稀少デッド・ストック品 聖母の青の十字架とビーズ 《パート・ド・ヴェールの美麗シャプレ 全長 54.5センチメートル》 逆さのイニシアルがクラシカルな作例 フランス 1960年代頃


環状部分の周の長さ  76 cm

全長  54.5 cm


突出部分を含むクルシフィクスのサイズ  縦 38.8 x 横 22.8 mm

突出部分を含むクールのサイス  縦 15.3 x 横 14.0 mm


ビーズの長径と短径  7 x 5 mm


フランス  1960年代



 1960年代頃のフランスで制作された聖母のシャプレ(仏 chapelet ロザリオ)。青色のビーズとエマイユ、銀色に輝く金属部分の取り合わせが、無原罪の聖母の清らかさを象徴しています。





 本品のクルシフィクスは、左右対称の幾何学的デザインによるアール・デコ様式のクロスに、別作のコルプス(キリスト磔刑像)を接着しています。コルプスの現代的なデザインはミニマリスムに基づきます。

 ミニマリスム(仏 le minimalisme)は本品の制作年代である1960年代を特徴づける美術思想で、レス・イズ・モア(英 Less is more.)、「より少ないものこそ、より多い」というモットーに要約されます。「レス・イズ・モア」は、一見したところ奇を衒(てら)った言い方ですが、これは「最小限に切り詰めた表現によって、より豊かな内容をあらわすことができる」という意味であって、論理学の言葉に直せば「内包(intention)が少なければ外延(extention)が大きい」、すなわち「定義の内容が少ないほど、定義に当て嵌まる範囲が広い」という当たり前のことを言っています。ミニマリスムは宗教と無関係に生まれた美学上の思想ですが、レス・イズ・モアという考え方は、キリスト教神学における神の観念と見事に一致します。そのためカトリック芸術においても、大は聖堂建築から小は信心具や小聖画まで、ミニマリスムとの親和性を有する美しい作品群が制作されてきました。本品もそのようなもののひとつです。

 本品のコルプスに見られるもう一つの特徴は、クリストゥス・パティエーンス(羅 CHRISTUS PATIENS)、すなわち死せるキリストの姿を写している点です。ロザリオのクルシフィクスに取り付けられるコルプスは、ほとんどの場合、頭部を肩の上に傾け、苦痛に身をよじるクリストゥス・ドレーンス(羅 CHRISTUS DOLENS 苦しむキリスト)を模(かたど)ります。本品はクリストゥス・パティエーンスを採用した非常に珍しい作例です。





 クロスはシンプルなシルエットで、装飾的なパターンを残して彫りくぼめ、凹んだ部分に彫金が施されています。彫金のパターンはあたかも神の愛が光となって十字架交差部から発出するかのように見えます。クロスのくぼみにフリット(ガラス粉)を置いて焼成することにより、エマイユ・シュル・バス・タイユ、すなわち下地の彫金を見せる半透明ガラスのエマイユとしています。

 エマイユの色はブリュ・ド・シエル(bleu de ciel 天空の青)、すなわちスカイ・ブルーです。スカイ・ブルーは、神のおられる天空の色です。本品のクルシフィクスは、どこまでも透明な空の色を、十字架上に受難し給うキリストの姿に重ね合わせることにより、神ご自身が人となって十字架上に救世を成し遂げ給うたという人知を絶するミステリウムを表現しています。青は聖母を象徴する色でもあるゆえに、青色のクロスにクリストゥス・パティエーンスを組み合わせた本品のクルシフィクスは、十字架から降ろされたイエズスの体を聖母が抱きしめるピエタの図像をも思い起こさせます。


 シャプレ(ロザリオ)のセンター・メダルをフランス製でクール(仏 cœur)と呼びます。クールとは心臓、ハートのことです。マリアの頭文字エム(M)を倒立させたクールは、十九世紀のフランス製シャプレによく採用されます。本品のクールは表裏とも同意匠で、十九世紀に制作されたクールから型を取り、倒立したエムを再現しています。打刻による彫金風細工は十九世紀の手仕事を十分正確に蘇らせており、シャプレ全体にクラシカルな薫りを添えています。

 シャプレ(ロザリオ)で祈る天使祝詞(アヴェ・マリア)は神との対話であり、神による救いを受け容れる信仰の象徴です。公教会がマリアに高い地位を与えるのは、救済史における聖母マリアの役割を重視するからです。すなわち神は救いを強制せず、マリアはカイレ(希 Χαῖρε メシアの誕生を予告する言葉)と語りかけられたのに対して、「お言葉通り、この身に成りますように」と答え、自由意思によって救いを受け容れました。それゆえ本品のクールはマリアの信仰の象徴です。





 クール(心臓)は愛の座です。現代においても、クール(ハート形)は愛の象徴とされています。愛する人の左手薬指に指輪を嵌めるのは、心臓と左手薬指を繋ぐウェーナ・アモーリス(羅 VENA AMORIS 愛の血管)を縛って、愛を逃がさないためです。それゆえマリアの心臓であるロザリオのクールは、聖母の汚れなき御心(羅 IMMACULATUM COR)、すなわち神とキリストに向かう混じりけの無い愛を表します。また聖母はキリスト者の鑑(かがみ 手本)ですから、本品のクールは聖母の執り成しと援けによって神とキリストに向かう信徒の愛をも表しています。

 人間のプシュケー(ψυχή, ANIMA, âme, soul 霊)とプネウマ(πνεῦμα, SPIRITUS, esprit, spirit 魂)は分けて考えられます。これら二つのうち、宗教心を司るのはプシュケー(霊)であると考えられています。しかるに神と繋がるプシュケー(霊)の座とは、心臓に他なりません。「詩篇」五十一篇十九節、及び「エゼキエル書」三十六章二十六節において、心臓はプシュケー(霊)と同一視されています。シオンは世界の心臓であり、エルサレム神殿はシオンの心臓と呼ばれていましたが、神のいます至聖所こそがエルサレム神殿の心臓でした。キリスト教の聖堂建築においても、十字架形平面プランを有する聖堂において、主祭壇の位置は受難するキリストの心臓がある場所と一致します。これらの事からも、心臓が宗教心、信仰を司るプシュケー(霊)の座と見做されたことがわかります。

 さらに心臓は、生命の根本に一層近いプネウマ(魂)の座、あるいは生命の座でもあります。血液循環の発見者として名高いウィリアム・ハーヴェイは、1628年の著作「諸々の動物における心臓の動きと血液に関する解剖学的考察」("Exercitatio anatomica de motu cordis et sanguinis in animalibus")において心臓をマクロコスモスにおける太陽に喩え、「生命の基礎、すべてのものの作出者」(fundamentum vitae author omnium)と呼んでいます。本品シャプレはクールをマリアのエムに造形し、聖母の汚れなき御心を象らせることによって、神とキリストに向かう愛こそが霊の糧(かて)、プネウマ(魂)の糧、生命の糧であることを視覚的に表現しています。クールが心臓であるならば、環状部分のビーズは心臓に賦活されつつ循環する信仰生活の血液に他なりません。





 ビーズの長径は七ミリメートル、短径は五ミリメートルで、十九世紀に再現された古代ガラスの技法パート・ド・ヴェール(仏 pâte de verre) によって制作されています。パート・ド・ヴェールはそれ自体がたいへん手間のかかる技法ですが、さらに本品では十八面のファセット(切り子面)を有します。それぞれのファセットはシャトヤンシー(キヤッツ・アイ効果)を思わせる柔らかな光の線を描き出します。

 本品のファセットは型に流し込んで作ったのではなく、機械で自動的にカットしたものでもなく、カット職人がひとつひとつのビーズを手作業で研磨しています。本品の制作年代は 1960年代頃で、比較的新しい時代ですが、近代(ベル・エポック期以前の時代)と同様の手間をかけて制作されています。





 上の写真は本品を男性店主の手に載せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりも少し大きめのサイズに感じられます。

 本品は五、六十年前に制作された真正のヴィンテージ品ですが、未販売の状態で残っていたために、新品そのままの保存状態です。クールにみられる十九世紀風の繊細な細工と、クロスに施されたエマイユ・シャンルヴェ、フランスの第一の守護聖人である無原罪の御宿り(聖母マリア)及びフランスそのものを象徴する青色が響き合い、いかにもフランスのロザリオらしい美麗な作例となっています。

 本品は未使用品ですが、チェーン一か所が脆弱であったため、丈夫なリンクに置き換えました。補修箇所は商品写真に写っていますが、美観上の影響はまったくありません。補修対象となった箇所以外に脆弱な部分は見られませんでしたが、将来仮に破断が起こっても当店にて補修対応が可能です。安心してお買い上げ、ご愛用くださいませ。





本体価格 18,800円 販売終了 SOLD

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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