稀少デッド・ストック品 すべての人を執り成す御母 《ファティマのロザリオの聖母 23.3 x 16.0 mm》 ルネサンス様式の枠とフルール・ド・リスによる美術品 フランス 1950 - 60年代


突出部分を含むサイズ 縦 23.3 x 横 16.0 mm



 精緻なミニアチュール彫刻が美しいファティマの聖母のメダイ。およそ六十ないし七十年前のフランスで制作された古い品物ですが、販売されないまま信心具店に残っていたデッド・ストック品(ヴィンテージの未使用品)です。銀色めっきの突出部分には肉眼で見ても気づかないほどわずかに摩滅していますが、この摩滅は保管中に他の物品と擦れ合って生じたと思われます。本品は未使用品であるゆえに彫刻の細部までよく残り、極めて良好な保存状態です。上部の環にフランス(FRANCE)の文字があります。





 本品は楕円形の小メダイにファティマの聖母の半身像を表し、凝った意匠の枠で囲んでいます。聖母は戴冠し、冠には世界の支配権を象徴する十字架付の球体、グロブス・クルーキゲル(羅 GLOBUS CRUCIGER) があしらわれています。女王として表された聖母は、ロザリオを持つ手を胸の前に合わせ、執り成しの祈りを神に捧げています。聖母を取り巻くように、「ノッサ・セニョーラ・ド・ロザリオ・ダ・ファティマ」(Nossa Senhora do Rosário da Fátima ファティマのロザリオの聖母) の文字がポルトガル語で記されています。

 ポルトガル語のノッサ・セニョーラ(葡 Nossa Senhora)は、フランス語のノートル=ダム(仏 Notre-Dame)と同じく、「我らの貴婦人」という意味です。聖母をこの称号で呼び始めたのは、シトー会です。1098年に創設されたシトー会では聖母への崇敬が重視され、同会に属するほとんどの修道院は聖母の称号に基づいて名付けられました。五世紀以来、マリアは主に女王として崇敬されてきましたが、シトー会の神学者クレルヴォーの聖ベルナール(Bernard de Clairvaux, 1090 - 1153)はマリアの母性を重視しました。ノートル=ダム(われらの貴婦人)という称号はベルナールの考案によりますが、これは特定の場所の領主夫人に対比させた「われら全員の貴婦人」、すなわち「われらの尊き御母」という意味に他なりません。





 聖母像の冠には様々な形のものがありますが、ファティマの聖母のために作られた二つの冠はいずれも女王の冠を模ります。これは 1646年、当時のポルトガル王ジョアン四世(João IV o Restaurador, 1604 - 1656)により、聖母がポルトガルの女王とされたためです。

 1933年以来サラザールの独裁体制下にあったポルトガルは、第二次世界大戦時も中立を保ちました。ポルトガルの女性たちはこの国が戦争に巻き込まれず、夫や恋人、息子たちが戦場に駆り出されなかったことを感謝し、ジュエリーをはじめとする貴金属製品を聖母に捧げました。集まった貴金属製品はポルトの貴金属工房レイタン・エ・イルマン(Leitão & Irmão)に渡され、十二人の貴金属職人による数か月間の作業を経て二つの冠が制作されました。二つのうちの一方は金と宝石の冠、もう一方はヴェルメイユ(仏 vermeil 銀に金めっき)の冠です。二つの冠はいずれも 1942年に制作され、1946年5月13日、ファティマにおける聖母出現二十九周年の記念日に、同所において戴冠式が挙行されました。

 ファティマの聖母は、1946年、教皇ピウス十二世により、「ポルトガル及び全世界の女王」として戴冠しました。戴冠した聖母像は32日間にわたってポルトガル国内を巡行し、翌 1947年からは全世界を巡行しました。本品は戴冠した聖母の姿を刻んでおり、世界を巡行する「すべての人の御母」(ノッサ・セニョーラ)である聖母の姿を写しています。





 本品メダイユの浮き彫りにおいて聖母が被るのは、毎月十三日に聖母像に被せられる金の冠です。この冠は 313個の真珠と 2679個の宝石で飾られ、1.2キログラムの重量があります。十三日以外の日にはヴェルメイユの冠が聖母像に被せられます。

 本品メダイが制作されたのは 1960年代ですが、これより後の 1981年5月13日、ヴァティカンにおいて教皇ヨハネ=パウロ二世の暗殺未遂事件が発生し、教皇は狙撃されて重傷を負いました。このとき教皇を傷つけた銃弾が 1984年にファティマの聖母に捧げられ、女王冠のグロブス・クルーキゲルの下部に、下向きに嵌め込まれました。

 グロブス・クルーキゲル(羅 GLOBUS CRUCIGER)はラテン語で「十字架付きの球体」という意味で、被造的世界全体を象る球に十字架を伴います。グロブス・クルーキゲルはキリストこそが被造的全世界(全宇宙)の支配者であることを象徴しています。ファティマの聖母の冠最上部に突出しているのが、グロブス・クルーキゲルです。また上述の通り、本品メダイにおいて聖母が被る金の冠は真珠で飾られています。古来真珠は女性の生殖力、すなわち母になる力を象徴します。また古来の伝承によれば真珠は月の光を受けて生まれますが、月もまた女性の生殖力の象徴です。したがって真珠の冠を被った女王マリアの姿は、聖母がイエスの母であるとともに、すべての人の母でもあることを表しています。





 ファティマの聖母やルルドの聖母をはじめ、信心具として制作されたメダイの図柄は定形化が進んでいます。定形化の理由を分析するならば、メダイユを作る側の事情としては、優秀なメダユール(仏 médailleur メダイユ彫刻家)によって優れたマトリス(仏 une matrice 母型、マトリクス)が制作されると長期に亙って使用されること、また優れたマトリスに倣う二次的な作品群も現れることが挙げられます。さらにテレビやラジオ、インターネットにおいて同じ品物のコマーシャルが繰り返され、印象付けが行われることにも現れているように、買い手は馴染みのあるもの、知っているものを買おうとします。それゆえ定形化した図柄のメダイは買い手に訴求するうえで有利ですし、一目見て何のメダイがわかる意匠は買い手にとってもありがたいといえます。

 しかるに信心具、特に古い時代の信心具は、一般的な消費財と共通する点がある一方で、大きく異なる特徴も有します。それは信心具の本質にかかわる精神性が意匠に反映されていることです。信心具以外にも、美術工芸品や建築物、服飾品等の意匠は伝統を踏まえて考案されますが、信心具の場合は教会が伝統からの極端な逸脱を嫌うゆえに、伝統が意匠に及ぼす支配力がとりわけ強いといえます。一見したところこれは意匠考案の自由に対する制約のように思えますが、事実はそれと正反対です。なぜならば信心具の意匠はその最小部分に至るまで、伝統に基づく豊かな含意を有するからです。


 信心具が有するこの特性は聖母が被る真珠の冠にも顕れていますし、本品メダイに限って言えば、メダイ全体の形状及び枠の意匠にもよく表れています。すなわち天円地方の思想は西洋にもあり、円が球と同様に天上界を表すのに対して、方形または四という数及びテトラクテュス(希 τετρακτύς)は地あるいは被造的世界の全体を表します。本品の聖母は円ではなく楕円の画面に彫られていますが、これは聖母が有する世界軸としての属性を強調するために円が縦に引き伸ばされた結果であって、本品における楕円は円と同じ象徴性を有します。

 これに対して四方向を強調した枠は被造的世界の象(かたど)りです。枠の四端にはフルール・ド・リス(仏 fleur de lys 百合の花)が配されています。フルール・ド・リスは百合と同様に聖母の象りですから、本品メダイの全体的意匠は聖母の愛と執り成しが全世界に及ぶことを示します。本品メダイの四端にあしらわれた百合の花は、冠の基部にあるグロブス=クルーキゲルと一対を為すとともに、ノッサ=セニョラ・ダ・ファティマ像の各国巡行と響き合います。





 本品は楕円の部分が枠よりも手前に突出し、枠にも高低差があって、メダイ全体が立体性に富む意匠となっています。上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖母の顔や手、冠の彫金細工や衣の刺繍、ロザリオの珠の一つ一つまでを再現した浮き彫り彫刻は、百分の一ミリメートルのオーダーで制作されています。





 裏面にはファティマに出現した聖母と、聖母を拝する羊飼いの子供たちを描きます。聖母と二人の少女、一人の少年の周囲には羊たちや木立、でこぼこした地面が浮き彫りにされ、いくぶん素朴な作りながらも、聖母出現のシーンに居合わせるかのような臨場感を感じさせます。ロザリオの聖母に執り成しを求める祈りが、周囲にポルトガル語で記されています。

 Nossa Senhora do Rosário da Fátima, rogai por nos.  ファティマのロザリオの聖母よ、われらのために祈りたまえ。





 この面の浮き彫りは縦長の楕円形画面に制作され、灌木の上に立つ聖母はひときわ大きく表現されています。これはファティマに出現した聖母が、天地を繋ぐアークシス・ムンディー(羅 AXIS MUNDI 世界軸)であることを視覚的に強調した表現と考えられます。キリスト教のメダイユはフェティッシュ(物神、護符)ではありませんが、ファティマにおける聖母出現を描写した本品はいわば持ち運び可能な世界軸として制作され、これを手にする人が過ごす時間と空間を聖化する願いが込められています。

 なおメダイをペンダントとして日々愛用すると、裏側が服地と擦れ合ってどうしても摩滅しますが、本品裏面の彫刻は楕円形の窪みに制作されているので、服地と擦れ合うことがなく、摩滅が起こりません。これは本品を実用するうえでの大きな利点といえましょう。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖母の身長は四ミリメートルほど、子供たちの身長は三ミリメートルほどしかありませんが、浮き彫り彫刻は細部にわたって写実的です。とりわけ本品は未使用品であるゆえに、突出部分にもまったく摩滅が無く、ファティマにおける聖母出現の歴史性、事実性の芸術的証言となっています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりも一回り大きなサイズに感じられます。







 本品は数十年前に制作された真正のヴィンテージ品(アンティーク品)ですが、未販売の新品であるゆえに、保存状態は極めて良好です。特筆すべき問題は何もありません。本品はアルミニウムのような軽金属製ではありませんが、小さいためにごく軽量であり、ペンダントとして日々ご愛用いただけます。





本体価格 8,500円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




ファティマの聖母のメダイ 商品種別表示インデックスに戻る

各地に出現した聖母のメダイ 一覧表示インデックスに戻る


各地に出現した聖母のメダイ 商品種別表示インデックスに移動する

聖母マリアのメダイ 商品種別インデックスに移動する


メダイ 商品種別インデックスに移動する


キリスト教関連品 商品種別表示インデックスに移動する



アンティークアナスタシア ウェブサイトのトップページに移動する




Ἀναστασία ἡ Οὐτοπία τῶν αἰλούρων ANASTASIA KOBENSIS, ANTIQUARUM RERUM LOCUS NON INVENIENDUS