ルイ・トリカール作 銀無垢メダイ 「エッサイの樹より出ずる花」 マリアを教育する聖アンナ 直径 14.9 mm
突出部分を除く直径 14.9 mm
フランス 20世紀初頭
少女マリアを教育する聖アンナのメダイ。フランスにおいて800シルバー(純度800/1000のシルバー)を示す「イノシシの頭」のポワンソン(貴金属検質所のマーク)が、上部の環に刻印されています。
メダイの表(おもて)面にはふたりの聖女、少女マリアと、マリアを教育する聖アンナが浮き彫りで表現されています。聖アンナの後光には、執り成しを求める祈りの言葉がラテン語で刻まれています。
SANCTA ANNA ORA PRO NOBIS 聖アンナよ、我らのために祈り給え。
左手にパピルスを持つ聖アンナは、娘マリアを見つめつつ、右手を挙げて祝福を与えており、その様子は預言者を思わせます。メダイの周囲にラテン語で刻まれた言葉から、アンナが手にしているのは「イザヤ書」の一部であることがわかります。メダイの周囲に刻まれた言葉は、次の通りです。
FLOS DE RADICE JESSE ASCENDET エッサイの根より花出ず
この言葉は、旧約聖書「イザヤ書」 11: 1 - 2 に見られるエッサイの樹の預言を引用したものです。
エッサイの株からひとつの芽が萌えいで その根からひとつの若枝が育ち その上に主の霊がとどまる。 (新共同訳) |
Et egredietur virga de radice Jesse, et flos de radice ejus ascendet. Et requiescet super eum spiritus Domini: (VULGATA) |
「イザヤ書」の預言はマリアの夫である聖ヨセフの家系に関するもので、聖アンナ及びマリアの家系には直接の関係が無いはずですが、中世においてはマリアもまたエッサイの子孫と考えられることがありました。また、上に引用した「イザヤ書」の預言には、次の三つの言葉が出てきます。
「株、根」(RADIX) - 「枝」(VIRGA) - 「若枝(あるいは花)」(FLOS)
このうち「枝」(VIRGA) は単数主格の語形が「処女」(VIRGO) とたまたま似ているために、「イザヤ書」の三つの言葉を次のように対応させるアナロジーが生まれます。
エッサイ - 聖母マリア - イエス・キリスト
さらに聖アンナに関しても、聖母の母として、すべて母性的なるものの根源であるということができます。キリストという「胎の実」(FRUCTUS VENTRIS) を宿した聖母を花であるとすれば、聖アンナはその花が咲く生命の木そのものといえるでしょう。
このメダイは聖アンナと少女マリアを表現したものであるにもかかわらず、「エッサイの樹」に関するイザヤ書の聖句が周囲に刻まれているのには、以上のような背景があります。旧約聖書以来数千年の歴史の重みを感じさせてくれるメダイといえます。
少女マリアは母アンナの前に跪き、母の膝に手を置いています。マリアの背後には、「神による選び」と「純潔」を象徴する白百合が活けてあります。神に選ばれたマリアは聖霊によって身籠り、イエス・キリストを産むことによって、神が計画された救世の器となりました。
跪く少女マリアの足許には、フランスのメダイユ彫刻家ルイ・トリカール (Louis Tricard) のサイン (L TRICARD) が刻まれています。トリカールは20世紀初頭のフランスで活躍し、優れた作品を数多く生み出しています。
上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。メダイの突出部分は幾分磨滅していますが、非常に優れた細密彫刻であることは一見して明らかです。トリカールはアンナを「生命の木」を思わせる威厳ある女性として彫っています。しかしながらアンナは彫像ではなく、生身の女性です。トリカールはアンナの足下に小さな台を置き、椅子に腰かけた姿勢にも動きを与えています。
マリアの少女らしくほっそりとした体つきは如何にも若々しく、衣の下に隠された若い生命力を手に取るように感じさせるトリカールの手腕は驚嘆に値します。上の写真に写っている定規のひと目盛は
1ミリメートルです。母を見上げるマリアの顔は直径 1ミリメートルの範囲に収まりますが、顔立ちが整っているばかりでなく、イザヤの言葉に耳を傾け、神が立て給うた救世の経綸をわがこととして受け止めようとする聡明さが、その横顔に現れています。
メダイの裏面には聖母マリアの象徴である薔薇が花輪の形で浮き彫りにされています。薔薇の花輪はラテン語でロサーリウム (ROSARIUM) といいますが、これはロザリオと同じ言葉です。ロザリオは祈りの回数を数えるための道具(数珠)ですが、もともとは聖像に被せる花の冠であったと考えられています。
本品には八輪の薔薇が彫られています。「七」は天地創造が完了するのに要した日数ですが、「八」はその次の数であるゆえに、新たな始まりを象徴します。人祖アダムの妻エヴァは原罪によって人間に死をもたらしましたが、新しきエヴァであるマリアは救い主を生むことによって人間に生命をもたらしました。棘の無い「奇(くす)しき薔薇」、ロサ・ミスティカによって、世界は新しい時代に入ったのです。トリカールは八輪の薔薇を彫ることによって、受胎告知を受け容れ、すなわち救いを受け容れて、新しきエヴァとなったマリアを賛美しています。
上の写真に写っている定規のひと目盛は 1ミリメートルです。薔薇の直径は 2ミリメートルに過ぎませんが、トリカールは一輪一輪異なる花を丁寧に彫っており、生花のような瑞々(みずみず)しさと香(かぐわ)しささえ感じさせる出来栄えです。
本品は百年以上前のフランスで制作された真正のアンティーク品です。20世紀初頭の銀無垢メダイはとても高級な品物ですが、本品は銀無垢であり、特に大切にされてきた品物であることは容易に想像できます。最も突出したアンナの顔部分に磨滅が見られますが、全体的にみれば細部まで良く残っています。特にマリアの横顔は素晴らしく、優れた美術工芸品に仕上がっています。
本体価格 13,800円 販売終了 SOLD
電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。
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