極希少品 ブイ作 銀無垢メダイユ 《消防士の守護聖人 聖バルバラ 直径 15.3 mm》 細密浮き彫りによる小さな芸術品 フランス 1910 - 30年代


突出部分を除く直径 15.3 mm   最大の厚さ 2.1 mm   重量 1.7 g




 1910年代から 1930年代頃のフランスで制作された聖バルバラのメダイ。ニコメディアの聖バルバラ(Ἁγία Βαρβάρα της Νικομηδείας)はギリシアの植民市ニコメディアで生まれ、ヘリオポリス(レバノンの古代都市バールベク)で殉教したと伝えられる三世紀の聖女で、異教徒の父により塔に閉じ込められたという聖人伝で知られます。

 聖バルバラはカトリック教会と正教会において古くから崇敬される聖人で、四世紀前半にはローマの暦に殉教聖女として祝日が割り当てられ、380年頃にはニコメディアでギリシア語の聖人伝が成立したと考えられます。12月4日の聖バルバラ祭はノルマンディー、ブルターニュをはじめとする西ヨーロッパの諸地域で十三世紀以来親しまれてきましたし、聖バルバラは鉱夫たちが誰よりも頼みとする守護聖女でした。しかしながら聖バルバラは歴史的実在性が不確かなため、現在はカトリックの典礼暦から外されています。





 メダイの表(おもて)面には、聖バルバラの上半身が中央に大きく浮き彫りにされています。バルバラはこの聖女のアトリビュート(英 attribute 持物)、すなわちこの聖女がバルバラであることを示す塔と、殉教者の栄光を表すナツメヤシの葉を大切そうに捧げ持っています。バルバラは半ば瞑目し、神との対話に沈潜しているようにも、甘美な天上の音楽に聴き入っているかのようにも見えます。





 バルバラは塔とナツメヤシに手の上に直接載せるのではなく、布を介して触れています。聖なるものに触れたり受け取ったりする際は、直接触れることを避けて、手を布で覆います。このように布で覆った手を、マヌース・ウェーラータエ(羅 MANUS VELATAE 複数主格)と言います。

 「レゲンダ・アウレア」によると、異教徒の父によって塔に閉じ込められたバルバラは、父の不在中、塔の内部に浴室を作らせて洗礼を受け、さらに窓が二つしかなかった塔に三つめの窓を開けて、これら三つの窓を三位一体の象(かたど)りと為しました。すなわちバルバラは自分の居所と定められた塔を人の魂と捉え、その塔において魂の内なる洗礼を受けるとともに、昏(くら)い魂に神が光を注ぎ給うことを、三つの窓によって示したのです。





 キリスト教神学において、人間の知性は神の属性を知ることができません。神がどのような方であるかを知ることができず、神の定義からあらゆる形容詞が排除されれば、大きさの無い点が残ります。建築において神の比喩である点に相当するのは、柱や壁や屋根など手で触れ目で見ることができる実質以外の部分、すなわち窓となりましょう。すなわちバルバラが手に持っているのは塔ですが、殉教処女にとって本当に大切なのは塔の石材部分ではなく、三つの窓に他なりません。バルバラが塔を捧げ持っているのは窓の空間だけを図像に表すことはできないからに過ぎず、バルバラは塔というよりもむしろ窓を持っているのです。

 このように考えれば、本品に彫られたバルバラの両手がマヌース・ウェーラータエである理由が分かります。バルバラは図像で表すことができない神を捧げ持っているゆえに、両手を布で覆っています。

 さらに本品のメダユールは、石材で築かれた塔の堅固さを、殉教処女バルバラの信仰心の象徴と重ね合わせています。本品に彫られた塔は窓において神を表すとともに、堅固な石壁と狭間付胸壁によって堅固な信仰心をも表します。殉教を象徴するナツメヤシの葉が基部において塔と重なり合うのは、石の塔が信仰の堅固さを表しているからです。





 聖女を取り巻くように、サンクタ・バルバラ(羅 SANCTA BARBARA 聖バルバラ)の文字が刻まれています。メダイ最下部にはフランス(FRANCE)の文字、聖女の右(向かって左)にはメダイユ工房のモノグラム(AP)、聖女の左にはメダユールの署名(Bouix)があります。

 ブイは二十世紀前半のフランスで活躍したメダユール(仏 un médailleur メダイユ彫刻家)で、丁寧に制作した写実的な作風が特徴です。聖母マリアやマグダラのマリアなど、聖女を浮き彫りにした美しい作品群で知られます。


 上部に突出した環状部分にはフランスの銀製品工房に特有の菱形のマークと、純度八百パーミル(800/1000, 八十パーセント)の銀を表す蟹の検質印が刻印されています。菱形の内部には十字架を挟んでAPの文字があります。純度八百パーミルの銀にはイノシシの頭と蟹の二種類があり、イノシシの頭はモネ・ド・パリ(パリ造幣局)で、蟹の検質印はパリ以外の検質所で、それぞれ検質されたことを示します。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。バルバラの顔も手も二ミリメートルほどに過ぎませんが、聖女の顔立ちは美しく整い、手の形は自然です。ナツメヤシの葉の一枚一枚、塔に用いられた一つ一つの石材までが、一切手を抜くことなく写実的に表現されています。

 本品の周囲には手作業で鋳バリを削り取った跡があり、打刻ではなく鋳造で制作されていることがわかります。鋳造はたいへん手間がかかる制作方法で、手間をかけて制作された本品は、小さなサイズながらも立派な芸術品の水準に到達しています。





 メダイユの裏面には消防士のヘルメット、放水銃、鶴嘴、ハンマー、やっとこ、馬の蹄鉄など、消防と救助活動に関連する数々の物品が浮き彫りにされています。

 「レゲンダ・アウレア」をはじめとするハギオグラフィ(聖人伝)によると、バルバラは実の父に斬首されて殉教しました。しかるにバルバラの父には覿面に神罰が下り、娘を手にかけた直後に稲妻に打たれて死にました。聖バルバラはこの故事に基づいて稲妻と雷に関連付けられ、落雷から守ってくれる守護聖人とされました。さらに火に関連付けて、バルバラはフランスの消防士の守護聖人ともされています。





 消防と救助活動に関連する物品は、シェーヌの葉を背景に浮き彫りにされています。シェーヌ(仏 chêne)すなわちブナ、ナラ、カシ等の喬木は堂々とした大樹であるゆえに、崇高さ、力強さ、堅固さ等を象徴します。シェーヌはラテン語でローブル(羅 ROBUR)といいますが、この語は物理的ならびに精神的な堅固さ、強さ、力をも表します。さらに旧約聖書においても「創世記」12章6節から7節、及び13章18節において、シェーヌは天地を繋ぐ役割を果たしています。それゆえ消防の器具に重ね合わされたシェーヌの葉は市民を守る消防士の力強さを表すとともに、消防士たちが頼みとする聖バルバラの堅固な守護を表しています。

 シェーヌは高木であるゆえに落雷に遭い易く、古代神話において稲妻や雷に関連付けられました。本品メダイに彫られたシェーヌは、聖バルバラが落雷から守ってくれる守護聖人であることをも表しています。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。消防に関わる物品やシェーヌの葉の各部は数分の一ミリメートルのサイズですが、定規が無ければその小さなサイズが信じがたいほど、正確で細密な描写となっています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。







 本品は九十年ないし百年以上前に作られた真正のアンティーク品ですが、いずれの面の浮き彫りにも摩滅が見られず、極めて良好な保存状態です。直径十五ミリメートルあまりと小さめのサイズはどのような服装にも合わせやすく、お買い上げいただいた方には必ずやお気に召すことと思います。





本体価格 15,800円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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