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モンマルトル　サクレ・クールのバシリカ
La Basilique du Sacré-Cœur , Paris

（上）　建設中のサクレ＝クール・ド・モンマルトル　コロタイプによる古い絵葉書　当店の商品です。

　帝国主義の時代であった19世紀、1870年7月19日から1871年5月10日にかけて、フランスとプロイセンの間で普仏戦争が戦われます。

　この戦争は最初からフランスに不利で、開戦からわずか1ヵ月半後の1870年9月2日、セダンの戦いにおいて皇帝ナポレオン3世自身が104,000人のフランス将兵とともにプロイセン側の捕虜となってしまいました。圧倒的な強さを見せるプロイセン軍はフランス国内深くに進軍を続け、1870年9月19日から4ヶ月にわたってパリを包囲、翌年1月28日にパリは陥落しました。

　パリが陥落した当時のフランスは、ナポレオン3世が捕虜となって帝政が崩壊したことにより第三共和政となっていました。共和国政府はパリが陥落するとプロイセンに対して降伏し、自国の将兵に対して武装解除を求めます。パリ包囲に耐えた市民たちはこの降伏に納得せずに武装蜂起し、3月26日にパリ・コミューンを樹立しました。

　パリ・コミューンは史上最初のプロレタリア政体であり、政治を教会の影響力から切り離し、共和暦を用いるなど、フランス革命を髣髴とさせる急進的な政策を次々に実施しましたが、共和国政府によって5月28日に鎮圧されました。この内乱による死者は3万人ともいわれます。

　普仏戦争で惨敗したフランスは50億フランの賠償金を課せられ、アルザス、ロレーヌの3県をドイツに割譲することとなりました。普仏戦争はフランスに対して物心両面でかつてないダメージを与えたできごとでした。

　パリのモンマルトルにサクレ・クールのバシリカ（サクレクール寺院 La Basilique du Sacré-Cœur）が建っています。サクレ・クールはフランス語で聖心のことで、この教会はイエス・キリストの聖心に捧げられています。

　聖心とは茨の冠に巻かれて血を流す心臓の図像で、イエスの愛を象徴しています。聖心に関する詳しい説明は、ここをクリックしてください。

　La Basilique du Sacré-Cœur, Paris

　イエスの聖心　19世紀のエングレーヴィング

　普仏戦争とパリ・コミューンの混乱を経てフランスが宗教に回帰した時代、「悔悛のガリア」となったフランスにおいて、聖心への信心が盛んになりました。

　1873年7月24日には、コミューンによる統治中に犯された不敬虔の罪を償うため、聖堂の建設が宣言されます。コミューンの中心メンバーは人質を取ってここモンマルトルに退却し、共和国軍に鎮圧される前日（1871年5月27日）に人質を処刑していますが、そのなかにはマドレーヌ教会の神父や3人のイエズス会士に加えて、パリ大司教ジョルジュ・ダルボワ師 (Mgr. Georges Darboy, 1813 - 1871) も含まれていました。大司教は祝福の姿勢をとり、あなたがたを赦すと言いながら銃殺されたといわれます。ダルボワ大司教たちは殉教者として手厚く葬られました。

　1872年10月、モンマルトルの丘の上でパリ大司教ギベール師 (Joseph-Hippolyte Guibert, 1802-1886) は幻視を経験しました。雲に覆われていた空が晴れ上がり、「この場所こそ殉教者が眠る地。この地こそ、万人を招くべく、聖心が治めるべき地である」とのお告げがあったといわれています。

　1873年5月24日、ポワチエのピィ司教 (Louis-Édouard-François-Désiré Pie , 1815 - 1880) はフランスの霊的目覚めを呼びかけ、第三共和制のもとにカトリックの組織と世俗の組織がともに手を取り合って、国民の宗教心を刷新すること、悔い改めたフランス（ガリア）をイエスの聖心に捧げること (SACRATISSIMO CORDI JESU GALLIA PŒNITENS ET DEVOTA) を訴えかけました。

　1873年7月24日には、モンマルトルにおける聖堂の建設は公共の事業であると宣言され、教会はその建設計画を「フランス国民の誓い」 (vœu national) であるとし、フランス中の教会から献金が集まりました。こうして 1875年に建設が始まり、聖堂がようやく完成したのは 1914年のことでした。