巧みに表された聖性の光 《ノートル=ダム・ド・フルヴィエールとイエス・キリストの聖心 直径 15.3 mm》 リヨンの黒い聖母のメダイ フランス 1920年代


突出部分を除く直径 15.3 mm




 一方の面にイエスの聖心を示すイエス・キリストを、もう一方の面にノートル=ダム・ド・フルヴィエールを、いずれも細密な浮き彫りで表したフランスのメダイ。いまから九十年ないし百年前に制作された真正のアンティーク品です。





 メダイの一方の面にはイエス・キリストの上半身を浮き彫りにしています。十字架のある後光を戴くキリストは、愛に燃える聖心を左手で指し示しつつ、右手を挙げて祝福を与えています。両手に開いた大きな孔は、受難の際の釘による生々しい傷です。十字架を突き立てられ、茨に巻きつかれて血を流すイエスの聖心は、あまりにも激しい愛ゆえに、炎を噴き上げて燃えています。





 聖心を示すイエスを浮き彫りにしたメダイには、多くの種類があります。本品浮き彫りの特徴は、宙に浮かぶ光背が巧みに表現されていることでしょう。

 光背或いは後光とは、聖なる人格的存在の背後に図像化される光で、聖性の可視化に他なりません。ヒッポのアウグスティヌスが言ったように、古代から中世の思想において、光は神に由来する唯一の可視的なものです。それゆえ聖性を目に見える形で表現するなら、光を以て表現するほどふさわしい方法はありません。





 定型化が進んだ宗教的図像において、光背はしばしば明瞭な輪郭をもって表されます。とりわけ丸彫り像(完全な三次元性を備えて自立する像)の場合、光背はソリッドな物体として表現されざるを得ません。しかるに現実の光は電磁波ですから、はっきりとした輪郭を持ちませんし、そもそもひと所に留まるものではありません。それゆえ明瞭な輪郭を持つ光背は、写実性を犠牲にした定型的表現であると言えます。

 そもそも光背は図像表現の約束に基づく象徴であって、聖人を眼前にしたからと言って実際に見えるものではありません。しかしながら、だからと言ってソリッドな物体のように描くならば、それが神に由来する光であると感じられなくなり、聖性を実感できなくなります。





 聖心を示すイエスのような象徴的宗教画は、史実の記録ではありません。それゆえ聖性の象徴である光を可感的な光(電磁波の光)とそっくりに再現する必要があるのかという疑問も起こりえます。これは要するに目に見えない宗教的価値を、可感的事物の形象を通して表現することが妥当であるかという問題に行き着きます。

 思想的・宗教的立場や議論の水準により、この問題に関しては多様な意見があり得ますが、筆者(広川)は可感的事物を通した宗教美術の表現を必ずしも排除しません。なぜならば別稿で論じたように、質の高い作品を制作する芸術家の知性は、事物の可感性を超えたところにイデアあるいはエイドスを見出す哲学者の知性に比べても、その能力において何ら遜色が無いと筆者は考えるからです。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。

 光背がソリッドな円盤のようになって光らしさを失うならば、そこに聖性は実感できません。しかるに本品のメダユール(仏 médailleur メダイユ彫刻家)は絵画的彫刻と呼ばれる浮き彫りの特性を最大限に生かして、空間に融け込むが如き聖性の光の表現に成功しています。





 もう一方の面にはリヨンの黒い聖母、ノートル=ダム・ド・フルヴィエールを浮き彫りにしています。

 ノートル=ダム・ド・フルヴィエールのバシリカ(Basilique de Notre-Dame de Fourvière/Fourvières)は、リヨン市街を見霽(はる)かす丘に建つ有名な聖堂です。この聖堂の聖母像としては、リヨンの彫刻家ジョゼフ=ユーグ・ファビシュ(Joseph-Hugues Fabisch, 1812 - 1886)による金色の聖母が有名で、アンティークメダイにもよく彫られています。ファビシュの作品は聖母の単身像で、十九世紀半ばに改築されたバシリカの鐘楼上に据えられています。





 ファビシュの聖母像がメダイの図柄としてよく採用される理由のひとつに、年代が挙げられます。ファビシュの聖母像が祝別されたのは十九世紀半ばの 1852年ですが、これはフランス社会にメダイが普及し始めた時代でもありました。それゆえファビシュの聖母像の優れた出来栄えと相俟って、少なくともアンティークメダイの世界では、バシリカの鐘楼頂上で金色に輝くリヨンの聖母が良く知られています。





 しかしながらリヨンのバシリカがノートル=ダム・ド・フルヴィエール(Notre-Dame de Fourvière/Fourvières フルヴィエールの聖母)と名付けられているのは、このバシリカが同名の聖母子像に捧げられているからです。聖母子像ノートル=ダム・ド・フルヴィエール(フルヴィエールの聖母)は十六世紀の黒い聖母で、鐘楼上ではなく、バシリカの内陣に安置されています。





 本品に浮き彫りにされているのは、内陣に安置されたノートル=ダム・ド・フルヴィエールです。聖母子はローマ風の衣を着け、ともに戴冠しています。左腕にイエスを抱く聖母は、右手に女王の笏を持ち、首には十字架を掛けています。幼子イエスは左手にグロブス・クルーキゲル(十字架付きの球体)を持ち、全宇宙を統宰する権威を示しています。聖母子の左右では二人の天使が大きな王冠を中空に支え、聖母子の足元ではふたりのプッティあるいはケルビムが書物を支えています。聖母子と天使たちを包む雲は、彼らが天上にあることを示しています。





 上の写真に写っている定規のひと目盛りは、一ミリメートルです。聖母子、天使、プッティの顔は直径一ミリメートルに満たないにもかかわらず、目鼻がきちんと表現されているのみか、表情もわかります。拡大写真で見ると浮き彫りの突出部分の摩滅が判別できますが、メダイの実物を肉眼で見ると充分に細密で、百年近く前の品物であることを考えれば充分に良好な保存状態です。





 上の写真は本品を男性店主の手に乗せて撮影しています。女性が本品の実物をご覧になれば、写真で見るよりもひと回り大きなサイズに感じられます。







 本品の浮き彫りは二面とも優れた出来栄えですが、聖母子像は丸彫り像を写したものであるゆえに、とりわけ大きな三次元性が感じられます。浮き彫りの突出が大きいと摩滅しやすいですが、本品は細部までよく残り、小さなサイズを超えた芸術性を備えています。アンティーク品ならではの重厚なパティナ(古色)に被われた本品は、直径 15.3ミリメートルと小さめサイズゆえにどのような服装と合わせても邪魔にならず、日々ご愛用いただける古美術品となっています。





本体価格 9,700円

電話 (078-855-2502) またはメール(procyon_cum_felibus@yahoo.co.jp)にてご注文くださいませ。




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