり、特にアダムの骨はアダム個人の死というよりもむしろ原罪が人類にもたらした普遍的な死を表します。この「死」をキリストの足下に置くことにより、死に対するキリストの勝利を象徴的に表しています。





 クルシフィクスの裏面には、珍しいことに、無原罪の御宿りなる弦月の聖母、モーントジッヒェルマドンナが浮き彫りにされています。月を足の下にし、十二の星の冠を頭に戴いた女の姿は、ヨハネの黙示録12章の冒頭に出て来ます。

     Καὶ σημεῖον μέγα ὤφθη ἐν τῷ οὐρανῷ, γυνὴ περιβεβλημένη τὸν ἥλιον, καὶ ἡ σελήνη ὑποκάτω τῶν ποδῶν αὐτῆς, καὶ ἐπὶ τῆς κεφαλῆς αὐτῆς στέφανος ἀστέρων δώδεκα, καὶ ἐν γαστρὶ ἔχουσα, καὶ κράζει ὠδίνουσα καὶ βασανιζομένη τεκεῖν. καὶ ὤφθη ἄλλο σημεῖον ἐν τῷ οὐρανῷ, καὶ ἰδοὺ δράκων μέγας πυρρός, ἔχων κεφαλὰς ἑπτὰ καὶ κέρατα δέκα καὶ ἐπὶ τὰς κεφαλὰς αὐτοῦ ἑπτὰ διαδήματα, καὶ ἡ οὐρὰ αὐτοῦ σύρει τὸ τρίτον τῶν ἀστέρων τοῦ οὐρανοῦ καὶ ἔβαλεν αὐτοὺς εἰς τὴν γῆν. καὶ ὁ δράκων ἕστηκεν ἐνώπιον τῆς γυναικὸς τῆς μελλούσης τεκεῖν, ἵνα ὅταν τέκῃ τὸ τέκνον αὐτῆς καταφάγῃ. καὶ ἔτεκεν υἱόν, ἄρσεν, ὃς μέλλει ποιμαίνειν πάντα τὰ ἔθνη ἐν ῥάβδῳ σιδηρᾷ: καὶ ἡρπάσθη τὸ τέκνον αὐτῆς πρὸς τὸν θεὸν καὶ πρὸς τὸν θρόνον αὐτοῦ. (Nestle Aland 27)    また、天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた。女は身ごもっていたが、子を産む痛みと苦しみのため叫んでいた。また、もう一つのしるしが天に現れた。見よ、火のように赤い大きな竜である。これには七つの頭と十本の角があって、その頭に七つの冠をかぶっていた。竜の尾は、天の星の三分の一を掃き寄せて、地上に投げつけた。そして、竜は子を産もうとしている女の前に立ちはだかり、産んだら、その子を食べてしまおうとしていた。女は男の子を産んだ。この子は、鉄の杖ですべての国民を治めることになっていた。子は神のもとへ、その玉座へ引き上げられた。(新共同訳)


 アウェ・マリス・ステーッラ(AVE MARIS STELLA めでたし、海の星よ)の一節から採ったラテン語の祈りが、聖母を囲むように記されています。

  VIRGO IMMACULATA, VITAM PRAESTA PURAM.  無原罪の乙女よ、清き生を授けたまえ。





 このマリア像は長い衣をまとっていますが、後ろからの風にあおられて下半身がはだけ、形の良い右脚が付け根まで露わになっています。クルシフィクスの裏側にマリア像を彫った作品はかなり稀少ですが、類例は皆無ではありませんし、本品に他に変わった点は無いので、古典彫刻やルネサンス美術に見られるようなエロチックな表現を意図したとも考えられません。表(おもて)面に半裸のキリスト像を彫った彫刻家が、聖母像までうっかりと同じ彫り方をしてしまったのでしょうか。

 聖母像を囲む祈りの引用元、「アヴェ・マリス・ステーッラ」は、次の言葉で始まります。

    AVE MARIS STELLA
DEI MATER ALMA
ATQUE SEMPER VIRGO
FELIX CAELI PORTA
  めでたし、海の星よ。
神を産み育てし母にして
永遠の処女
天つ国の幸いなる門よ。
         
    SUMENS ILLUD AVE
GABRIELIS ORE
FUNDA NOS IN PACE
MUTANS EVAE NOMEN
  かの言葉「アヴェ」
ガブリエルの口から与えられし御身よ、
エヴァという名をアヴェに変え、
平和のうちに我らを憩わせたまえ。

 原罪の元となった人祖の妻の名「エヴァ」(EVA) をひっくり返すと、受胎告知の際にガブリエルが発した言葉のラテン語訳「アヴェ」(AVE) になります。「アヴェ」は本来単なる間投詞で「ごきげんよう」「こんにちは」等とも訳されますが、ヘブル文学の延長線上にある新約聖書の用語としては、「メシアの出現の予告」という深い意味を有します。上記「アヴェ・マリス・ステーッラ」の第二節に「エヴァという名をアヴェに変え…」(SUMENS ILLUD AVE... MUTANS EVAE NOMEN) とあるのは、このことを言っています。「アヴェ」の解釈に関しては、受胎告知の解説ページで詳しく説明しました。エヴァが人間に死をもたらしたのに対して、エヴァと同じ女性であるマリアは、救い主を生むことにより、人間に救いをもたらしました。それゆえマリアは「新しきエヴァ」とも呼ばれます。


(下・参考画像) Bruder Furthmeyr, Mary and Eve under the Tree of the Fall, 1481, book illustration, Bavarian State Library, Munich エヴァが人々に与えている木の実は、死をもたらす罪の象徴です。これに対してマリアが人々に与えているのは、生命をもたらす聖体です。




 エヴァの露わな肢体が描かれることは珍しくありませんが、マリアを描いたあらゆる絵画、彫刻のなかでも、本品のように脚の付け根まで露わになった作例を、私は初めて目にしました。




 19世紀後半以降のクルシフィクスやメダイとは違って、本品においてはクルシフィクス上部の輪がクロスの平面に対して直角に取り付けられており、より古い時代の特徴を残しています。前述のように本品は鋳造によって制作されており、同時代のクルシフィクスに比べて、浮き彫りがきわめて立体的です。それゆえ浮き彫りの最も突出した部分が磨滅して、真正のアンティーク品ならではの味わいを醸しています。またクルシフィクス全体が美しい均一のパティナ(古色)に被われています。

 商品写真は実物の面積を約25倍に拡大しているため、磨滅した部分が目立ちますが、実物を肉眼で見ると美しく、およそ二百年前に制作された真正のアンティーク品としては十分に良好な保存状態です。コルプス頭上に掲げた "INRI"(ユダヤ人の王、ナザレのイエス)の札、マリアを囲む小さな星や祈りの文字などの細部も、すべて綺麗に残っています。





42,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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