二十世紀初頭頃にフランスで制作されたメダイヨン(ロケット)型ペンダント。パドヴァの聖アントワーヌが幻視した幼子イエスを抱く姿を小さな石版画で描き、滑らかに研磨した分厚いガラスで挟んでいます。二枚のガラスは金めっきを施したブロンズの帯で束ねられ、多数の爪によって安全に保持されています。
石版画は多色刷りですが、縦十六ミリメートル、横十四ミリメートルという小さなサイズにもかかわらず、色は全くずれておらず、手描きのミニアチュールを思わせます。聖画に描かれた聖アントワーヌはフランシスコ会の茶色い修道服を着、右手に白百合を持っています。聖人の左腕に抱かれた幼子は、あたかも父ヨセフに対するように、聖人に寄り添って愛と親しみを表しています。
石版画の裏面には「ガブリエル」(Gabrielle)というフランス人女性の名前が書かれています。このメダイヨン型ペンダントは、聖アントワーヌの祝日、すなわち六月十三日生まれの女の子のために購入され、健やかな成長を願って贈られたものなのでしょう。
心臓を模(かたど)った二枚のガラスは八ミリメートルを超える厚みをメダイヨンに与えて、小さいながらも実物の心臓のように立体的な作品に仕上げています。
キリスト教の象徴体系において、心臓は「霊の座」「信仰の座」を表すとともに、「神の愛」及び「神に対する愛」をも象徴します。とりわけ本品が制作された二十世紀初頭のフランスでは、キリストの聖心に対する信心が盛んでした。したがって本品は、聖アントワーヌの執り成しにより、神とキリストが少女ガブリエルに愛と加護を注ぎ給うことを願う品物であることがわかります。両親を始め、幼い少女を温かく見守る人々の愛が、石版画に描かれたキリストと聖人の微笑みに映し出されています。
本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品ですが、保存状態は良好です。ガラスの表面には通常の使用に伴う小さな瑕(きず)がありますが、罅(ひび)や欠損はありません。ブロンズの帯に破断は無く、ガラスを留める爪にも欠損はありません。