フランス救国の聖女ジャンヌ・ダルク (Ste. Jeanne d'Arc, 1412 - 1431) の横顔を打ち出したメダイ。打刻により銀の薄板を立体的に仕上げた作品ですが、薄板と言ってもある程度の強度があり、たとえばペンダントとして使う場合、折れ曲がったり凹んだりすることはありません。ジャンヌの左肩よりも少し下、メダイの縁に近いところに、800シルバーを示すホールマークがあります。
ジャンヌは甲冑に身を包んでいますが、兜をかぶっておらず、美しく整った横顔と、長く豊かな髪を見せています。この作品においてジャンヌの甲冑はあたかも通常の布地でできた衣服のように見え、風になびく髪とはためく軍旗、甲冑の全面を飾る植物文様とともに、女性らしいたおやかさを見せています。
本品に色彩はありませんが、軍旗の本来の色は青で、金色のフルール・ド・リスが全面に散らされています。フルール・ド・リスはフランスの専有物ではありませんが、本品においては軍旗にあしらわれることによってフランスを象徴し、ジャンヌがフランスの守護聖人であることを明示しています。
(下) ルイ14世の青いマントに散りばめられた金色のフルール・ド・リス Philippe de Champaigne, "Louis XIV offrant sa couronne à une Vierge à l'Enfant", 1643
普仏戦争の敗戦により、アルザス、ロレーヌ両州をドイツに割譲したフランスは、第一次世界大戦でドイツに勝って、失地を回復しました。しかしながらヴェルサイユ条約によって賠償の義務を負ったドイツは、賠償金
2690億金マルクの支払いを拒否し、フランスとベルギーはドイツへの要求を貫こうとして、1923年、非武装地帯であったノルトラインの工業地帯(ルール地方)に進駐し、1930年まで占領を続けました。
ジャンヌが教皇ピウス11世によって、トゥールの聖マルタン、リジューの聖テレーズ、ルイ9世等と並ぶフランスの守護聖人 (une patronne secondaire) とされたのは、列聖された二年後、1922年のことです。この作品が制作されたのは
1920年代ですが、これはドイツとの間に大きな緊張をはらんだ時期であったことがわかります。
本品はメダイユ芸術が発達したフランスならではの美しい工芸品であるとともに、貴重な歴史資料でもあります。保存状態は良好で、美しく歳月を重ねています。肉眼で見て気になるような瑕疵(かし 欠点)は何もありません。